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そうとうに疲れていたのだろう。目を覚ますとシートの隙間から朝の陽射しが漏れていた。
慌てて飛び起きた。常次は出かけたのか、すでにいなかった。枕もとに丸い形をしたビスケットが三枚、ポリ袋に包まれ置かれていた。吾作はありがたいことだと感謝し、膝で割って布袋につめた。
小屋を出ると太陽はまだ低い位置にあった。たぶんまだ朝の七時ぐらい。シート脇に潰した空き缶が積まれているので、常次は暗いうちに出てアルミ缶集めに行ったのかもしれない。
貰ったビスケットの割れかすを食べながら土手の上を歩いた。人の姿が見えると枯れ草に伏せ、行きすぎるまで待った。その間じっと冬支度をはじめた蟻を見ていた。彼らは吾作の臭いを嗅ぎながらとまり、触角を揺らすと興味なさげに去っていく。敵か味方か判別しているのかもしれないし、餌かそうじゃないかを確かめているのかもしれなかった。
ただ彼らは貪欲だ。食料の備蓄という、組み込まれた遺伝子のままに行動する。たとえ腹が空いていなくても、ファミリーを守るために備蓄しようとする健気な本能を持っている。半面、一個の死に関しては冷淡だ。海に生きる鰯の群れなどもそうだが、集団で暮らす彼らは仲間の死を自然の摂理として粛々と受け入れる。
しばらく進むと緑色の架線橋が見えてきた。吾作は途中で拾った瓶の欠片を持って向かった。いい具合にコンクリートがある。手ごろな石も無数に落ちていた。
できるだけ尖った石でガラス瓶を割り、持ちやすいように布を巻くと、ざらざらした石で研磨した。一時間ぐらいかかっただろうか。何とかナイフっぽくさせると、弓になりそうなしなりのある木を見つけ、丹念に研磨したガラスナイフで削り弓をつくった。
次に吾作は木の枝を折り、その皮をガラスナイフで裂いて、取りだした木の繊維を念入りによじった。足で踏みつけて弓をしならせ、両端によじった繊維を巻きつけた。さらに細い木を集め、これまた丁寧にガラスナイフでこすり続けていく。
そしてその先端を火で炙って尖らせた。こうすることで先端が強化され、矢じりと同じ効果が期待できるのだ。
それから歩いて羽を拾い、方向性を保つために樹液で羽を貼りつけた。都合五本、短剣ケースを肩からかけ直して収めた。
いざ狩りにと思ったが、野良猫や野良犬を弓矢で射ったらすぐに愛護団体から騒がれる。害獣とされる野生動物ですら、捕獲ならまだしも傷つけたりすれば人間界では罪になることを知った。
かといって彼らから襲われる危険は限りなくある。彼らには善悪の区別など存在しないし、狩猟本能は蟻と同じで遺伝子に組み込まれている。どのみち、この爪楊枝と大して変わらぬ矢を射っても、目に刺さらない限り彼らにとっては痒みていどの痛手しかない。
「身の丈にあった相手を選ぶしかない」
吾作はそうつぶやくと、格好の獲物を求め架線橋を後にした。
二時間後、結局、吾作とさほど大きさに違いのない蜥蜴を矢で射り、肉を焼いて食べた。わりといける味だった。残りは燻製にして布袋につめ保存食とした。これで一週間は腹の心配をしなくて済む。あとはねぐらだ。
行くあてもなく彷徨っていると、あっという間に日が暮れ夜になった。しんしんと寒さも忍びよってくる。吾作は木の洞を見つけ、よじ登ると入り込んだ。
初冬の冴えた夜空、夏には見えなかった星が一面にきらめいている。その空の下には月や星に照らされた黒い川が流れている。ときおり波によって光り、吾作を湿らせた郷愁へいざなっていく。
無性にナオミとタカに会いたくなった。つまらないしがらみとしか思っていなかったが、少なくとも二人とは意思の疎通があった。目的を一つにしたことで絆を深めていた。
人とはおかしなものだと吾作は思う。これまで天涯孤独だったはずなのに、いったん心を通わせてしまえば、それまでの孤独が耐えられなくなる。
二人を思い浮かべた。けれど思い浮かべたとたん、なぜか冴えた夜空が滲み、大切な面影を黒い川の中へ沈ませた。




