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事故

「皆さま本日はルドベキア帝国皇弟殿下の、歓迎式典にご参加いただきありがとうございます。

今宵はどうぞ皆様で楽しんで行ってくださいね。」


ソラリスの挨拶と共に盛大な音楽が鳴り響き、夜会がスタートしていった。


広間のダンスボールを取り囲むよう、貴族たちが見守っている。そう。このピオニー王国では身分の高い王族がファーストダンスを踊る慣習になっている。


広間には大階段がありそこから広間へと降り、ファーストダンスが始まる手筈になっている。が、先ほどアイリスはエリンジウムに睨まれ、早歩きで歩いたせいか靴にいらぬ負荷がかかりパンプスのヒール部分に異常が起きていた。


(左足がぐらついて、このままではダンスどころじゃ)


だが無情にもプログラムは滞りなく進んでいく。


(いや!これも度胸よ度胸!信じるしかない!

今日は殿下も何故かエスコートして下さるじゃない!)

アイリスは覚悟を決めた様子で、エリンジウムのエスコートを待つ事にした。


大階段を降りる直前に、エリンジウムから再びエスコートを受けて2人で階段をおりることで仲は安泰であると見せつける必要がある。

だがエリンジウムは先ほどアイリスの手を取っていたグローブを脱ぎ、控えていた使用人に渡してから睨みつけるようにアイリスを見ながら手を拭き、舌打ちをしながらグローブをはめて1人大階段を降りていくではないか。


(え?嘘でしょう?)

思わず呆気に取られてしまうが、慌ててエリンジウム追いかけ急ぎ階段を降りるアイリス。


貴族たちがざわざわと噂を確かめ合うように、それぞれ声をあげている。


「見た?あの殿下のご様子。只事ではなさそうよ。」

「やはり。アイリス様はお飾りなのね。」

「クロームス伯爵家のカルミア令嬢とご懇意にされているとか。」

「優秀な成績を残されている、兄のテッセン小公爵には敵わないようですわね。」


などと話し声が聞こえる。


アイリスは内心怒りと半ば呆れていた。

(全部聞こえてるんだけど?

何を考えているのかしらあのクソ王太子は。

あれだけシンビジウム王女殿下に、烈火の如く怒られたのにまったく響いていないなんて!

珍しくエスコートしてくれたから油断したけど、

やっぱこんな奴だったわ私が作ったんだけどね!!!

私が作ったんだけど最強に腹立つぅー!!!)


(過去の自分の馬鹿ぁ....!) 

作者としての自身を嘆きながらエリンジウムを追いかけるため大階段を降り、あと3段で広間に到着すると言う時に悲劇が起きた。


パキ


アイリスの心よりも先に、グラグラしていたパンプスのヒールが折れてしまったことに気付く。

そのあとは早かった。前方に身体が傾き真っ逆様に落ちていく自分を認識する事が出来ないほどに。

既に広間に降りていたエリンジウムは、婚約者であるアイリスを助けることもなくなんと落下点からあえて離れていくではないか。不気味な笑みを浮かべながら。


会場は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。

口々に女性たちの悲鳴や、アイリスの名を呼ぶ声が聞こえる。

広間の床に前方から叩きつけられるように落ち、突っ伏したアイリス。だが肩から上はそこまで痛くない。


「アイリスぅー!!!」

「今行くわ!!!」

驚いた声色のベルとミモザの声が近づいくる。

ふわふわ髪が揺れ、薄羽色の髪がサラサラと流れているのが目の端にうつった。


衝撃でぐらつく視界の中、目を凝らす。すると金糸の絢爛な刺繍が見えた。なんとアイリスの頭を保護するように主役のクレムが下敷きになる形で庇ってもらっていたのだった。両手で抱き寄せる形で守られており、厚い胸板に顔が押し付けられている。


「・・・殿下!?お怪我はございませんか!?」

もぞもぞと動いてクレムから離れようとするが、下半身を打っているので衝撃で痺れてうまく動く事ができない。その間にベルフラウ、ミモザが駆け寄ってきた。

「私は騎士ですし、鍛えていますから」とアイリスへこやかに微笑む。そしてキリリとした表情に返り、

「ナスタチウム嬢はまだ動かない方がよろしいかと。足を挫いたかもしれません。サイネリア嬢、ストレリチア嬢。このまま共にご同行願えますか?」と眼差しを2人に送る。


「はい。承知いたしました。」

胸に手を当て礼をするベルフラウと、

「怪我をみます!まずは急ぎ移動しましょう!」

跪きアイリスの容体を確認しているミモザ。


貴族たちも驚き、どよめきが止まらない様子。


そんな中パンパンと大きく手を鳴らす物が現れる。


「皇弟殿下に皆様、愚妹がご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。」

ツカツカと前へ出て、礼をしたの兄のテッセンだった。


「愚妹のこの体たらくでは、王太子殿下とファーストダンスを行うことは不可能でしょう。

・・・そこで提案があるのです。

クロームス伯爵家のカルミア嬢、申し訳ありませんが愚妹のために代役として王太子殿下のファーストダンスのお相手を務めては頂けませんでしょうか?」

と言いゆっくりと礼をするテッセン。


名前を呼ばれたカルミア・クロームスは一歩前にでてこう宣言する。

「ナスタチウム小公爵様直々のご指名。お断りする方が失礼というもの。このお話し、お受け致します。エリンジウム様!いかがでしょうか?」


呼ばれたエリンジウムはカルミアを熱い視線で見つめ、軽く頷くと「カルミアがいい。共に踊ってくれるか?」とカルミアへ近づき手を取って、そのまま手の甲に口付けをした。

その様子を見たカルミアは頰を朱に染め、「嬉しいです!殿下!と抱きついている。

ロングスカートが主流だが、膝丈のスカートのうえ胸を強調しはだけたドレスを着用しているカルミア。 エリンジウムに抱きつくと色々な物が見えてしまうと思うのだが、実際何も気にしていない様子。


(私たちは一体なにを見せられているんだろう。)

と思いながら事の成り行きを観察してたら、スッと大きなクレムの手にアイリスの視線を遮るように優しく塞がれた。

「ナスタチウム嬢は見なくていい。今は下がりましょう。」

身体を労わるように優しく抱き抱えられる。

「痛みが出るようでしたら仰ってくださいね。」

そのまま踵を返し、ドレスを着たベルフラウとミモザを引き連れ下がっていった。

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