夜会のはじまり
今晩の夜会は王妃宮のメインホールにて行われる。
招待客たちは先に入場し、王族とその関係者は最後にメインホールへ入る習わしがある。
まずはソラリス王妃が、その次は王太子のエリンジウムと王太子妃候補のアイリスが入場する。
最後に、エリンジウムの妹であるシンビジウム王女が入場するという並びだ。
入場前は控え室で待機することになっている。
女官に先導され控室前で扉が開かれる。
目の前にはソラリス王妃と、シンビジウム王女がソファにそれぞれ腰掛けていた。
「王国の太陽と、王国を照らす星にご挨拶申し上げま、すっ!?」
カーテシーの途中でこちらへ突進された。
「おねぇさまぁー!!!!!!!!!」
ドレスを見に纏ってはいるが俊敏に動いてアイリスに突進して抱きついてきたのは、3歳年下のシンビジウム王女だ。
ソラリスに似た金髪青眼で、ハーフアップで華やかな巻き髪をしている。
幼い頃に婚約者として選出された為、王宮で過ごす時間も多くアイリスを本物の姉のように慕ってくれている。
「こらこら。アイリスが困っているわよ?」
穏やかな口調で話すのは、王国の太陽ソラリス王妃だ。
「ですがお母様!お姉様と久しぶりにお会いできたのですよ!体調を崩されたと伺いました。お加減はよろしいのですか?」
心配そうに見上げてくる顔はあどけなさが残る少女の顔だ。
「ええ。シンビジウム様のお陰で、ストレリチア閣下とサイネリア閣下にお助け頂いたのです。
ソラリス様にもご助力頂いたと伺いました。
ルドベキア皇弟殿下へ協力を要請できるのは、ソラリス様において他にいらっしゃりません。
妃殿下と王女殿下のおかげで、今を無事に過ごすことができます。本当にありがとうございます。」
カーテシーを行い、最上級の礼を表す。
「うふふ。
貴女は私の娘と思っているのよ?当然じゃない!
大事なお話しをしたい事は沢山あるけれど、それはまたの機会にね。今日は楽しんで行ってちょうだい。」にこりと太陽のように微笑むソラリス。
「はい!ソラリス様!」
アイリスもソラリスにつられてニコリと微笑む。
すると抱きついているシンビジウムが不服そうな声を漏らした。
「お母様ばかり、お姉様とお話ししてずるいです! お姉様?今度王女宮にいらしてください!
一緒に2人だけでお茶会をしましょう♪」
アイリスの両の手を握って懇願するように、上目遣いでみてくるシンビジウムを可愛く思う。
「是非お伺いさせてくださいね。楽しみですわ」
アイリスとシンビジウムはにこりと微笑み合った。
そしてアイリスは下手側に腰掛け、夜会の入場を待っていたが一向に婚約者であるエリンジウムが控え室に現れない。
痺れを切らすような様子でソラリスが女官たちへ、
内々に探してくるよう申し伝えている。
「もう!お兄様ったらどこへいってしまったの!
こんなに可愛いアイリスお姉様を1人にして!
ただじゃおきませんことよ!」
頰を膨らませながらぷんぷんと怒っているシンビジウムを宥めるように、アイリスは余裕を持った表情で落ち着いた声色で伝える。
「シンビジウム様、ご心配には及びませんわ。
きっとエリンジウム様なら来てくださるはずです。
今は準備に手間取られているのかもしれませんし。」
その様子を見たシンビジウムは半ば呆れたような顔で頭を抱えた様子でため息をつき、アイリスに迫る。
「・・・はぁ。
・・・もう!! お姉様ったらお優しすぎますわ!
よいですこと!?
婚約者の、ましてや女性を1人置き去りにする事など
本来であればあってはならない事ですの!
婚約者の女性に対してであれば尚更ですわ!
蝶よ花よと褒めて下さるのが普通の男性というもの!
そんな事もできないなんて、お兄様は王家の恥ですわ!」
憤慨している様子を見てなんとか宥める事ができないかと考えていると、ノック音と共に扉が開いた。
振り返るとエリンジウムが入り口に立っていた。
するとシンビジウムが、エリンジウムに対し近寄りまくしたてるように怒りをぶつける。
「お・に・い・さ・ま・?
今までどちらに行かれていたのですか?
こんなにお美しいアイリスお姉様を放っておくなど、何をお考えになっているので?
ただでさえお兄様がクロームス伯爵令嬢と懇意にされていると。アイリスお姉様ではなく、未来の王太子妃はクロームス伯爵令嬢になる。などのお噂が立っている事はご存知ですわよね?
お兄様の一挙手一投足には未来がかかっていますの。
もう少しご自身のお立場をご自覚なさったらいかがです?」
「・・・わーったよ。悪いな心配させて。」
些か納得がいかない様子だが、宥めるようにシンビジウムの頭を撫でるエリンジウム。
その様子を見たソラリスは眉間を押さえて、「はぁ」とため息をつく様子があったもののこれ以上の言及はしまいとした様子だった。
エリンジウムが到着した事により、控えの間から女官や沢山の護衛騎士に囲まれた状態で会場へ移動が開始されることとなる。
「アイリス。いくぞ。」
ぶっきらぼうにこちらを見もしないが、アイリスに手を差し伸べるエリンジウム。あまりにも珍しい事をするのは恐らく、先ほど妹のシンビジウムに烈火の如く詰められたからだろう。
「殿下、ありがとうございます。」
手を取ると乱暴に手を引かれ体勢を崩すと、ジロリと汚物でもみるような目で見られた。
移動中もエリンジウムは、ヒールを履いたアイリスに歩幅を合わせる事はせずスタスタと歩くため、アイリスは小走りになって必死についていくしかなく会場に着く頃には息があがってしまっていた。
華々しい音楽が鳴り響く中、2階からソラリス王妃、エリンジウムとアイリス、シンビジウムが入場した。
そして音楽がピタリとやむ。
アイリスたちはソラリス右後ろへ、シンビジウムはソラリスの左後ろへ控える。
一歩前にソラリスが出た。
「皆さま本日はルドベキア帝国皇弟殿下の、歓迎式典にご参加いただきありがとうございます。
今宵はどうぞ皆様で楽しんで行ってくださいね。」
笑顔で告げると参加者たちの大きな拍手と共に、
盛大な音楽が鳴り響きいよいよ夜会が開催となった。




