3ー4 嫁を迎えるために その二
また、不審者が邸の敷地内への侵入を防ぐために、敷地の境界には結界を張っているので、本来の出入り口以外からは侵入ができないようにしている。
出入り口は、取り敢えず三か所だが、そのいずれにも歩哨をたてることにし、そのための従者若しくは騎士の手配を頼んだ。
マイクからは、伝手を頼み、元騎士団に居た者で10名ほどの候補者について推薦が有ったので、別途面接をすることにしている。
一方で、その中に元騎士団の副隊長が居たことから、当該人物に妖精sが選出した人物とのつなぎを頼むことにした。
いずれは、騎士候補者全員との面接を行うつもりである
その一方でハンターギルドのギルマスとも面談し、ハンター稼業の引退を考えている人物の紹介を頼んだ。
これも別途面接をしなければならないことになる。
そうして当面最小限度の従者の採用をマイクとシェリアにお願いしたが、クラウディアを迎えるとなれば相応に従者を増やす必要もある。
特に、従者、御者、メイド等は増員しなければならないので、マイクとシェリアに再度選出を頼んだのである。
これらについても面接をしなければならないことから、仮設の応接室をその夜のうちに造っておいた。
◇◇◇◇
約束の日が来て、王妃に面会するために王宮へ参内した。
今回は待たされずに、速やかに王妃の執務室に案内され、型通りに跪いて、型通りの挨拶を行った。
王妃は随分と機嫌が良さそうだが、おそらくは二の姫との婚姻の話で良い返事がもらえるものと踏んでいるのだろう。
彼女の考えでは、仮に僕が他の貴族の子女を嫁にと進言してきても、二の姫を本妻に、当該嫁候補を側室に落とせると考えているはずである。
でも、そうはいかないよ。
以後の大公や公爵家のごり押しを避けるためにも、僕は本妻をクラウディア嬢として貴族院に早めに登録する。
その後は、彼女を守るために、妖精や精霊を使うことに迷いはない。
決して、傲慢ではないが、いかなる困難が降りかかってきても僕の能力で跳ね返せると信じている。
いずれにしろ、先ずは内密な話であるので、人払いをお願いした。
王妃は簡単に請け負って、傍に仕えていた王妃付きのメイドたちを下がらせた。
だが、比較的広い執務室の左右の壁に各一人、執務室の天井に二人の護衛が控えている。
妖精sの情報では、いずれも女性のようだが、おそらくは護衛としてそれなりの腕を持っているのだろう。
また、王妃を王宮で害したところで僕に得は無いと判断しているだろうし、護衛の力が十分に上だと王妃は慢心している。
それゆえに王妃は僕を恐れていないのだが、問題は、これから話す事柄が王家の第一級の秘密になることだ。
控えていた王妃付きのメイドも、王妃の秘密については口が堅いのだろうが、護衛の方はどうなのだろう?
王妃に話をする前にその点を確認しておかねばならないだろう。
「人払いをありがとうございます。
しかしながら、左右の壁に各一人、天井裏に二人の護衛が潜んでいるようですが、これからお話しする内容は、王家にとっても第一級の秘密になるかと存じます。
王妃様にお尋ね申しますが、その内密な話をお傍にいる護衛に聞かせてもよろしゅうございますか?」
「ふむ・・・・。
蔭にいる護衛に気づいたか・・・。
彼の者達は、王宮女官長の配下の者で口は堅い。
いかなることが有っても他に漏れることは無いと保証しよう。」
「さようですか・・・・。
ではそのお言葉を信じて申し上げますが、くれぐれも他言無用にお願い申し上げます。
本日は、二の姫様の許嫁候補としてのお話をお断りするために参りました。
お断りする理由は、非常に簡単です。
私は、国王陛下と王妃殿下の実の子である第四王子のフレドリック・ブライトン・ヴァル・ハーゲンです。
そのために、実の妹である二の姫様との婚姻はできません。」
それを言った際の、王妃の驚愕は如何ばかりであったかわからないが、言葉にならずひたすら口をパクパクしている。
僕は構わず続けた。
「かつて、この王家でも腹違いの妹を娶った事例が有ったようですが、その兄妹の間に生まれた子は二人、そのいずれもが心身障害を持つお子であったために、密かに始末され、表向きは病死とした経緯があるようです。
いずれにしろ、近親婚は、後々弊害を生むことにもなりますので、決してすべきではありません。
それゆえに、王妃殿下が仰せになった二の姫様との話は明確にお断り申し上げます。
王妃様は如何思し召されますか?」
かすれた声で王妃が言った。
「そなた、・・・。
そなたは、本当にフレデリックなのか?」
「はい、生まれてすぐに聖紋が無いという理由で北の塔に押し込められていたフレデリックに間違いありません。
二年ほど前に北の塔を抜け出て、市井に紛れ込んでおりました。」
「まさか、・・・。
王家相談役となったクロイム・サイルズは、そなたの存在を知っていたのか?
第四王子は、国内の某所にあって幸せに生きているとだけ聞いていたが、まさか王都に居たとは・・・。」
「はい、以前にクロイム・サイルズ殿とは会っており、彼は私の素性を知っておりましたが、私の素性は誰にも言わないようにと私からお願いいたしました。」
「それにしても、クロイム・サイルズからは、北の塔に収容されてから碌な養育も成されていなかったと聞いているのじゃが、スタンピードを制したそなたは精霊魔法を使えるとも聞いている。
何ゆえに、そのようなことが可能なのじゃ?」
僕は、王妃と僕の周囲にシールドを展開し、護衛たちに話を聞かれないようにした。
「これからお話しすることは、王妃様だけお聞かせすることにいたします。
状況の如何に関わらず、護衛の者達には聞かせられません。
私は、幼き頃より妖精が手助けをしてくれました。
それゆえに、足りない栄養も知識も妖精たちに手助けをしてもらって得ることができたのです。
王妃様にできるご説明はこれぐらいです。
私の用件は、二の姫様との縁談をお断りすることだけです。
仮に、それすらも認めていただけないのであれば、私はこの国を出てまいります。」
王妃が叫ぶように言った。
「待ちや!
それはならぬ。
折角、生きていた我が子が他国に行くなど認められぬ。
勿論、二の姫の事は白紙に戻す。
それに妾は、そなたに謝罪もしておらぬ。
奸臣の言葉に左右されたにせよ、妾も陛下もそなたには真に済まぬことをしたと悔いているのじゃ。
この通り、頭を下げて謝罪し、頼む。
この国を出て行くなどと言わないでほしいのじゃ。」
王妃は、溢れる涙を拭おうともせずに、そう言った。
王妃には、母としての感情が残っていたようだ。
「王妃様の謝罪は確かに受け取りました。
その話は、もはや過去の話、これ以上蒸し返してはなりません。
これが表沙汰になったなら、王家の権威が大いに揺らぎます。」
「やはり、第四王子に戻ってはくれぬのか?」
「12年以上も前の話を蒸し返しても良いことはありません。
私自身は、平民から公爵に引きたてられた臣下に過ぎません。
今後も、そのようにお付き合い願います。」
「あい分かった。
だが、せめて、せめて一度だけそなたを抱きしめたいのだが、許してくれぬか?」
僕は小さく頷いた。
王妃は、そのまま近づいてきて、僕をしっかりと抱きしめてくれた。
身長がそれなりに延びてはきたけれど、未だに13歳(満年齢で12歳)の平均身長と同じぐらいだから左程大きくは無い。
女性にしては背の高い王妃にすっぽりと覆われてしまったよ。
そんな状態が1分近くも続いたかな?
涙目の王妃がようやく僕を放してくれた。
きっと、護衛の彼女たちは気が気ではなかっただろう。
彼女達も、あるいは北の塔に押し込められていた第四王子の境遇とその出奔の話は聞いていたかもしれない。
だから親子であれば、王妃様に危害を与える心配は無いかもしれないのだが、一方で北の塔に押し込められたことを恨んでいれば、何らかの復讐を図っているやもしれないのだ。
それゆえにものすごく緊張していたのだが、ある時から王妃と第四王子との会話が全く聞こえなくなったのだ。
壁にも天井にも小さな覗き穴が有るので、二人の様子は窺えるのだが、会話が聞こえないということは、王妃からの命令も聞こえないということでもある。
彼女らは、懐剣を握り締めて、殺気を放っていたのである。
そんな中で、王妃が自ら第四王子に近づいて、涙を流しながら抱擁をした。
ある意味でほっとした。
そうして抱擁が終わると、会話が聞こえ始めた。
「ブラッセルマン公爵、できれば王家に頻繁に顔をみせてくれると妾は嬉しいのじゃ。」
「臣下として必要がある場合には王宮を訪問いたしますが、余り頻繁だと、他の貴族たちの妬みを買うことになります。
特に、私は、平民から一気に公爵に叙爵された前例無き成り上がり者にございます。
国内における平穏を願うならば、当然に節度と言うものがございます。
王都別邸の我が家の整備を進めておりますが、臣下の平穏を保つには、王家一族の御成りはできるだけ避けていただきたく存じます。」
「母であるのに、子を訪ねることも出来ぬのか?」
「ある意味で定めにございます。
御勘如願います。」
王妃との面談を無事終了して、僕は王宮を引き下がった。
そうして、この件は、少なくとも王妃様から二の姫様との縁談話を円満に回避できた旨をダイノス侯爵に伝えることにした。
ダイノス侯爵は、僕の報告を聞いて随分と安堵したようだ。
これで本格的に嫁入りの準備を始められるのだが、大公及び公爵の余計な疑惑を招かないためにも、当日まで輿入れの件は秘密にすることが申し合わせ事項だった。
その日も僕は、夕刻から診療所の仕事をこなし、夜は王都別邸の建設の仕事が待っている。
明日は、朝からブラッセルマン家の騎士団の面接を考えている。
それ以外にも、マイク執事長とシェリアメイド長が選んだ従者たちとの面接を可能な限り始めるつもりだ。




