後日談 「それぞれの、その後」
本日で最終話です。
最後までお楽しみいただければ幸いです。
筆頭聖女に就任して半年――
私は悟った。
人は、慣れる――
どれほど理不尽でも、
どれほど望んでいなくても……
毎朝毎朝「筆頭聖女様」と呼ばれ続ければ、案外(嫌でも)それにも慣れる。
……決して慣れたくはなかったけれど。
そんなある日――
執務机に、三通の知らせが届いた。
どれも、“あの”三人に関するものだった。
一人目――
エレベル・グランポルタ。
筆頭辞退後――
彼女は神殿を離れ、巡礼の旅に出た。
聖女のいない辺境。
医師のいない寒村。
戦禍の残る土地。
そういう場所を転々としながら、 治癒を施し、学び、また去っていったらしい。
その途中、各地の医師から外科、薬学、解剖学を学び――
ついには―― 聖術と医術を、ひとつに融合させた。
今では――
『聖医師エレベル』
そう呼ばれ、
王侯貴族の診療では法外な報酬を請求し、
予約は三年待ちだとか。
……なんか妙な方向に吹っ切れたな。
ただ――
同じ頃、
貧民街や辺境の村々で、
無料で人々を救って去っていく――
謎の女性医師の噂が流れ始めた。
白い外套。
顔は見せない。
名乗りはただ一つ。
『医師X』
「……やはり、アイツも記憶持ち?」
報告書を読みながら、ジト目で思わず呟いた。
二人目――
コリーヌ・ルージュ。
彼女は逃げた――
あの日以来、
なんの説明も謝罪もなく、
なんの責任も取らず。
スタコラサッサとトンズラした。
そうなると当然――
神殿からも、
聖女界からも――
もうそれは綺麗さっぱり干された。
一旦、華やかな世界から転落すると、お後は言わずもがな――
今はというと――
地方の安宿を転々としながら、
昼から酒を飲み、
若い給仕に絡み、
「昔はすごかった」と終わりのない繰り言の如く語っているらしい。
……切ない。
ただ先日――
地方神殿から苦情が届いた。
『腕まくりをした中年女性が、少年神官に甘〜い菓子を配っています』
「うん、同情して損した……元気そうだわ」
……なんだか急に疲れを感じ、 私はそっと報告書を閉じた。
三人目――
サクラ・フォンテーヌ。
あのあと、彼女は変わった。
……少しだけね。
相変わらず失敗はする。
昨日も、骨折患者の骨を一本増やした。
先週は、肺炎の患者が元気にになりすぎて神殿中を駆け回り、捕獲するのに一苦労した。
先月は、何を思ったか花壇の雑草を治癒してジャングル化させた。
だが――
同じ失敗は、二度としなくなった………おそらく。
そして何より、諦めない……しつこいくらい。
「もう一回やります!」
泣いて、
笑って、
また挑戦する。
その姿は、少しずつ後輩たちの目標になっていた。
変なところまで見習わないでくれ……後処理にも費用がかかるんだよ。
たぶん彼女は、遠回りしながらでも少しずつ育っていく。
十年後……はやはり無理かもしれない。
でも二十年後なら――
いや、 案外十五年後くらいには、立派な聖女になっているかもしれない。
……五年縮まった。
希望的観測も含まれているが、大進歩である。
そうして、三人はそれぞれの道を歩いている。
失敗しない者。
失脚した者。
失敗しながら進む者。
みんな違っているが、
みんなそれぞれなりに逞しい。
そして私は――
「筆頭聖女様――!」
未だに慣れないな……ヘソの横が痒くなる。
「今度は何?」
「サクラ先輩が――
薬草園を治癒しすぎて森にしてしまいました!」
「……行くわ」
ジャングルよりは森の方がまだまし……か?
いずれにせよ、私の苦労はまだまだまだまだ終わらないらしい。
けれど――
それもまあ、悪くない。
――そうでも思わなくちゃ、やってられるか〜〜
蛇足のお話
ミレーユは、なぜか筆頭聖女付き補佐官に収まった。
筆頭聖女の予定表管理から、 勝手な会食の設定、 謎の賭け事の取り締まりまで担当している。
「なんで?」
「そりゃ面白そうだったから」
――知ってる。そう言う奴だ。
なんか、たちの悪い悪魔に取り憑かれたような気がする……
一度真剣に浄化の儀式を検討するべきか。
なお、 最近は神殿内で、
『フローリア様は一年以内に辞めるか、クビになるか、刺されるか……』
という新たなトトカルチョが始まっているそうだ。
それぞれの日数まで当てたら、配当金が跳ね上がるらしい。
「やめなさい――」
そう言いつつも――
今度は私もコソッと一口、賭けた。
自分が勝つと思う方に――自分の意思で。
――どのような結果に掛けたかは、ご想像にお任せします。
同時期の短編です。こちらもお楽しみいただければ幸いです。
子爵家令嬢は見た!!
〜恋文の差出人は多股令嬢でした〜
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