表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

蜩のキッチン(ひぐらしのキッチン)

キッチンの窓を開けると



何処からともなく



ひぐらしの声がした。



どうして、



どうして



あたし…



このキッチンに立って



いるのだろう。



と〜お〜い昔、



このキッチンに



立つことを…



夢の中で



願っていたような〜



そんな、



そんな



気がする。



これまで、



このキッチンに



何人の女性が



立ったのだろう



そんなことは



どうでもいい。



もし、



もしも、



時計が逆戻りするので



あれば



若かりし日に



戻れるのであれば



迷わず、



ナニモノにも



目もくれずことなく



このキッチンに



立とう。





背後で珈琲のいい薫り



「蓉子ちゃん‥珈琲が入ったよ〜」



聞き慣れた



穏やかな



懐かしい



声があたしに呼び掛ける。




秋の気配が日増しに色濃くなった頃




私は、再び、ひぐらしのキッチンに立っていた。




今年の蜩は忙しく、夏に鳴き疲れているにも関わらず




まだ、鳴き足らぬとみえる。




整頓された杉林の山肌の 何処に潜んでいるのやら




ヒルズのコーヒーの香りが漂ってきたキッチンに私は立っている。




いつものカップに注がれたそのコーヒーは、あなたが好きなコーヒーなのだろう。



手間暇かけて作ってくれた茸汁




新蕎麦が手に入ったからと私を誘ってくれたあなたの気持ち。




ご馳走してくれるのは あなたが私の為に打ってくれていた蕎麦




お蕎麦屋さん顔負けの美味な出来栄え




自慢気に微笑むあなた。




触れあうこともなく



見つめ合うこともなく



ただ、同じ空間で 一緒に


ひぐらしのキッチンに立っている。




食事をし、後片付けをし他愛もない会話を交わすだけ。




私は この時の流れを 命の洗濯と呼んでいる。




随分と昔 一度だけ、このひぐらしのキッチンに立つことがあった。





あれは、確か‥



あなたの二十歳の誕生日。



愉しい宴に‥




私は確かに このひぐらしのキッチンに立っていた。



あれから 三十年が過ぎた。



何度も何度もの ボタンの掛け違えに




いま、何故か、こうして 蜩が鳴くキッチンに立っている。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ