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キズナ  作者: 鮎川りょう
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4

 一平はどうしようもなく腹が立ち、居酒屋で酒を煽っていた。

「このままだと、あいつらデビューしかねない」

 今夜もこっそり練習を覗いた。目にするたび客との一体感が増していた。何より格段に上手くなっている。素人でしかない一平の目にも他のパフォーマーとの違いが感じられた。

  

「冗談じゃないぞ」

 無性に腹が立つ。飲まずにいられなかった。「おい、姉ちゃんビールおかわりだ」

 だが冷静に考えてみれば、あいつらは怒りの当て馬でしかなく根っこは父親だ。

 今日、父親の所へ行って相続権の放棄の念書を書いてきた。文句一つ言わずにサインしたので呆気にとられた。元々遺産などに興味を持てず、持っていたのは父親への殺意だけ。ただ、金を無心に行くたびに殺してやろうと思っても……つい躊躇い、匕首を抜くことが一度もできなかった。

  

(血なのかと思う)

 なら、血のつながらない育ての親の常次はどうだ。母親を自殺に追い込んだ元凶でも、やはり殺せないだろう。

(情なのか)

 いつからこんな気弱になってしまったのだろう、と一平は情けなく思う。

  

 でも、あの当て馬のあいつらなら殺せる。血のつながりも情けもないし、殺せば同じ全盲として不幸なまま生涯を閉じた母親の供養にもなる。

 一平は懐に隠し持つ匕首に触れた。冷たい感触に残忍な衝動が駆り立てられていく。

 まずは、あの気味悪い河童男を始末する。そしてあの女はすぐに殺さず、夢が潰れていくさまを見せ続けてから自殺に追い込んでやる。

  

 運ばれてきたビールに口を当てた。喉を鳴らし、ぐいっと飲んだ。

 目を隣のテーブルに向けると、何の苦労も知らなそうな若いカップルが話を弾ませていた。

 生活感がないし、親のすねかじりだろう。いい気なものだと、鼻白みながらつまみの乾きものを食べていたら、聞きずてならない言葉が耳に入り込んできた。

「あの四人組が、明日、プロとジョイントコンサートをするんだって」

「四人組って、駅前でちょいちょいライブをしている人たち?」

「そう、バイオリンとポップダンスのグループ」

「上手いよね、あの人たち。観に行きたいな、どこでやるの」

「アリーナらしいよ。有明の」

 男が「ほら」と、連れの女性にスマホを見せた。

  

(あいつらが、明日、プロとコンサート?)

 早すぎる飛躍に一平は歯噛みした。残忍な衝動を加速させる。

(有明アリーナか、どんな手を使ってでもコンサートを台なしにさせてやる)

 ビールを飲み干すと、一平の頭にあらぬ妄想が次々と湧いた。

(会場を爆破させたらどうなる。いや、爆破予告だけでも十分だ)

 一平は、ほくそ笑み店を出た。

 帰宅の道すがら大手スーパーで爆竹を買った。今からでは火薬の調達は無理でも、最悪、これで騒ぎを起こせば、それだけで効果がある。一平は無造作にポケットへ突っ込んだ。

  

 明日のコンサートの最終調整を終えた夜、吾作はダンサー姿のタカの胸ポケットに隠れ、洋菓子を手土産にナオミの家へ向かっていた。

「やっぱ景気づけはケーキがいちばんだね」

「何つまらないしゃれを言って自画自賛してるんだ。もういい時間だし、食わない確率の方が高いぞ。だいたいケーキの金はどうした」

 吾作は胸ポケットから顔を覗かせ、問い質した。「まさか、くすねたのか」

  

「そんな泥棒みたいな真似はしないよ。これは正当な報酬さ」

「報酬って、ライブか?」

「そうさ、おいらには熱烈なファンがいるんだ。だからシルクハットの中はいつも入りきれないぐらいのお金で埋まる」

「でもそれは、お前のっ報酬じゃない。みんなの金だと思うが」

 タカが足をとめる。

「心外だな、いま熱烈なファンがいるって言ったろ。これはライブが終わってから、直接その女の子から手渡された記念のお金さ」

 ものはいいようだ、というより大いなる勘違い。記念であったら大切に取っておく。だがタカは、その記念の金をタカは惜しげもなく使っている。

  

 説教しようとしたとき……前方に、以前透視した際に見えた男女の姿をとらえた。男は学生風で、女は目が悪いのか白杖をついていた。なら女は、五百万円渡したナオミの盲学校と職場の先輩の彼女だろう。男は院長の息子だ。

 さり気なく男が女を支えている。ということは、院長から交際を禁止されながらも思いを貫き通していたようだ。けれど、もし男の思いがいっときで……あの院長と同じ性癖の持ち主だったら、二の舞。間違いなく女は不幸になる。

  

「タカ、前を見ろ。全盲の女と若者が歩いているだろう。悪いが、気づかれないよう跡をつけてくれないか」

「わかった。尾行はお手のものだ、まかせろ。でも、おいらあの女の人を知ってるぞ。ナオミさんの先輩だ、お金を届けに行ったことを覚えてる」

「その通りだ。しかも若者は院長の息子ときている」

「院長? だったら玩具にされているんだな」

「そうとは限らない。いや、違うと願うだけだ」

 吾作は希望を込めて言った。「タイミングのいい所で女性に話しかけてくれないか。その隙に、俺は若者の心を透視する」

  


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