第1章 プロローグ ……で逢いましょう②
「いや、だってこれ、12月25日って書いてある」
すべっタローは右上の日付を指さした。確かに12月25日とは書いてあるが……。
「お前……その日付はそのサイトの更新日だ」
大河は息を吐き出しながら言った。もう、何も突っ込むまい。
その時、車の後部座席から髪の青い……音環があくびをしながら出てきた。
「ここ、どこだよ」
音環がもう一度あくびをしようとした瞬間。大きな波しぶきが音環を直撃した。
「うべっ!」
幸い、全身が濡れることはなかったが、大きく息を吸い込んだ拍子に塩水が口の中へ入ってきた。ぺっ、ぺっ。塩水を吐き出し、むせる音環を見て空河は笑い出した。
「音環……それ、基本のギャグ……」
「あん?笑うなよ!」
口の中が塩辛くて辛い。お茶はないか。お茶は。音環は周りを見渡して自動販売機を探した。……自動販売機すら凍えつきそうな風と雪が音環を襲った。
「……さむっ!で、ここはどこだよ!」
よく大河も空河もだまってここまでついてきたな……。音環は思った。最も、車の中で寝ていた俺が言えることではないが。
「さっきまでめちゃくちゃ天気が良かったんだよ。で、おしゃべりしていたらここについてさ……」
空河が言い訳するように目をそらすと、隣で大河がかばうように大きくうなずいていた。……大空兄弟め!
「YouTubeで楽曲を上げるためにMVを撮ろうって話だったろ。で、すべっタローがお勧めのところがあるからって言うから任せていたんだ」
大河はすべっタローの持っていた写真を奪うと音環に見せた。続けて、確かにこのかっこじゃ寒いな。とつぶやいた。
はぁ。まじかよ……。大きなため息をつきながら音環は言った。
「昨日、すべっタローと話をしたときは奥入瀬渓流に行こうとしていたんだ」
えっ。大河と空河はすべっタローを見た。
「緑が瑞々しくていいだろ、とな。だから言ったんだ。それは夏のだ。写真を見るなら日付もみろ、とな」
まじかよ……大河と空河は顔を見合わせた。そこまで危機管理をしないといけないのか。この男は、遭難することしか頭にないのか?
「まあ……、せっかく来たなら撮らないとな。カズヤは青森らしい場所と言っていたんだろう?何の楽曲を合わせるのか知らないが……まあ、何とか画像と音楽と合わせるだろ」
音環は空を見上げると中途半端な空だな、とつぶやいた。どうせなら晴れるか吹雪くかしてほしいのだが。まあ、仕方ない。さて、ウォレットチェーンをつけるかな、と。
「門亜!始めるぞ!」
音環が後部座席を開けて声をかけた。中から、ええ……寒いのに。とつぶやきながら、紫に髪を染めた男が下りてきた。ちょっと吹雪いたら飛ばされそうな、中性的な顔だちをしていた。
サングラスから黒いレースのアイマスクに門亜が取り替えていると、門亜をめがけてひゅっと雪玉が飛んできた。門亜はぎりぎりでかわして雪玉が飛んできた方向へ振り向いた。
目線の先では空河がゲラゲラ笑っていた。次の瞬間、門亜は空河に雪玉を投げつけると、雪玉は見事に空河に命中した。
それを合図に雪合戦が始まった。門亜と空河にまざって音環と大河も本気で投げつけている。
何だ、文句言っていた割には楽しそうじゃん。カメラを回しながらすべっタローはつぶやいた。俺も混ざりたいんだけどな。そうだ。
「なあ、今度はカメラ誰か回してくれないか。みんなで波打ち際を走ろうよ!」
すべっタローの言葉にうんざりしたような顔を4人は向けた。
「「「「遭難するわ!」」」」
お前がいけ、と大河が押し出した。その瞬間、すべっタローは思いっきり尻もちをついた。底面積の狭い、ヒールでは摩擦が足りなかったようだ。
「あいてて……。」
すべっタローの足元を見た大河は
「お前……スノトレ履いてこなかったのかよ」
あきれ顔でつぶやいた。
よろよろと立ち上がってはすべって尻もちを繰り返すすべっタローに哀れみすら感じ始めていた。
「すべっタロー、その靴で運転していたの?」
レースの奥の、門亜の目がすうっと細くなった。そして、スマホで何処かに連絡をしようとする門亜を音環は慌てて止めた。
「俺が帰りは運転するから!な、な。門亜、その物騒な行為はやめて!」
伯父さんに連絡して、素敵なお足元と、青切符でお伝えしようと思ったのに。残念だなぁ、門亜はつぶやいた。
彼らのバンド「SAKIOTTE」YouTubeデビューは波瀾の幕開けのようである。
プロローグを読んでくださりありがとうございます。
マイペースで進んでいきますのでよろしくお願いします。




