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キズナ  作者: 鮎川りょう
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「おいらが小人? 寝ぼけるのもいい加減にしろよな。あんたみたいな見苦しい体形じゃないし、空だって飛べるんだぞ。あんたら小人はそんな芸を持ち合わせていないだろ」

 タカが嘴をずらしてせせら笑い、ナオミが目を開けんばかりに呆然とした。吾作はそれらを全否定するかに語気を強めた。

  

「いいか、よく聞けよ。お前も知っているように小人族の本質は精霊だ。空は飛べなくても、個々に特別な能力を秘めている。それが俺の透視能力であり、お前の変身能力だ」

「変身能力だって? 言ってる意味がわからない」

「もし、吾作さんの話がほんとうなら、タカさんは、鴉に変身していることすら気づいていないの」

「その通り。里の長老は人間界にいたときタカの能力を知って、小人に特殊な能力があることに気づいた。そして俺が、その覚醒する薬草を発見したことで小躍りした。だが長老会で、薬草は里の平和を乱すと否決されたんだ。だから俺は人間界に追放された」

  

「あんたの話はいいから、おいらのことを教えてくれないか」

 タカが、じれったそうに口を開いた。

「今から話すところだ、大人しく聞け」

 タカが小人で年下とわかった以上、なめられたくないと吾作は思った。

「タカさん、ここへきて。一緒に話を聞きましょ」

 ナオミが声をかけると、タカがちょんちょんと跳ねながらすり寄った。

  

「口笛は完全に道化だったけど、タカには通じていたんだと思う。それと、どうして人間界にいるかは推測でしかないが、おおかた禁断の地へ迷い込み、うっかり洞窟へ入ってしまったのだろう。行方不明になったガキの噂を以前聞いたことがある」

「ガキじゃない、少年と呼べ」

「すまん。おっさん姿の少年だったな」

「吾作さん。むだ話はやめて、話を進めてくれない」

 ナオミが、わざとらしく親指と人さし指を狭めて近づけてきた。吾作は反射的に飛び退いた。冷や汗を拭いながら話しだす。

  

「俺もつくづく感じているが、小人一人で人間界を生き抜くのは難しい。至る所に敵が潜んでいるからだ。運よくパートナーを見つければいいが、それを見つけられなかったタカは、人間界でしたたかに生きる鴉を見て、路地を這いずり回るよりよっぽど楽そうだと、広い空に活路を見いだした。それで鴉に変身し、記憶を封印したのさ。それだけじゃないぞ。タカの本質は、水神の使徒である河童の霊だ」

「おいらが河童……水神さまの使徒? あまりいいイメージが湧かないけど、神さまに仕えていたんなら、あんたとは気高さが違うんだよな」

「小人界にそんなものはない。木霊だろうが河童だろうが、神であろうが、あくまでも祖先の話だ。もう一つ、タカはまだ悟りを得ていない。鴉になって、悟りから逃げまわっていた臆病者でしかないんだ」

  

「吾作さん、言いすぎよ」

 ナオミが咎める。急にしゅんとしだした、タカの羽を優しく撫でる。

「いいんだよ、ナオミさん。おいら、自分でもずっと感じていたんだから」

 タカが、急にぽろぽろ涙を流しはじめた。おそらく吾作が告げたことによって、それまでタカを縛りつけていた封印がとけたのだろう。もしくはナオミの優しさに触れて呪縛が解放されたのかもしれない。タカがうつむいて、激しく嗚咽しだした。

  

「おいらは自分の祖先が何で、何をしてきたのか薄々知っていた。河童になる前の姿もね」

 タカが顔を上げ、二人に目を向ける。「おいらは人間だったんだ。寒村の、貧しい農家の子ども。満足に飯も喰えず、たまに口にするのは粟と稗ばかりだった。木の根っこを煮て食べたこともあったよ。何年も天候が不順で、凶作だからと父親は言っていた。そのせいなのか、上の姉は町から来た目つきの悪い男に連れられて行き、それっきり帰ってこなくなった。そんなある日、父親が白米のおにぎりをどこからか持ってきて、河岸で食べようと、おいらを連れだしたんだ。小躍りしたよ。だってそれまで麦ですら喰ったことがなかったんだからさ。でもおにぎりは一つだけ。父親はおいらが食べるのを隣でじっと見ていたよ。泣きながらね。そこでおいらは聞いた。『どうして泣いているの、半分あげようか』と。父親は何も答えなかった。そのときおいらはぴーんときた。『おいらも神隠しに遭うのかな。急にいなくなった姉と同じように消えてしまうのかな』と思ったんだ」

 タカは、そこまで話すと小さく深呼吸をして、羽で涙を拭った。ナオミは口に手を当てながら静かに聞いていた。

  

「その後の意識が消えていて、よく思いだせないけど、気がつくと、おいらは水の中でもがいていた。苦しくて、何度も頭を上げて必死に水から出ようとしたけど、何かに強く頭を押さえつけられて全然上がらなかった。でも、ごつごつとした指の感触からそれが父親の手なのだと気づいたとき、ああ……やっぱりこれは神隠し、いや間引きなんだとおいらは理解した。それで力を抜いた。家族が望んでいるなら、望む通りにしようと思ったんだ。そうすることで、末っ子のおいらに優しくしてくれた兄たちが生き延びることができれば、少しは恩返しになるからさ。そうしてかなりの時間がすぎた頃、おいらは下流に向かって俯せの状態で流されていた。でも死んではいなかった。優しい兄たちのためだと決めていても、どこかに生きたいという願望が残っていたんだと思う。息がとぎれる瞬間、おぞましい河童の姿でもいいから、死にたくないと、水神さまに真剣に祈っていた」

  

「なら、タカさんの祈りが水神さまに通じたのね。それで河童の姿に変えて復活させてくれたのね」

「違うんだ、ナオミさん。その後、命を再生させてくれた御礼を水神さまに伝えると、水神さまは、『確かに命は復活させましたが、河童の姿になったのは、あなた自身があなたの秘められた能力を覚醒させただけですよ』と言っていた。だから、これは元々おいらに備わっていた力なんだ」

  

「タカさん、そしたら鴉以外にも変身できるかも……」

 ナオミが見えない目で虚空をさぐる。

「わからない。鴉以外、やった記憶がないんだ」

「できるさ」

 吾作が同意するように頷いた。「タカには、どうしても人間になってもらう必要がある」

「人間に?」

 タカの声が裏返る。

  


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