3―5 嫁を迎えるために その三
僕の資産は、二カ国から名誉伯爵の年金が前払いでもらっているし、公爵への叙爵に伴って、王宮からかなり高額な支度金が支給されている。
今後は、与えられた領地からの収入も入ってくるはずだが、そっちの方は今のところ当てにしなくても構わない。
そのほか、僕が錬金術で製造した魔導具をアーベンバッハ商会に卸して結構な収入を得ているんだ。
また、王都の南東部にある山岳部の奥地にあった未踏の金鉱山を人知れず採掘して、トン単位の金のインゴットをインベントリに保管しており、この換金のために鉱山関係に強いギーズベルト商会とも付き合いが有る。
この金鉱は山奥であり、しかも非常に深い地下に存在していることから、通常の方法では見つけられない金であり、そこが誰の領地であろうと無視して採取できるものだったんだ。
但し、色々といざこざの元になりかねないから、この事を公開するつもりは無い。
従って、少なくとも従者たちの給与等についても、家の整備費についても、全く心配はない。
尤も、当初は大工等の人手を入れて邸の改修を図るつもりであったのだけれど、改修に人手を使う予定が無くなってしまったので、別の方向で経費を使うようにしなければならないようだ。
貴族や大商人が金を貯めこんでばかりいては、世の中の経済が回らなくなるからね。
いずれにせよ、僕は、馬車馬のように動き出したが、当面ハンター稼業はお休みだ。
一つは、ブラッセルマン家の王都別邸をできるだけ早く造ること。
二つ目が、侯爵への叙爵のお披露目の件で、本来は派閥同士でまとまってやることが多いんだが、中立派のような貴族はそれにとらわれないお披露目をしているようだ。
ある程度、各派閥を公平に招待するやり方だ。
僕の場合は、派閥なんぞ無いも同然だから、この中立派のやり方を真似ることになる。
従って、お披露目の招待客についても色々と吟味が必要だ。
これはマイクとシェリアにも相談しつつ、行うことになっている。
目安として、僕の屋敷で行うお披露目の15日前頃には招待状を出さねばならない。
招待状の発送先は、招待する貴族の王都別邸が主であるけれど、男爵で王都別邸を賜っていない者に招待状を出す場合は、その領地の邸に発送する必要があるんだが、今回の場合は、そうした遠方の招待客は考えなくても良いようだ。
但し、我がブラッセルマン家の拝領地に隣り合った貴族へは間違いなく招待状を送らねばならない。
そのうちの一人が、ローエン男爵だが、彼の場合は王都別邸を賜っているので問題は無いし、王都に不在でも、領地から王都まで4日あれば出て来られる距離なんだ。
三つめは、叙爵の披露宴に合わせて、ダイノス侯爵の息女クラウディア嬢を嫁に迎えるための式典開催とそれに伴う披露宴の準備、そうして最も大事なのが貴族院への届出だ。
貴族間の結婚は、往々にしてチェックが入る。
特に王家が問題視している場合は、届け出そのものが受理されない場合が有るんだ。
特に大貴族と小貴族との結びつきが警戒される。
一つには大貴族が小貴族を吸収してしまうことになりかねないこと、もう一つは貴族間の派閥勢力が一つに偏ることを警戒しているんだ。
王家サイドでは、自分たちに忠実な家臣であれば問題は無いが、反国王派にもなりかねない大公や公爵の一つに勢力が偏ると心配の種になりかねない。
従って、婚姻に一応の制限をかけているような状況なのだ。
因みに僕の場合はどうかと言うと、全く新たな勢力だから、ある意味で王家から警戒されていない勢力と言うことになる。
但し、その婚姻の相手が大公や公爵三家の実子ともなると若干制限がかかることになる。
ダイノス侯爵については、中立派であり、法衣貴族のとりまとめ的存在であることから、貴族院での制限にはかからないはずなのだ。
但し、この点も根回しが必要で、それについては王家相談役であるクロイム・サイルズの権威が大いに期待される。
彼曰く、事前に彼から根回しを済ませておけば、問題なく受理されると言っていたが、ダイノス侯爵家の存在と僕の無派閥の存在などを総合的に考慮した上での判断だと思う。
貴族院の重鎮も王家相談役の権威にはなびかざるを得ないようだ。
彼の指示若しくはあからさまな誘導に逆らった際は、彼が一言王家に物申せば、下手をすると現在の役職を追われることになりかねないのだ。
一方で彼自身は滅多にその権威を使うことが無いらしい。
それゆえに、逆に効果が大きいのだ。
四つ目に従者と騎士の採用だ。
取り敢えず公爵として最低限度の人員を揃えはしたものの、公爵夫人も屋敷に住むとなれば、相応に従者を増やさねばならないし、また、場合により、本妻の地位を狙う不届き者に対する警戒を厳にしなければならないので、どうしても警備の騎士が必要なのである。
妖精や精霊が居るだろうって?
そう彼らの存在が間違いなくクラウディアを守ってはくれるだろうけれど、生憎と彼らは危険が生じて初めて動くし、周囲にはその存在が見えないんだ。
従って、彼女が十分な警護を受けているというプレゼンス効果が無いんだ。
周囲にしっかりと警護を見せつけることで、犯行を思いとどまらせることが期待できる。
このため、張りぼてでも構わないから騎士が必要になるというわけだ。
実際問題としては、まったくの張りぼてでは困るので、面接その他により選抜はするし、ある程度の選考基準の最低ラインは設けるつもりだよ。
僕の場合、鑑定により、関係者のスキルや能力が透けて見えるから、その意味では割合簡単に選抜は可能なんだが、注意すべきは、鑑定能力で見える能力の数値が必ずしも本人の能力の高さを示すとは限らないことなんだ。
特に貴族の子弟に多いんだが、レベルアップをさせるために、上位能力者にけん引してもらう方法がある。
単純に言うと冒険者の上級パーティに一時的に加入して、さしたる働きもしないのに恩恵だけ被るというやり方なんだ。
このやり方では、経費は掛かるが、ハンターギルドその他で確認できるレベルの数値だけは上昇しているから見かけ上は強者に見えるんだ。
王家騎士団にはこの手の貴族の子弟が多く、例えば、格好だけは一人前の騎士が相当に居るんだ。
因みに妖精sの情報によれば、近衛師団でも第一騎士団の半数がその類であり、この騎士団は実戦に使えないという風に団長及び副団長は考えており、いざとなれば最前線での肉壁にしかならないとみているようだね。
僕の場合は、この手の者は絶対に弾かねばならないな。
もう一つ、こうした人員募集に際しては必ずと言ってよいほどスパイが入り込む。
貴族の派閥もあるし、最悪外国の間諜も入ることすらあるんだ。
妖精sの調査でハーゲン王国内にも数十人の間諜が入り込んでおり、そのうち数名は大公と侯爵三家の内の二家にも入り込んでいるし、近衛師団や騎士団にも三人が入り込んでいることが分かっている。
状況により、これらの者の排除に動かざるを得ないかもしれないが、今のところは様子見をしている。
ハーゲン王国の仮想敵国は、第一に北方のミュールデン帝国と、やや警戒度は落ちるが東方のフロイベルク皇国である。
因みに西方のノルディア公国と、南方のサルバドル王国については、遠い親戚筋と言うこともあって、一応同盟に近い間柄である。
ハーゲン王国の周辺情勢は差し置いて、取り敢えずは叙爵の披露宴、それにクラウディアとの挙式及びその披露宴の準備だ。
段取りとしては、披露宴当日の午前中に教会で挙式、夕刻から叙爵の披露宴に合わせて結婚披露宴も開催することで、マイクやシェリアとも協議済みだよ。
結構僕が頑張った所為で、概ね4日で、屋敷を新築したよ。
旧侯爵邸と子爵邸は跡形もないが、庭園の一部に未だその名残を残している。
新築の屋敷の全容は周囲に見えないように幕を張っている状況だが、お抱えの庭師と臨時で雇い入れた庭師が懸命に庭の整備を行なっている。
こちらの方も突貫工事なんだ。
従者と騎士の選定は、この四日の間に半数の面接をこなし、残りは半数も四日乃至五日で終わる見込みだ。
最終的に、従者は27名から52名にまで増員した。
場合により、このうちの四分の一から三分の一程度は領地に造る領主館に移動させるかもしれない。
領主館で不足する従者は現地でも採用する予定では居るが、それはもっと後の話だな。
いずれにしろ叙爵から半月でほぼ準備を整えたが、未だに庭の整備は時間がかかっている。
見込みとしては、披露宴の三日前には終わらせる予定のはずなんだが、天候に左右されることもあって、場合によっては僕の能力で一時的に未整備箇所を隠すことも考えねばならないかもしれない。
その場合、かつて見たことのある日本庭園の枯山水などで誤魔化すことも考えている。
そのための岩、それに砂、そうしてコケや樹木などは選定済みであり、僕の亜空間倉庫に時間停止状態で保管しているから、庭師の作業軽減のために邸の敷地の四隅については、最後の作業にして構わないと指示しているところだ。
従者の宿舎についても敷地の四分の一を割いて、専用の建物を造り、従者の引っ越しが済み次第、仮の宿舎は全て撤去した。
この新宿舎は母屋とは廊下でつながっているほか、僕や夫人の世話をする従者については、この宿舎とは別に、母屋にも部屋を割り当てている。
また、騎士用の宿舎も別途整備している。
こちらの方は、かまぼこ型の兵舎にしており、隊長等の上位騎士のために個室も設けているほか、食堂と合わせて司厨兵も雇っている。
取り敢えず、二個中隊で6小隊の72名編成にして、当該人員の糧食を担当する司厨兵士も雇っており、騎士による屋敷の警護も始めているところだ。
邸の敷地内の出入り口は取り敢えず二か所に制限しており、最終的には四か所にする予定ではあるが、そのうち二か所は門を閉じている状況にある。
なお、敷地内の6か所に望楼代わりの尖塔を建て、敷地内及び周囲の監視が行えるようにもしている。
敷地の周囲には高い鉄柵を設けており、内部が簡単にうかがえないように工作物や樹木で視界を遮るようにしているが、鉄柵から概ね3尋から4尋の間は芝生を設けているために侵入者がいると、ことのほか目立つようになっている。
勿論、妖精sが常時監視警戒に当たっているから、不審者が紛れ込む余地はほとんどない。
あるとすれば、披露宴等の際に客と一緒に紛れ込んでくることだけだろうが、そちらについても招待客の出発時から妖精sが監視警戒を行って、不審者の紛れ込み防止を行ってくれることになっている。
尤も、正規の招待客の枠内で入ってくる者は防ぎようがない。
従って、怪しい人物については監視警戒を強めるだけの話だ。




