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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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天使の翼が神剣を弾く夜 〜光と影の一騎打ち〜

 フェルグスは歯を食いしばり、神剣カラドボルグを握り締める。

 黄金の鎧が月光を浴び、燃え盛る聖炎のような輝きを放った。


 対するフードの男は戦意を秘めた様子もなく、腕をだらりと下げ静かに佇んでいる。


 その姿に、フェルグスの怒りは沸点を超えた。

 血管が脈打ち、心臓の鼓動が耳元で響く。


 母の……そしてレンヴァル村の全ての命が、この戦いに掛かっている。

 見せ物だと分かっていても、全力で闘わねばならない。


「貴公は……戦う気が、あるのか? 戦う気が無いのなら、邪魔をするな! 母も村人も、私が助ける!」


 フェルグスは咆哮し、カラドボルグを振り上げる。

 声は広場に響き、夜の鳥たちを空へ飛び立たせた。


「母を救う為だ! すまんが、ここで死んでくれ!」


 カラドボルグが空間を裂き、雷鳴のように唸る。


 上位神器であるカラドボルグの刃は、距離を無視し稲妻のような閃光となってフードの男に襲いかかった。


 軌跡は大気を焼き、地面を焦がす。

 触れるもの全てを粉砕するほどの威力が、そこにあった。


 ヨトゥンの兵士たちすら、息を呑み込む。

 スリヴァルディも一瞬、目を細める。


 誰もが、フードの男の身体が両断される瞬間を想像した。


 しかし次の瞬間、ありえない光景が広がる。


 カラドボルグの閃光は、フードの男の胸を貫く寸前で軌道を歪めた。


 閃光が……神剣カラドボルグの刃が、曲がる。


 柔らかな風の吐息に導かれるように、光の刃は虚空を切り裂く。

 そして、地面に突き刺さった。


 衝撃波が土を爆砕し、粉塵が渦を巻いて舞い上がる。

 近くの木々が根元から折れ、倒れた。


 フードの男の前には、透明な天使の翼のような風が揺らめいている。


 その風は、優しく……しかし絶対的な力で閃光を逸らし、カラドボルグの刃先を無力に地面へ沈めた。


「なん……だと?」


 フェルグスは目を見開き、声を震わせる。


「カラドボルグの一撃が……逸らされた?」


 上級神器であるカラドボルグの一撃が、意思に反して外れるなどあり得ない。

 だが確かに、刃は何の抵抗もなく逸らされたのだ。


 フェルグスの心に、冷たい恐怖が這い上がる。

 手の中でカラドボルグが微かに震え、掌に汗がにじむ。


 呼吸が浅くなり、黄金の鎧の内側で胸が圧迫される感覚があった。


「何かの……間違いだ! 私の中で、理不尽な決闘を拒否する心があっただけだ!」


 フェルグスは咆哮し、恐怖を振り払うように自分に言い聞かせる。


「私の心に、迷いがあった……だが、母を救うためだ! 次は、外さん!」


 フェルグスは再びカラドボルグを構え、全身に力を込めた。

 神剣が放つ光は太陽のように輝き、大気を焼き焦がす勢いで煌めく。


 迷いを捨て、純粋な殺意を刃に宿す。


 その様子を見ながら、フードの男は静かに微笑む。


 フードの端が風に煽られ、顎のラインが一瞬露わになった。

 瞳は、静かなる嵐のように深い光を湛えている。


「貴公は……一体、何者なんだ?」


 フェルグスの叫びが、広場に響く。


 次の瞬間、風が咆哮した。


 フードの男が一歩踏み出し、両者の間を切り裂く風の刃が唸りを上げる。

 エアの剣が淡く輝き、大気をうねる龍のように軌跡を描いた。


 刃自体は見えず、ただ風の奔流だけが瞳に映る。


 フェルグスは、カラドボルグを振り下ろす。


 風と閃光が激突し、衝撃波が大地を割る。 

 木々が、薙ぎ払われていく。


 轟音が広場を震わせ、眠る村人たちの丘すら激しく揺れた。


「威力が、以前戦った時と桁違いだ! 風のMyth Knight……ありえないが、別人としか思えん! それとも、エアの剣が覚醒でもしたのか?」


 フェルグスは、攻撃に転じる。


 守りに入ったら、負ける……フェルグス程の騎士ですら、焦りを感じる静かな圧力。


 フェルグスは直線的で鋭い斬撃を連続で放つが、エアの剣の風は流動するようにすべてを受け流していく。


 閃光が空を斬り、地面を砕いた。

 その度に、フードの男は風に舞う幻のように間合いを掻い潜る。


「くそっ、なぜ当たらない! 迷いは、捨てた筈だ! いくらエアの剣の能力が上がったとしても、流石に短期間でここまでは……」


 フェルグスは声を上げながら、振り乱す。

 肩の筋肉が熱を帯び、腕が次第に重くなる。


 息が上がり、喉が渇く。

 それでも、止まらない……止まれない。


 母の顔が脳裏をよぎり、村人たちの眠る姿がちらつく。


 手を緩めれば、すべてが終わる。

 そう自分に言い聞かせ、フェルグスは更に力を込めた。


 男のフードが閃光に煽られ、顔が一瞬だけ露わになる。

 その瞳はすべてを見透かすように静かで、深い光を湛えていた。


「フェルグスさん……流石に、強いですね。でも、風を貫く事は出来ますか?」


 声は、風に乗って届く。

 静かだが、風そのものが語っているかのようだ。


 その言葉に、フェルグスの心臓が凍りつく。


 攻撃が……くる!


 フェルグスは、カラドボルグで身を守るように構えた。

 両足を踏ん張り、筋肉が悲鳴を上げる程に。


「いきます、よ……」


 エアの剣が、淡く輝き……その瞳が、僅かに赤く輝く。


 次の瞬間……風が咆哮し、嵐となってフェルグスを飲み込んだ。


 無数の風の刃が四方八方から襲いかかり、黄金の鎧を切り裂いていく。

 肩の鎧が裂け、鮮血が噴き出す。


 左腕に、右脇に……そして、太ももに。

 一つ一つの傷は、深くない。


 だが数が増え、血が流れていく。

 確実に、力が削られていく感覚。


 地面に赤い花が咲くように、血の雫が落ちた。


「ぐっ! 防ぎきれる手数じゃない……だが、軽い攻撃は1つもない。このままでは……」


 負ける……のか?


 膝をつきかけたフェルグスは、カラドボルグを支えに立ち上がる。


 鎧の隙間から流れ出る血が、土を黒く染めた。

 足元がぐらつき、体が傾く。

 それでも歯を食いしばり、背筋を伸ばした。


「母は……必ず救う! 騎士としての誇り、そして誓い! それを、失う訳にはいかんのだ!」


 カラドボルグが再び閃き、天地を裂く一撃が放たれる。


 光の奔流がフードの男を飲み込もうと襲いかかった。

 腕の筋肉が引きつり、肩から背中にかけて熱い痛みが走る。


 それでも、振り切った。


 身体の限界を超えて放った、最速最強の一撃。


 しかし、その攻撃すらも当たらない。


 フードの男は風そのものとなり、閃光をすり抜けて懐に滑り込む。


 エアの剣が囁くように脇を掠め、深い傷を刻んだ。


 鮮血が噴き出し、フェルグスはよろめく。

 膝が折れかけ、カラドボルグの切っ先が土を突く。


 息が喉に詰まり、視界が大きく揺れる。


 それでもフェルグスは、まだ立っていた。


 血の味が口に広がり、身体の芯から冷たさが這い上がる。


 だが、母と村を守るために。

 騎士としての誇りを、捨てないために。


 フェルグスは歯を食いしばり、再びカラドボルグを握り直す。


 目の前に、強大な風の力を感じながら……

お読みいただき、ありがとうございます!


今回は、フェルグスとフードの男の戦闘を描きました。


絶対的な力を持つはずの神剣カラドボルグが、形のない風の前で無力を晒す。


ゼークと航太が全力で戦って、太刀打ちできなかった相手。


そんなフェルグスの「守りたい」という想いと、騎士としての誇りが、どのように揺らいでいくのか?


フードの男との決着は、どうなるのか?


次回を、楽しみにお待ち下さいませ!


感想やブックマークなど、頂けると励みになります。


今後とも、よろしくお願いいたします!

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