表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
神話の世界へ
9/29

ベルヘイム遠征軍1

 ふと気づいたその時、風が海から吹きつけてくる。

 航太がその冷たい風を感じていると、遠くから誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。


「航兄! 動くなって言ったでしょ! 探すの大変だったんだから!」


 その声の主、駆け寄ってきたのは一真だった。

 かなり辺りを探し回ったのか息を切らし、その顔には疲労感が伺える。


 一真と合流できた事に絵美は驚き、目を見開いてネイアに視線を向けた。


「すごーい! カズちゃん、本当に来た! ネイアさん、まるで魔法使いだね!」


(いや多分……間違いなく、本当に魔法使いだろ! てか、まずは一真の心配しろよ……)


 航太は心の中でつっこみつつ、まだ呼吸が整っていない一真に声をかける。


「悪いな……一真を探そうと思った時に、女性の悲鳴が聞こえたんだよ。で、助けてたんだ。一真にナンチャラって魔法で場所を伝えたから、ここで待てばいいって言われてよ。なんで、色々と聞きながら待っていた訳だが……」


「だからぁ……探すんじゃなくて、動かないでほしかったんだけど! でも皆んなが無事で、本当に良かったよ」


 航太は一真に謝りつつ、これまでの経緯を説明した。


 その時、一真とネイアの目が合っている事に気付く。


「どうした、一真?」


「ん……いや、何でもない。彼女の手、人助けをしている人の手だなぁと思って。手の消毒をしなきゃいけないから、乾燥してボロボロになっちゃうんだ。魔法の発達している世界で、それだけ傷ついた人達と向き合っている。間接的に治療しているんじゃなくて、直接触れて治療しているんだろうなぁ……ってね」


 一真の言葉で航太はネイアの手の平に視線を移すが、手荒れをしているかと言われると……そこまででは、無い気がする。


「カズちゃん! 女性の手がボロボロとか、失礼だぞー」


「いえ、事実ですから……それに患者さん達に向き合っていると言って頂けるのは、医療部隊の部隊長としては誇らしい事です」


 ネイアは一真に笑顔を向けると、軽くお辞儀した。

 先程までの疑念を抱く表情は、まるで消えている。


「ネイアさんは、医療部隊の部隊長なんだろ? なら一真、ネイアさんの元で軍の医療ってヤツを勉強するなんてどうだ? 結構、イイ機会なんじゃねぇか? まぁ、軍の部隊に簡単に入れる訳ねぇーと思うが……」


 冗談半分で言ったつもりの航太だったが、予想に反してネイアは満更でもない顔をしていた。


「ネイアさんや軍の人達が許可してくれるなら、勉強してみたいけど……航兄の言う通り、そんな簡単にはいかないよ。それに、航兄達は軍に入るつもりなの?」


 そう言う一真は、何故か左腕を押さえている。

 見れば一真の左腕から血が流れ、走って来た方角の砂浜に赤い点々が続いていた。


「ちょっとカズちゃん、どうしたの! その傷、血が出てるよ!」


 智美が鋭く気付き、声を上擦らせる。


「大変でしゅ~。血が、出てるでしゅよ~。プシュー」


 ここぞとばかりに、ガーゴが騒ぎ出す。


「何? このアヒル……の、ヌイグルミ? ガーゴじゃないか……なんで、動いて喋ってるの?」


 傷の痛みを忘れた一真は、動くヌイグルミのガーゴを見て目を丸くする。


「最初は、皆んなそういう反応になるよな……エリサさん、一真の腕って治せます?」


 航太が尋ねると、エリサはコクリと頷いて一真の腕を取った。


「傷は深いですが、治せると思います。少しの間、動かさないで下さいね」


 エリサはそう言って、一真の傷に手をあてる。

 すると手から淡い光が溢れ出し、一真の傷は一瞬で塞がっていく。


「ありがとうございます。血が流れてたから、塞いでもらって助かりました」


 血が止まった事を確認した一真は、治った左腕を振って見せる。


「魔法って……凄いですね! 傷が一瞬で治っちゃった!」


 智美は、目を輝かせながら言う。


「そんな……結構深い傷に見えたのに、一瞬で治るなんて。ネイア……さん?」


 智美の声も聞こえないぐらい驚いたエリサは、呟きながらネイアを見た。

 ネイアは小さく首を横に振ると、それ以上詮索するなとエリサに目で訴えている。


「エリサさん? どうかしました?」


「いえ、その……そうだ、魔法も万能じゃないんですよ! 無から有を作り出すことはできないんです。例えば火の魔法を使うなら、火種や火を起こす何かが必要なんです。治療をする場合は、本人の持っている治癒能力を上げて回復させるんですよ。高位の魔法使いの方や、特殊なアイテムを持っていれば、無から有を作り出す事も出来るんですけど……」


 智美に声をかけられたエリサは、驚きを表に出さない様にしながらネイアに助けを求める。


「その点Myth Knightの皆さんは、神器の力を引き出して無から有を作り出すことができます。本当に、神に選ばれた英雄なのです。人々をヨトゥンの脅威から救う、希望の光なんですよ」


 ネイアの口調から、彼女がMyth Knightを心から尊敬していることが伝わった。


「一真さんも、神器を使えるんですか? 先程の話ですと、暗黒龍を祓う力を宿す『グラム』という剣……」


 エリサが一真の顔を覗き込みながら、訪ねる。

 一瞬で傷が治った秘密のヒントを、一真の表情から少しでも得ようとしたのかもしれない。


「俺は……違うよ。仮に、暗黒龍を祓う程の剣の力を引き出せる……そんな力があれば、怪我なんかしないよ。俺は、ただの看護師の卵……医療現場で働く事を目指している、ただのヒヨッコだよ」


 一真は笑いながも可愛い女性の顔を近くに感じて、顔を赤くしながら首を振って否定した。


「おっ……カズちゃんは、エリサさんがお気に入りですかぁ~。なになに、お姉さんが相談に乗るぞー」


 絵美の言葉で一真の顔が近くにある事に気付き、今度はエリサが顔を赤くして離れる。


「何をやってんだか……ところで、お2人さんはこんな海辺で何してたんだ? よく分かんねぇが、こんな暗い場所で女性2人だけってのは危なかねぇか? 現に、ヨトゥンってのに襲われた訳だし……」


 航太は、エリサとネイアに尋ねた。


「いえ……確かに、その通りなんですけど。ここは、もうヨトゥンの領土みたいなモノだし……」


「まぁまぁ、航兄。皆んな助かったんだし、いいじゃないか。軍の命令で来てるなら言えない事もあるかもしれないし、詮索しなくても……」


 言い淀むネイアを気遣い、一真が助け舟を出す。


「いや、理由ぐらい尋ねてもいいだろ? オレらも散々聞かれたし、怪しまれたりもしたんだからな!」


 スパーーン!


 航太が声を荒げた瞬間、ガーゴがどこから取り出したのか……トイレのスリッパを持って、航太の頭を思いっきり引っ叩いた。


「痛ぇ!」


「痛ぇ! じゃ、ないでしゅ〜。デリカシーのない男は、嫌われましゅよ~。あ、もう嫌われてましゅ? そうでしゅか、そうでしゅか~」


 後頭部を押さえて震える航太に、ガーゴが追い打ちをかける。


「アヒル野郎……いい度胸だな! 覚醒したMyth Knightの力、見せてやんよ!」


「最近覚えた言葉をソッコーで使うと、頭悪そうにみえましゅよ~。あ、もう悪かったでしゅね! ごめんでしゅ~」


 話そっちのけで、怒りに染まった航太とガーゴの追いかけっこが始まった。


「ナイスぅ! ガーゴ!」


 絵美がガッツポーズでガーゴの応援を開始し、智美はネイアに向けてウィンクする。


「2人とも、ごめんなさい。航兄は、あれで結構頼りにもなるし頭も悪くはない……と、思うんだ。ただ、状況に流されやすいと言うか……」


 一真はそう言うと、近くに落ちてたバケツを拾いエリサに差し出す。


「えっ? ああ……ありがとうございます! 一真さん」


 一真の考えを理解して、エリサは感謝しながらバケツを受け取る。


「くっそー、あのアヒル野郎……逃げ足だけはクソ早ぇ! そうだ、こんな真夜中に海辺で何をしてたんだ? って話をしてたんだったな!」


 空気の読まない頭の良さを発揮した航太は、直前までの話題を思い出していた。


「患者さんの傷を洗ったりする、水を運ぶために来たんです。最近の戦闘で、怪我をした兵が沢山いて……気が動転して、忘れてしまっていました」


 自分の仕事を思い出したフリをしたエリサは、バケツに水を汲もうと動き出す。


「海水でやるのか? 傷を洗うなら、綺麗な水でやるだろ? それに、力仕事は男の仕事だぜ! なんで女性が、そんな重たいバケツを運ぶ必要がある? 適材適所ってヤツが、あるだろ?」


 航太は疑問を口にするが、その言葉にネイアは怪訝な表情を浮かべる。


「水を運んだり、傷の手当てをするのは女性の仕事です。それに、海水というのは何ですか? 湖から汲む水も、川から汲む水も変わらないですけど」


「戦争中は男性が命を賭けて戦うから、私たちも出来る事を頑張らなきゃいけないんです。航太さんは、優しいんですね。重い物を運ぶのは男性って、なかなか言ってくれないですよ。それに、治療で使う水は魔法で綺麗にするんです。なので、どこの水でも関係ないんですよ」


 ネイアの少し棘のある言葉を聞いて、エリサは慌てて柔らかい言葉で話を引き継いだ。


「そうなんですね! 私たちの住んでいた地域では大きな湖を海って呼んでいて、その水には塩が混じっているの。そのまま使うには適してなくて、濾過したりする事が一般的だったから……」


 航太が喋ると、ややこしくなる……そう感じた智美が、急いで取り繕う。


「じゃあ、俺が手伝うよ。航兄達みたいに戦う力もないし、こんな事くらいしか手伝えないからね!」


 一真はエリサのバケツを奪うように受け取ると、その中に水を満タンまで入れる。


「ありがとう……ございます」


 呆気にとられるエリサを横目に、ネイアは踵を返す。


「では皆さん、我々の夜営地に案内しましょう。おそらく今夜、泊まる場所も無いのでしょう? 助けて頂いたご恩ぐらいは、返せると思いますので」


 そう言うと、ネイアが先頭に立って歩き出した。


「ありがとうございます! 正直、今夜の事は何も考えていなくて……みーちゃん、行くよ! 今晩の寝床を、用意してくれるって!」


 智美が、まだじゃれ合っている絵美とガーゴに声をかける。


「まぢ! やたー、野宿回避! ラッキーだったね!」


「お風呂に入るでしゅ~。砂で汚れたから、お風呂で洗い流すでしゅよ~」


「てめーは、付いてくんな! うっとうしぃ!」


 やれやれ、騒がしい旅になりそうだ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ