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キズナ  作者: 鮎川りょう
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終章 夢と決着 1

 沙里が加わり、日々の稽古にも熱が入るようになったせいか、たがいが触発され個々の技能も格段にアップした。何よりバイオリンとダンスの組み合わせが斬新だった。

 満を持してナオミたちが路上ライブをはじめると、すぐに人が溢れ、見物人は過熱した。余波はマスメディアにまで広がり、たびたび取材を受けるようになった。知名度がアップすると、ますます見物人がふくれ上がっていく。いつしかナオミたちの主戦場はライブハウスへと変わっていった。

  

「路上ライブはもうよしとして、ライブハウスも見直そうと思う」

 皆が顔をそろえた公園で、勇太が言った。

「どうしてだい、表現する場がなくなったら意味ないと思うけど。まさか……解散するつもりなのか!」

 声を荒げてタカが聞く。沙里もナオミも怪訝そうな目を勇太に向ける。

  

「じつは僕の所属する芸能プロを介して、来月早々に有明アリーナで、有名ミュージュシャンとジョイントコンサートをしないかと持ちかけられたんだ。だから、そこに集中したい」

「ジョイントコンサート! 凄いじゃん。あたし、ついにメジャーデビューできるのね」

 沙里が笑顔を弾けさせる。勇太も満足げだ。

「それで、みんなの考えを聞きたいと思ってさ」

「参加するのは賛成だけど……」

 ナオミが水を差すかに言いよどんだ。「確かに、個々のスキルは一定の域に達していると思うの。でも参加するなら、今の状態では無理よ」

  

「理由を聞かせて」

 沙里が真剣な口調で尋ねてきた。ナオミは頷く。

「まずは箱が違うことを認識して。30人で満席になるライブハウスとアリーナでは観客との距離も全然違うでしょ」

 勇太と沙里が心なし表情を曇らせる。曖昧ながらナオミが言わんとしていることを理解したようだ。

  

 タカがしみじみつぶやいた。

「つまり楽器の迫力のなさと、おいらと沙里さんがいかに広い舞台を使えるかだな」

「そうよ、タカさん。はっきり言うと、タンポリンでは観客の心にとどかないと思う。やっぱりコンガが必要かも。それとダンスの演出もね」

「コンガなら、あたしの父親のものがあるわ」

  

「勇太さん、叩けるかしら」

「もちろん叩いたことがあるし、練習すれば問題ない。演出も、照明さんと協力してインパクトを与えられるよう練り込むよ」

「それなら大丈夫だと思うけど……どうして私たちに、そんな大きな話を持ちかけてきたのかしら」

「彼らが言うには、僕たち、ブレイクする可能性が非常に高いんだって。盲目の美人バイオリニストにエネルギッシュな黒人系のダンサー、そしてボーカルもダンスもそつなくこなす僕。あっ、それと異色の怪人ダンサーもいるからね」

  

「おいらは付け足しで異色の怪人かい。受けが今いち、よくない気がするけど」

「心配しないで、タカさん。あなたが踊りだすだけで観客がざわめくのを感じるの。付け足しなんかじゃなくて、立派な主役よ」

「もちろん最初から主役のつもりで踊ってるよ。だって勇太と違って背も高いし、顔だって見ようによってはイケメンなんだからさ。そもそもダンスの申し子だし、当然だろ」

「はいはい。この話はここまでにして、練習しようか」

 勇太が苦笑する。沙里も顔をくしゃくしゃにして大笑いした。

  

「タカさん、何か感じなかった」

 コンサートに向けて熱の入った練習が終わり、自宅に戻ると、ナオミは思いを吐きだすように言った。というのも、このところ妙に引っかかるものがあったのだ。

 気のせいだ、忘れようと戒めても、それは折にふれぶり返してくる。演奏に集中しようとしても、いつのまにか頭の中で増殖して支配された。

  

「何のこと? ときどき乱れたバイオリンの音色かな」

「そう。気になって上手く弾けないの。私、怖い」

「コンサートのプレッシャーだね。大丈夫だよ。まだ時間があるから」

「そうじゃなくて、見物人の中にハイエナのような醜悪な気配を感じたの」

「気のせいだよ。変な奴なんて誰もいなかったじゃないか。おいらなんて、可愛い女の子から手を握られたんだから」

  

「それがいたの。終わる頃には消えるんだけど、演奏中ずっと殺気を放っていた」

「殺気? 穏やかじゃないな」

 タカが懸命に記憶をたどろうとしているのか、考え込んだ。

「あの感じは、眠らない街で絡んできた人に間違いないわ」

「じゃ、あいつか。だとしたらかなり危険な男だよ。ナオミさんに特別な感情を抱いていたし、内ポケットに光るものを隠し持ってたから」

  

(あの人は、どうしてそんな気持ちを抱くの。隠し持っている凶器で何をしようとするの)

 ナオミは行き場のない不安に、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「大丈夫だよ、おいらがついてる」

 タカが心配して肩に手を乗せてくる。

  

 そんなタカの配慮に泣くのを堪え、落ち着きを取り戻すと、脳裏に懐かしい吾作の面影が浮かんできた。

(今、どこにいるの……)

 大切な仲間が一人消え、新しい仲間が二人ふえた。それによって未来がひらけても、闇にまぎれて危害をくわえようとする者が出現した。日増しに募る不安。それを立ち込める暗雲というなら、本体の嵐は確実に迫ってきている。

(……どうしたらいいの、吾作さん)

 問いかけても、答をもらえないまま時間だけがすぎていく。

  


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