3―21 北部の異変対応 その二
その後もなんだかんだとクロイム・サイルズと話し込んだが、結局は彼と一緒に王宮へ出向くことになったよ。
最初に怒れる貴族と迷う貴族どもを宥め、更には、王家にモナルク族との交渉を提唱するためだ。
うまく行くかどうかはわからないな。
武断派と呼ばれる連中は、何か事あれば、まずは武力に訴えようという脳筋連中だからね。
まぁ、それだけではなく戦略や戦術面では狡猾なところもある連中ではある。
但し、僕とクロイム・サイルズが彼らを説得しようとした場合、積極的には戦いに賛成しない大公と公爵達も、僕達が消極論を展開すると、それに反対するだろうという読みがある。
それこそ、譜代貴族の矜持という奴で平民上がりの貴族に、自分たちの行動を左右されたくないというつまらない感情論から反対することになるだろう。
生憎と僕は、派閥と呼べるほどの勢力は持ち合わせていない。
貴族の中で友誼のある者が多少は居るというだけの話である。
多くの場合、そのような貴族は中立派であって、勢力的には弱い存在だ。
世の中決して派閥の理論で動いているわけでは無いのだが、その最上位の存在である筈の王家はその派閥勢力の意見も無視できないのである。
そのような意味では絶対君主制とは少し違うのかもしれないな。
但し、「船頭多くして船進まず」の諺があるように、自己の利益や栄達を望むために国王をうまく動かそうとする輩がやたらと多いんだ。
これだから貴族って奴は嫌いなんだが・・・・、自分も貴族になってしまったことが有る意味で煩わしいよね。
まぁ、どうにもならないようであれば、奥の手を出す覚悟もしているんだが、それは今の段階では、クロイム・サイルズには内緒だな。
◇◇◇◇
その日の午後になって、僕とクロイム・サイルズは揃って王宮に参内したよ。
因みに、王宮の中では、御前会議が催される寸前だったんだが、例の武断派が宰相を動かして御前会議を開催するよう求めたらしい。
但し、僕のところにはその通知も来ていなかったな。
僕が王宮に参内すると慌てて宰相が僕のところにやって来た。
「おお。ちょうどよい処へ、リック卿も参られましたな。
これから卿のところへも午前会議の開催についてお知らせしようと思っていたところなのです。」
愛想のよい笑みを浮かべながら、どちらかと言うと大公派閥に傾いている宰相がそう言うのだが、これは嘘なんだ。
御前会議の開催がほぼ決まった時点で、『ブラッセルマン公爵には、会議が始まってから通知を出せばよいだろう。』と宰相が言っているのを妖精sが確認している。
大事な会議に、平民の公爵が遅れたという失態を招くために、小細工を弄したのである。
この際に、『当方には通知が無かった。』と言っても、『おや、通知は出していた筈ですが、どこぞで手違いでもありましたかな。』と、とぼけるつもりであったようだ。
まぁ、程度の低い嫌がらせの類なんだが、別の機会にやり返されるかもしれないということをほとんど考えていないのが貴族らしい思考だな。
こんなのが良く宰相を預かれると思うが、そう言えば、僕を幽閉したのもこれらの国王取り巻きの連中だったな。
まさしく魑魅魍魎の世界なんだが、本当に困った奴らだと思うよ。
権力闘争に明け暮れ、隙あらば、国王を意のままに利用しようと手ぐすね引いて待っている奴らだかね。
僕の見るところ、大貴族の中に本当の忠臣と言うのは、どうも少ないようだね。
むしろ中位の貴族にそのような人物が多いように感じているよ。
要すれば、そ奴らの首のすげ替えもできないわけじゃないけれど、僕がそんなことをしても余りメリットが無いし、それこそ自己利益のために力を使ったと見られるのも嫌だな。
あぁ、首のすげ替えっていうのは、物理的に胴体から首を離すことを念頭に置いているよ。
隠居させたぐらいじゃ、後を継ぐ者のフィクサーになってこれまで通りのことをやるだろうから、実際に舞台を完全に降りてもらわねばならないんだ。
但し、国の混乱の元だからそうそう簡単にはしないよ。
一方で、僕の立場なんだけれど、公爵としても本当に国が危うい場合には助け船を出すけれど、国王として或いは父としてさしたる実績もない父親には、左程の親愛の情も無い。
むしろ多くの国民が困る事態になればそれを救うことの方が僕の仕事だろうと思っている。
その中には、阿呆な貴族が指揮する真面目な大勢の兵士も当然に含まれる。
クロイム・サイルズは、そんな僕の心づもりを知ってか知らずか、飄々としているね。
彼の場合、種族の違う短命なヒト族を観察し、助言するのがある意味で趣味であり、楽しいみたいなんだ。
幼い子供を見守る大人のような感覚なのかな?
そんな中で、例外的にヒト族とは思えないほどの魔力を持っている少年を見出して、とても興味を持ったようだ。
だから滅多にないことながら、エルフの友扱いで僕とは接してくれている。
仮に、王国が相当にやばくなっても、彼としては王国を助けるために自ら動こうとはしない筈なんだ。
無論、王家相談役として、相談を受けたらそれなりの助言はする。
それが彼の役目であって、その助言の結果が悪い方向に動いたとしても、それは助言を受けて最終的に判断を下した者の責任と割り切って考えている。
但し、僕に関しては、かなり、いや、必要以上に世話を焼きたがるようだね。
これが森の民とも呼ばれるエルフの性格なのかどうかは不明だ。
でも、何せ前任者は、幽閉されている僕のことを知りながら、なんら相談されなかったので、無視を決め込んだみたいだな。
尤も、当該前任者が仮に処遇を聞かれたにしても、まともな助言を行ったかどうかは疑わしい。
性格的にヒト族の掟や習慣には関与しないというのが、彼の持論だったようだから・・・。
古い話を持ち出しても、仕方がないよね。
今は、目前の御前会議でどのように発言するかだ。
あぁ、王家相談役のクロイム・サイルズも当然のように午前会議には出席する。
国王から何事か相談を受けた場合にすぐに対応できるようにするため、いついかなる場所にでも国王が存在する公的な場なら、彼も自由に立ち会う権利があるんだ。
その割に、自己都合で結構王宮から出かけていることも多いんだが、何となく意のままに動いてくれないペットの猫のような雰囲気だな。
前世の実家で15年も飼われていた黒ブチの猫がいたんだが、何となくそれを思わせる雰囲気があるんだ。
まぁ、知性があるだけ猫とは明らかに違うんだけれどね。
因みに、この猫の名前は「ハチ」とつけられていたよ。
きっとハチワレからきていたんだろうと思うんだが、僕が高校に行っている間に、ふいっと居なくなり、一月後、線路脇で死んでいるのが見つかった。
『もしかすると死期を悟って自ら出て行ったのかもしれないね』とは、僕の母の言葉だった。
◇◇◇◇
僕とクロイム・サイルズは、宰相の案内で、御前会議の場に入ったよ。
既に大公と公爵が居並んでおり、僕は初任の公爵なわけだから、当然のことながら先任の公爵が上で僕は末席だね。
僕らが席に着くと間もなく、国王陛下の御成りの先触れがあり、僕らは立ち上がって国王の入場をお迎えする。
国王が、会議場に入室し、上座に座ってから、僕らも腰を下ろすんだ。
宰相が儀礼通りに御前会議開催の宣言を為した。
「グランザスク公爵殿より発議があり、過日ツェンバッハ伯爵の領都であるクツェンベルクが、蛮族たるモナルク族により不当な攻撃を受けて全滅した一件につきまして、国軍による討伐の可否をお伺いするための審議上申があり、国王陛下より審議を認める旨の詔勅を頂いたことにより、急遽この会議を開催することになりました。」
国王陛下が、特段の発言を為すまでも無く、ゆっくりと頷いた。
宰相の言葉が正しいと認めているのであろう。
「では、事の発端について、現在分かっていることを、当事者であるツェンバッハ伯爵より説明をさせたいと存じます。
陛下、ツェンバッハ伯爵の入室をお許し願えますか?」
国王陛下が、大仰に頷いて簡潔に言った。
「許す。」
宰相が頷いて侍従にサインを送ると、会議室のドアが開けられ、ツェンバッハ伯爵と思しき者が入って来た。
伯爵は、テーブルの国王陛下と対面する位置に進み出て、恭しく臣従の挨拶をなすが、この御前会議においては、伯爵にはテーブルの席は与えられないのでそのまま立って説明をする。
説明が終われば、関係者として壁際に用意された椅子で傍聴することは許されているのだが、特に求められない限り発言は許されない。
「御命により、我が領地のクツェンベルクがモナルク族の非道な攻撃に会い、ほぼ壊滅した状況に着き、現在分かっている状況を申し上げます。
それから長々と説明があったものの、要点としては、
ある日突然、モナルク族が100名ほどの戦士を引き連れてクツェンベルクの門前に現れたこと、
モナルク族からは金品と人の要求をなし、これを断ると、無体にもクツェンベルクに大魔術で攻撃を為し、この結果クツェンベルクの街は炎に見舞われ灰燼と帰したこと、
クツェンベルクに残っていた者で生存者はいないこと、
たまさか、攻撃の前にクツェンベルクを出た者が数十名おり、その者達が近郊の村から、クツェンベルクの上空に巨大な魔法陣が出現し、クツェンべルクが攻撃されたのを目撃していたこと、
王都のツェンバッハ伯爵の元へは、この生存者から第一報が入ったこと、
現在、王都の領軍騎士を派遣せしめ、近隣の村人と共に、生存者がいないかどうか捜索を続けているものの、生存者発見の報は無いことであった。
但し、当該説明では、何故モナルク族から金品と人が要求されたのか、また、何故にいきなり攻撃を受けるような事態に陥ったのかは不明のままであった。




