3―6 嫁を迎えるために その四
さて、自分の邸で開催される披露宴等に貴族の招待を行う場合とその出席については、概ね慣例が有るので、それを紹介しておこう。
叙爵に伴う披露宴に際して、大公と公爵家は、王宮主催の披露宴で挨拶を交わしていることから招待状を出しても通常は来なくても良いことになっている。
その代わりに、派閥の副頭目に当たる貴族にも招待状を出すのが慣例である。
大公と公爵家が欠席又は代理出席をすることはある意味で当然のことなのだが、派閥の副頭目への招待状が発出されているにもかかわらず、これに応じないことは敵対していることを公然と表明する場合に限るので滅多には行われない。
過去にはこの関連で領地戦が起きた事例もあり、よほどのことがない限り本来は避けるべきことのようである。
侯爵以下の貴族の招待については、派閥に所属している場合は、当該派閥を主体に概ね全部を招くことになる。
他の派閥の貴族については、出欠は自由であるけれど、基本的に代理出席を行うのが慣例であるようだ。
叙爵又は陞爵に関わる披露宴に際しても、通常は派閥に属する貴族を中心として招待するはずなのだが、生憎と現状で僕には派閥は無いし、どこにも属してはいない。
また、叙爵に伴う王宮主催の披露宴は既に開催されていることから、王家一族を招くのは例えば王家から姫を嫁としてもらっている場合等の特別の場合だけに限られ、通常は行われない。
一方で、爵位を有する本人の結婚式の場合は、王家に招待状を出すのが慣例上認められるが、王家では特定の派閥に関与しないことを見せるために、結婚式には欠席することになっている。
但し、大公家の結婚式については、一応の親族でもあることから名代が出席、往々にして王家の王太子以外の子が代理出席することになっているようだ。
上級貴族(侯爵以上の貴族)の結婚披露宴に際して、招待をされた大公、公爵は、欠席しても構わないが祝儀は出さねばならないし、派閥内の上級貴族の結婚披露宴については原則として出席するようだ。
一方で、大公及び公爵の派閥の副頭目が招待された場合は、結婚披露宴に出席又は代理出席をするのが慣例であり、招待に応じない場合は、明らかな敵対関係を公然と表明することになる。
王家の騎士団(近衛騎士団及び四つの騎士団)については、騎士団長あてに招待状を出すが、往々にして副騎士団長が出席する場合が多いようだ。
具体的な招待状の話だが、僕の場合は派閥と呼べるものは無いから無派閥貴族の例によることになる。
因みにこれまで侯爵までは無派閥もあったのだが、現行の三公爵はいずれも派閥を形成しており、参考とはならない。
いずれにしろ、大公と三公爵については、招待状を出さねばならないし、その副頭目と見做されている人物にも招待状を発出しなければならない。
具体的には、アルベルト・グランオルト・ヘイネン・ウェルベリー大公とその派閥の副頭目と見做されているエッケルト・フォン・ギーゼン・ローウェル侯爵。
カールハインツ・オルト・キースリング・ハンブリー公爵とその副頭目ユリアン・フォン・クライバー・ミッドウェル侯爵。
キークムント・オルト・シュターデ・ベリングズ公爵と副頭目のエルンスト・フォン・フラント・バックラー侯爵。
ラインハルト・オルト・シュペール・グランザスク公爵とその副頭目フィリップ・フォン・ザクレス・アズレルブット侯爵の8人である。
このうち実際に来るのは、ローウェル侯爵、ミッドウェル侯爵、バックラー侯爵、アズレルブット侯爵の四人とその同伴者(通常は妻女若しくは令息又は令嬢)であろうと思われる。
王家にも一応招待状は出すが、慣例上は不参加のはずだ。
身近なところでは、ダイノス侯爵には当然に出さねばならないが、彼の場合は宰相補佐であり、法衣貴族のなかでも幹部クラスの存在であることから、前世の日本で言えば官房長官的な役割であろう。
法衣貴族は、慣例上派閥には染まらないことになっているらしいのだが、実際のところは、半数以上がいずれかの派閥の準会員である。
但し、ダイノス侯爵は、敢えて言うならば派閥に属さない中立派である。
ダイノス侯爵の場合、無派閥とは言いながら派閥からの圧力に抗するために、ある程度の結束力をもっており、少なくともダイノス侯爵に近い法衣貴族で子爵、男爵位を有する者8名が居るようだ。
オイゲン・ヴィスク・ベッカー・シェンブルグ子爵、ハインツ・ヴィスク・アルトマン・クレフェン子爵、グスタフ・ヴィスク・ブッシュ・エレベンス子爵、ヨハン・ヴィスク・バーレンシュタイン・ワズホーク子爵、ゲルト・ヴァロ・リーブマン・ソンーンダイク男爵、ケヴィン・ヴァロ・ヒューブナー・ベイレーン男爵、モーリッツ・ヴァロ・ホルツ・カイスラー男爵、フランク・ヴァロ・ヘスラー・バウムガルト男爵の8名については、ダイノス侯爵と相談した上で、招待状を出すことにしている。
ダイノス侯爵の下で働いている爵位を持たない下級官吏も居るのだが、そちらには招待を出さないことになっている。
騎士団については、近衛騎士団長と「青」、「赤」、「黒」、「白」の各騎士団長に招待状を出す。
これらの団長が、貴族の披露宴に出席することは珍しく、通常は副騎士団長が出席するようだ。
法衣貴族でも、ガウス宰相の管理下にある子爵以下の貴族は数が多い。
因みにガウス宰相にも一応招待状を出すが、宰相は親族でもない限りは、多忙であることを事由に叙爵の披露宴には出席しない。
宰相の場合は、代理出席ですらしなくても良いことになっているため、そもそも叙爵の披露宴の招待をしないのが普通なのだ。
法衣貴族の全員を招待する必要は無いのだが、前例を参照すると、公爵ともなれば相応に見栄を張らねばならぬようで、宰相を除く各組織の長若しくはそれに次ぐ者を招待しているようだ。
具体的には、儀典法院で、儀典法院議長、儀典法院参事官の二名。
財務法院では、財務大臣に相当する財務法院議長と、財務法院参事官の二名。
会計法院では、会計法院議長と会計法院参事官の二名。
行政法院では、行政法院議長と行政法院参事官の二名。
貴族院では、貴族院議長と貴族院副議長の二名。
高等法院では、筆頭裁判官、筆頭評定官、筆頭弁務官、筆頭真偽官、筆頭法務官の五名である。
上記の法衣貴族だけで15名になる。1
一方で、私邸で開催するお披露目の場合は、平民を招待することも可能であり、僕自身に関わりのある者を招待できるが、相応に社会的地位の高い者に限られるようだ。
例えば、お抱えの庭師とともに庭を一生懸命整備してくれている請負の庭師などは、地位が低すぎて披露宴に呼ぶことができないので、必要が有れば別の機会に招くしかないのである。
因みに招待状を出す平民としては、王都ハンターギルドのギルマス、王都ハンターギルド西支部のギルマス、王都錬金術師ギルドのギルマス、王都魔法師ギルドのギルマス、王都薬師ギルドのギルマス、アーベンバッハ商会長、ギーズベルト商会長7名だ。
但し、おそらくハンターギルド西支部のギルマスは、遠慮して欠席するのではないかと思う。
これまでの前例を見る限り、支部のギルマスを招待した事例がないのだ。
出席するにしても被招待者に正装を求められるので、彼の場合、そもそも正装なんぞ持ち合わせていないだろうから、出席するとなれば、かなり無理をすることになる。
平民の場合、貴族の披露宴等に必ずしも無理をして出席する必要は無いことになっている。
それ以外のギルマスは、僕が所属していたり、納品をしていたりするところなので、一応招待を出している。
これらの人々は、欠席しても不思議ではないんだが、何らかの関りが有るために、上級貴族と言う地位に引かれて出席する例が多いようだ。
相応の機会に顔つなぎをしておけば、事後それなりの伝手になるからである。
因みに、魔法師ギルドについては、例のスタンピードが有ってから是非とも入会してほしいと向こうから接触してきたので叙爵をされる前に入会している。
錬金術師ギルドは、錬金術で造った魔導具を商会等に売る際に登録が必要であったし、薬師ギルドも、ポーションなどを造る際にそもそも薬師のスキルが必要とされる上に、自作のポーションなどを人に渡したり、売ったりする際にも薬師の登録が必要なのである。
特に、僕の場合は、診療所で治癒魔法だけでなく、どうしても患者に薬品を使うこともあるので、必要に応じて登録しているんだ。
今のところ、診療所で使用するだけで、薬師ギルドに製作品を卸したりはしていないが、当然のように薬師ギルドから包括的な承認を得ている。
商会二つは、僕と取引が有った大手の商会であり、僕が資金を必要とする限り、今後とも関りが続くはずである。
このほかにもテーラーとかのように、マイクやシェリアが使っている商店主などは沢山居るのだが、そこには招待状は出さない。
ハンターギルド西支部のギルマスと同様に、本来であれば高位貴族とは滅多に顔を合わせない人達だからである。
このほかに、僕が王家から拝領を受けた領地に隣り合った貴族については、派閥等に関わりなく、招待状を出すことになる。
フランツ・ヴィスク・マンハイム・リーベルト子爵とデニス・ヴァロ・オットマイアー・ローエン男爵の両名だな。
リーベルト子爵はハンブリー公爵の派閥、ローエン男爵はグランザスク公爵の派閥になっているんだが、領地がお隣同士と言うことで招待状は出さざるを得ないし、彼らも余程の事情が無い限り、参加を余儀なくされる。
但し、当然のことながら、代理出席は許されるんだ。
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このほかに、披露宴に向けて種々の品を用意せねばならない。
従者達が走り回っているものの、なかなかに用意できないのが、食器類なのだ。
流石に150名分の食器を、同じもので揃えるのは大変らしい。
商会としては大きなギーズベルト商会でも、例えば皿などの食器を、正餐分で用意するのはかなり難しいようだ。
そもそも、そういったものは窯元に発注して数を揃えるのであって、普及品としては売っていないようだ。
僕の懇意にしている商会でも30セットを用意するのが精いっぱいのようだ。
では、異なるセットを用意してよいかと言うと、出席する人に差をつけることになりかねないから、余りよろしくないらしい。
やむを得ないので、僕がフルセットの食器を用意することにした。
デザインをどうするか迷ったのだけれど、最終的に前世で見たことのあるウェッジウッド風に統一することにした。
前世の僕のフィアンセであった八神恭子が趣味で集めていた代物で、彼女は空色に近い色合いのプレートやカップをたくさん集めていたんだ。
因みに、この世界ではその色合いの陶磁器は無いらしいので、種々の場面に使えるよう200セットを用意した。
なお、ウェッジウッド風の品とは別に、白色の磁器も200セットを用意している。




