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転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?  作者: サクラ近衛将監
第三章 貴族として

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3―20 北部の異変対応 その一

 ハーゲン王国の北部地域にあるツェンバッハ伯爵領の領都クツェンベルクに対するモナルク族の攻撃は、そのまま、王国に対する敵対行為と見做されでおり、貴族たちの間では「モナルク族を討つべし」との意見が大勢を占めつつあった。

 賛成者が絶対多数と言うわけでは無いのだが、明確に反対する貴族が居ないという状態のようだ。


 一方で、僕は妖精sが収集した情報から、ツェンバッハ伯爵家臣団の蛮行を知っているので、ある意味でモナルク族との戦は大義が無いと思っている。

 実際問題として、部族長は、クツェンベルクを攻撃する前に、殺人者の引き渡しを求めていた。


 それに対して、二日もあった期限内に、有効な返事をしなかった領軍騎士団に責任の大半がある。

 まぁ、だからと言って、クツェンベルクの住民を含めて大量殺戮を引き起こしたことはいただけないな。


 僕が出張って、モナルク族を虐げることは可能かも知れないけれど、それが結末となるべき未来図ではないと思うんだ。

 ハーゲン王国の意向として、モナルク族と話し合うつもりがあるかどうかが問題なのだ。


 国同士(一方は国としては認められてはいないかもしれないが)の戦争は始まってしまえば、道理も理屈も吹っ飛んでしまう。

 おそらくは、モナルク族の放つ魔法?魔術?は、かなり強力であり、ハーゲン王国の軍団にとっても脅威になるはずなんだ。


 だから、かつて王国の領域を広げようとしてモナルク族の領域に侵攻し、大きな損害を生じて撤退した経緯があるんだ。

 しかも、モナルク族は前世のアメリカ・インディアンと同様に、広い高原の領域を占めている部族の総称であり、今回クツェンベルクに出張って来たのは、その中のヤーファリという部族なのであり、他の部族の手を借りずに部族長が部族の戦士だけを集めて引き渡しの交渉に来たのであった。


 かつて、ハーゲン王国の、軍勢が侵略した時は、モナルク族の多数の部族が連合してその大軍勢に立ち向かったんだ。

 その数、実に二万人であり、その半数以上が魔術師らしいのだ。


 ハーゲン王国の軍勢は、かき集めれば8から9万人ほどにもなるが、火力と言う点では、間違いなく劣勢に立たされるだろう。

 むしろ、軍事力で優位な彼らが、これまでハーゲン王国に侵攻してこなかったことの方が不思議なのだ。


 仮に彼らの統一軍団が、占領を望めば、ハーゲン王国は消えることになるかもしれない。

 さてさて、どうしたものか・・・。


 取り敢えずは、困った時の知恵袋で、王家相談役のクロイム・サイルズあてに、妖精sの伝言を頼んだよ。

 伝言を伝えて貰ってから、半時ほどすると、クロイムが僕の王都別邸に現れた。


 僕が王宮に居るクロイムを訪ねても良いのだけれど、周囲が何事かと色めき立つらしいので、僕が王宮を訪ねるのはできるだけ控えるようにしているんだ。

 挨拶もそこそこに、開口一番、彼が言ったよ。


「もしや、クツェンベルクの話かい?」


「ええ、王宮でも大騒ぎのようですね?」


「うん、まぁね。

 武断派で知られているグランザスク公爵派が『蛮族討つべし』と息巻いている。

 同調しているのが、ツェンバッハ伯爵が属しているベリングズ公爵だね。

 どちらかと言うと様子見なのがハンブリ―公爵とウェルベリー大公かな。

 そうは言っても、慎重派も軍勢を差し向けることにっ明確に反対しているわけじゃないんだ。

 (あなど)られてはならんと言う貴族の矜持(きょうじ)があるからね。

 元々、ウェルベリー大公なんかは、現王の足を引っ張るのが仕事のようなものだから、今回の場合、果たしてけしかけるのがいいか、手を出さない方が良いのかを決めかねているというところだろうね。

 仮に大公が軍を出すと、自分にも火の粉が跳ね返ってきそうだし、かといって過去の事例では、大軍を差し向けたけれど、大きな損害を出して見事に追い払われたからねぇ。

 北の高原地帯は鬼門なんだよ。」


「因みに、今回の一件は、王宮にはどう伝わっています。」


「うーん、本当かどうかはよくわからないけれど、・・・。

 詳細は不明なんだけれど、モナルク族が金と人を要求し、この要求を無視すると一方的に魔術で攻撃してきたと言うのが王宮に届いた第一報だね。」


「うーん、とても攻撃を実際に受けたクツェンベルクの生存者が居るようには思えませんけれど、もしかして、モナルク族から攻撃予告がなされた時に、危険を感じたので、クツェンベルクから一時的に逃れていた人からの報告でしょうかね。

 モナルク族の一派が、クツェンベルクの住民もろともに殺戮(さつりく)したのは良くないですけれど、今回の事件の発端は、ツェンバッハ伯爵の騎士団の一部が、訓練と称してモナルク族の領域に侵入し、そこに住むモナルク族の一家族を襲ったのが発端です。

 夫は殺され、妻は凌辱(りょうじょく)された上で殺害されました。

 その一部始終を物陰から見ていた彼らの子供が生存していて、部族長に通報したことが発端です。

 彼らの部族名はヤーファリというのですが、その部族長がその殺された一家を含めた部族民の酋長(しゅうちょう)であり、子供から話を聞いた彼は部族の配下を引き連れて、クツェンベルクの門外にまで押しかけて、部族の者を殺した兵士を引き渡せと要求しました。

 応対に出た、伯爵家の領主館の家宰が、『そちらの住民が当方の騎士団に無礼を働いたので罰を与えたようだが、こちらにも非がありそうなので金品で保障する。』という詭弁(きべん)を弄したことが火に油を注ぐ形になったんです。

 それでも、ヤーファリの族長は二日の猶予を与え、殺人犯の引き渡しを求めたのです。

 彼らには仲間の死に対する「仇討」と言う復讐の掟がありますからね。

 ある意味で、その掟に従った正当な要請なんです。

 もしこの要求が通らない場合は、クツェンベルクを火の海にするとその時に予告もしています。

 でも、クツェンベルクには最終判断をすべき伯爵はいなかったし、関係者でもある領軍騎士団幹部は、犯人である騎士たちの嘘の話を否定することも出来ず、時間だけが過ぎて行ったわけです。

 最終的に二日後に時間制限がやって来て、ヤーファリの族長は、犯人引き渡しに応じないお前たちが悪いと言って、攻撃する旨を告げ、その直後に配下達が魔術を行使したみたいですね。

 その結果、部族長が予告した通り、クツェンベルクは火の海になりました。

 エルフの人達ができるかどうかはわかりませんが、彼らが使ったのは概ね百名で共同して魔方陣を発動する大魔法です。

 クツェンベルクの上空に浮かんだ巨大な魔法陣から、無数の火炎弾が投下され、この火炎弾はモノに当たると爆発したので、石造りの建造物でも()たなかったようです。

 仮にクツェンベルクで生存者がいるとしたなら、攻撃の際に地下室等に潜っていた人で、瓦礫(がれき)に埋まっていれば、或いは生きている可能性もありますけれど、外は火の海ですからね。

 その後も生存している可能性は著しく低いでしょうね。

 因みに、部族長が設定した猶予期間中に、領軍騎士団の家族60名ほどが、自分たちの亭主(騎士)の勧めでクツェンベルクから出て、南の最寄り集落に逃れていました。

 当該避難民は、少なくとも魔法陣が上空に出現し、それが魔術を生み出してクツェンベルクを攻撃したことは見ていますが、事前にヤーファリ族の部族長の要求があったことや、そもそも騎士団の一部とはいえ、ヤーファリ族の家族を惨殺したことなどは知らないのでしょうね。

 さて、この一件、どのように措置すべきでしょうか?」


「ふむ、百人規模での共同魔術を行使したのですか?

 エルフでも、そうして共同で魔法を行使するのは極めて珍しいですね。

 仮にできたにしても、精々二人とか三人程度の規模でしょう。

 息を合わせることが非常に難しい手法の筈です。

 それに途中で失敗したら、自分たちに魔法が跳ね返って被害を(こうむ)る恐れもありますからね。

 うーん、と云うことは、仮に討伐軍が出て行ったら、危ないということでしょうか?」


「ハーゲン王国の騎士達に強力な魔法を防ぐ方法があれば別ですが、・・・。

 王宮や王国軍が抱える魔法師の力量がどの程度かはわかりませんが、仮に彼らがクツェンベルクを一瞬のうちに火の海に変えることができないのであれば、モナルク族の方が優位のような気がしますね。

 それと、ハーゲン王国の人々はモナルク族を蛮族と見下し、その詳細を知らないようですけれど、実は、モナルク族と言う種族の名称はありません。

 彼らの中では部族ごとに住む地域が異なり、彼らなりにテリトリーを守っています。

 高原地帯に住む部族は大小取りまとめて約280に及びます。

 ハーゲン王国発祥から既に180年が経ちますけれど、およそ百年前に聖戦と称して、彼らの縄張りに王国軍団8万の軍勢を侵攻させましたが、彼らの部族が大連合を組んで反抗した結果、約2万人規模のモナルク族軍団と8万人の王国軍が衝突、その結果、王国軍は大敗北を喰らって撤退したことが記録としてあるはずです。

 因みに、モナルク側の死傷者は百人未満だったようですよ。」


「ええ、今回の事件があって、私も過去の記録を調べてみました。

 8万の大軍で、生存者はその半数であり、その生存者も大なり小なり負傷を負っていたようですね。

 生憎とモナルク族の負傷者数までは記録に無かったですけれど。

 モナルク族の魔術で敗れたと記録にはありますね。

 ですから、私も相談を受ければ、討伐軍を動かすのはやめた方が良いというつもりでしたが、そんな経緯が有るのであれば、なおさら向こうを攻める口実が減りますね。

 尤も、死人に口なしで、クツェンベルクでどんな口上がやり取りされたのかについては証拠が無いのですけれど、リックに教えてくれる妖精の情報では、客観的な証拠にはなりにくいですよねぇ。

 勿論、私はその話を全面的に信用しますけれど・・・。」


「そうですよね。

 現状では、モナルク族がクツェンベルクを廃墟にしたという事実が残っているだけですが、これまで何の(いさか)いも起こしたことのないモナルク族が、今回なぜ動き、何故それだけで引き上げたのかを確認すべきだと思いますよ。

 さもなければ、絶対にクツェンベルクだけの悲劇では終わらないことになる。

 下手に動くとモナルク族が大挙してハーゲン王国に攻め込んでくる口実を与える恐れさえもあります。

 ところで、武断派の連中は、本当に自分達だけでどうにかできると思っているのでしょうか?」


「いや、まぁ、彼らが単独で動くつもりは無いでしょうね。

 そもそも、モナルク族の居住領域は広い。

 やみくもに攻めたら、それこそ藪蛇になる。

 彼らも武断派ではあるが、派閥だけで軍を動かそうとは思っていない。

 国王の許可のもとで、軍団として参加したいだけのはずですよ。」



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