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SAKIOTTE  作者: 群青 ひら
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第6章 樹氷が奏でる津軽道②

――コンビニにはお昼の時間のせいか、車が集まりだしていた。休みのせいか、もっぱら自家用車が多かった。駐車場が広く、トラックも停まっている。これが平日だと、争奪戦だ。


門亜は駐車場にいる車1台1台が気になり出してきた。


さすがにノーマルタイヤはいないけどね。でも東北でも南の方は装着率が90%を切るらしい。ありえない。いつ雪が降るかわからないのに。


その時、駐車場に1台の軽ワゴンが入ってきた。助手席の黄色い上衣が遠目によく見えた。この前の気分の悪い車……まさかね。


その車は、道路側の駐車スペースを探していたようだったが、空きがないとわかるとゆっくりと門亜の乗る車の前にやってきた。そして店側に前止めでつけると、後部座席から男が下りてきて店内へと走って行った。


あれ?ナンバーが違う。じゃ、この前の車じゃないのかな?いや、ナンバーを停めているビスが斜めになっているぞ。


幸い、門亜がいるからとエンジンをかけていてくれた。ドラレコのデータを後でもらおう。スモークが無かったら、車内の様子が見えたのに!


エンジンがかかっているからドラレコが確実に動いている。でもエンジンがかかっているから降りられない。もどかしい気持ちを門亜が抱えていると、運転席のドアが開いて音環が戻ってきた。


「音環!」


門亜は慌てて音環に耳打ちをした。浅虫海岸で見た不審な車がいる。出来るだけドラレコに映したいからこのままでいて欲しい。と。


「ホントは車内の様子を写せたらいいんだけどね……でも、ドラレコのデータだけで十分」


音環は、門亜にしょうがみそを渡すと、少し遅れて戻って来たカズヤに声をかけた。そして、肩を組むと店の前に立った。


「や、ここ久しぶりだろ、お前の黒歴史」


音環はそう言うと、カメラを構えた。そして、組んだ肩をグイっと寄せて、店をバックに自撮りのポーズをした。ピンときたカズヤは音環に合わせた。


「やめろって!」


「ほら、上手くカウンターの中写ってる。またバイトしていてよかったね。記念にあげるよ」


わいわいと、騒ぎながら音環とカズヤは車に戻った。そして、車に乗り込むと、音環は後ろを振り向きながらふう、と大きく息を吐いた。


「カズヤ、前の車が出たら教えて。俺、ちょっと心臓がどきどきしてる」


「僕もだよ。よくあんなことを考え付いたね。度胸があると言うか何というか」


門亜は、2人の様子にもしかして、と言う顔をした。


「門亜、説教は後。とりあえず、あの車が出るまで、俺たちは帰省した友だちをいじる悪友をしないといけない」


門亜はうなずいた。そして。


「あのね。箸がない」


と言った。箸もかよ!瞬間、大爆笑がおこった。

音環は片手で頭を押さえると、ダッシュボードを開けるように言った。箸が出てきた。


「あー。でも緊張が解けたような気がする」


「僕もだ」


運転席の背もたれに前のめりで寄りかかりながら音環はカズヤと目を合わせた。その時だった。汁をすすっていた門亜はどんぶり越しに音環を見た。


「このおでん、味しないんだけど」


門亜はぼそっと言った。


「味しないんだからね」


もう!責任取ってよね!そう言いながらはんぺんにかぶりついた。黙々としょうがみそを付けてはパクパクと食べて行く。味がないなんてありえない。門亜、相当怒っている。


「あっ。ブレーキランプがついた。多分、出るよ」


カズヤが小声で言った。門亜はさりげなくどんぶりに口を付けたまま車に目を向けた。


軽ワゴンはゆっくりとバックをしながら切り返した。そして運転席の男がちらり、と音環を見た。門亜は少し目線を外しながら男を観察した。音環は下を向いてスマホを操作するふりをした。


軽ワゴンはそのまま、バイパスへと走り去っていった。


「ふう。今になって鳥肌が立ったよ。あ、門亜、写真のデータを送るよ」


音環はLINEを開いた。そして写真を選択して送信しようとしたが指が震えて上手く操作が出来なかった。その様子を見た門亜が言った。


「あのね……これはボクたちの仕事。何でそう危険なことをするの?」


滅多に聞かない、門亜の低い声だった。


「いつも音環が先にやってしまう……」


帰る!と門亜は言うと、助手席にどんぶりを置いて外に出た。


ふう。音環はため息をついた。だって、休みの日と言ったって警察官が市民を探るなんてできないじゃないか。ましてや写真を撮るなんてできないだろう?


音環は押し損ねていたLINEの送信ボタンをとりあえず押した。そして、助手席に置かれた空のどんぶりを袋に入れた時だった。門亜が戻ってきた。


「ドラレコのデータは頂戴ね!」


そう言うと、再びバス停に向かって歩いて行った。


なんだろう。この感覚。潮時かな。


音環は黙ってドラレコからmicroSDカードを撮りだすと、スマホに差し込んでデータを確認した。


ナンバーと車の外観がはっきり写っている写真があればいいだろう。いったんデータをスマホに保存すると、これもLINEで門亜に送った。


じっと音環のすることを見ていたカズヤは言った。


「門亜……どうしたんだろう」


「……さあ」


興味がない、と言う風に音環は答えた。


しばらく、沈黙が車の中を覆った。とりあえず音環は買ってきたサンドイッチの封を開けた。そして、コーヒーにミルクを入れると口に運んだ。


「前に行ってもいい?」


カズヤは言った。音環はうなずくので、後部座席を出ると前に回った。そして、おにぎりのラップをはがすと、黙々と食べ始めた。


「これから……どうする?もう少し撮るなら車出すけど」


サンドイッチを食べ終わった音環はカズヤに尋ねた。


「いや……。今日はだいぶ撮れたからいいかな。そうそう。ホントはどこかでお茶を飲みながら、って思っていたんだけど、今ここでいいかな?」


ん?そう言えばさっき、ちょっと後で話できないか、と言っていたな。ああ。構わない、と答えると、カズヤは一旦静かに深い呼吸をした。


「僕と一緒に……東京に来ないか?」


音環は静かにカズヤの目を見た。カズヤはまっすぐに音環を見ていた。


「僕の所属する、YouTubeの音楽グループの先輩が音環のこと話したら興味持ってさ。……ううん。はっきり言うよ。音環、お前は天才だ。音楽の才能をここで埋もれさせたらもったいないんだ」


確か……大学の時も誘われたな。嬉しくないと言えばウソになるが……カズヤ、お前は俺を知らないだろ。


黙ったままの音環にカズヤは言った。


「すぐに返事とは言わないけど、でも前向きに考えて欲しい」


音環は、ああ、とだけ答えた。


お付き合いをくださりありがとうございます。

この章は次で終わりです。

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