↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAKIOTTE  作者: 群青 ひら
13/37

第5章 閑話休題 ごはん・ごはん・ごはん ―2・煮干しラーメン①

にぎやかでいいなぁ。


平日の夕方のショッピングモールは、ちらほらと仕事帰りの人が訪れだしていた。解放されたような顔、夕飯の食材を買うちょっと急いだような顔、そして、友だちとはしゃぐ声……。すべっタローは人とすれ違うたびに振り向いた。


1時間くらい、店を回りながらうろうろしただろうか。すべっタローはスマホを取り出すと通話履歴から大河の電話番号を探し出した。


「出るかな……」


スマホの通話履歴には、音環にかけた発信履歴がいくつも残されていた。


5・10日じゃないのに、なんで出ないんだろう。


グループメッセージで『煮干しラーメンを食べに行かないか』と誘った時は、メンバー全員から『今日は空いていない』と返事があった。だから、今日は直接電話しているのだけど……。


「あ、大河?ラーメン食べに行かないか?」


電話の先では大河から困ったような声が返ってきた。


「ごめん。今日は空かない」


やっぱり今日も断られた。すとん、とすべっタローは近くのベンチに腰を掛けた。


「空河は?」


「空河も難しいかな……。テストが近いんだよ」


申し訳なさそうな、大河の声が続いた。すべっタローは気にしないで、というかのように軽く答えた。


「ふーん。小学校も大変だな。気をつけてな」


「ごめんな」


電話が切れた。心の中が暗くシン、と冷えた。門亜は当直だから、誘えないし……これ以上断られたら、オレ、消えてしまいそうだ。


モールを出てとぼとぼ歩いていると、ここしばらく通い詰めている煮干しラーメンのお店が見えてきた。煮干しで出汁が濁るまで煮詰める、味の濃いスープが特徴である。


「おじちゃーん、今日も音環たちにフラれちゃったよぅ」


美味しいのになぁ。なんでだろ。とつぶやくとカウンター席に座った。チャーハンも付けてね。とすべっタローが言うと、中から


「今日も来たのかい。嬉しいけど、食べすぎじゃないか?」


と心配そうな声が飛んできた。


「農家もボーカルも体力が仕事だから、たくさん食べないと!煮干しはオレの力の源なんですぅ」

最後は歌うように言った。おじちゃん。今日も温かいなぁ。


言うねえ、と店主の声が聞こえた。続いてボシュッ、とガスに火が付く音がした。


チャーハンは火力が強くないとパラパラ言わないよね。


すべっタローの耳にはあっという間に高温になった油で、炒められるご飯が爆ぜる音が聞こえて来た。続いて、中華鍋とお玉がぶつかる音がした。


いったん音が止まると、ねぎを入れ、またリズムを刻むように中華鍋をお玉で叩く音が続いた。音が止まると事前に刻んである具材が入り、そして再び中華鍋をお玉が叩いてリズムを刻む。


つい、チャーハンを頼んでしまうのは、このリズムを聞きたいからなのかもしれない。でも、しっかり食べてしまうけど。


ココココン、と軽くたたく音が聞こえて来た。もうこのリズムも終わり。チャーハンが出てくる。


「お待ちどう。ラーメンはすぐに出すからね」


と言ってカウンターにチャーハンが乗った。たくさんの湯気が上に伸びている。ほんのり玉子がきつね色に染まっていた。


「いただきます」


すべっタローがレンゲでチャーハンの山のふもとからご飯をすくい上げると、中からも湯気が上がった。


そのまま口に入れると、熱さと一緒にいろんな味が油でまとめられてなだれ込んできた。SAKIOTTEもみんな尖ったままどこかになだれ込んでいければいいのにな。


高校の時は、何をやってもよかった。カズヤはよく音環をあおっていたし、音環はムキになっていた。


ひと月近く高校に来なかったこともある。後で聞いたら、上野駅の駅前で弾き語りをしていたらしい。


門亜の目線当ても楽しかった。大体カズヤと音環が答えを当ててしまうから、もっぱら大河と空河と3人で、門亜の目線から何が言いたいかを当てていた。その中ではオレが結構当てていて昼のパンをせしめていた。オレ、大河によく怒られていたけど、大河は音環によく怒られていたな……。


大学では別々になってしまって、活動も高校ほどでは無くなってしまった。カズヤと音環は宮城、門亜は八戸に行ってしまったからなおさらだった。


たまに、弘前のライブハウスで演奏をしたけど……その頃からかな。みんなの中で24時間365日、音楽だらけにならなくなっていったのは。みんな帰ってきて、落ち着いた今また始まったけど……それでも音楽が一番じゃなくなったのは変わらない。


「すべちゃん。ラーメン上がってるよ」


店主の声に、すべっタローは慌てて顔を上げた。


いつもなら、チャーハンの皿は空になっているのに、今はまだ半分残っていた。すべっタローはチャーハンの乗っている皿を少しずらすと、どろどろに濁った煮干しラーメンを右に置いた。


「今日はどうしたんだい。上の空じゃないか」


店主の言葉に、すべっタローはつぶやいた。


「誘ってもみんな仕事が忙しくて、来てくれないんだよね……なんかオレ、置いてけぼり」


そう言うと、勢いよくラーメンをすすった。


「こんなに美味しいのに……」


ぷくっ。頬を膨らませようとしたが、ラーメンが邪魔をして上手く膨らませられなかった。そんなすべっタローの様子に、店主はふと、聞いてみた。


「カズヤさんは今度いつ帰ってくるの?」


「ん-?週末、土日に帰ってくる」


ん?なぜ?いきなり?


「そうかい。じゃあ、土曜日にまた来なよ。うちも第2第4土曜日は営業することにしたからさ」


店主はすべっタローの目をじっと見て、ニカッと笑った。つられてすべっタローも笑った。今度の土曜日か。今度こそ来てくれるといいな。


2 煮干しラーメンも二つに分かれます。

よろしくお付き合いくださいませ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。