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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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不屈の記憶 〜神剣デュランダルと騎士見習い〜

 酒場の喧騒が一瞬静まり、物語の熱が場を支配していた。


 ランカスト将軍の伝説……それは、この小さな国境の村に刻まれた、不屈の記憶である。


 航太と絵美は村の英雄譚に引き込まれ、テーブルを囲む村人たちの熱気に圧倒されていた。   

 燭台の炎が揺れるたび顔に影が落ち、誰もが息を殺して次の言葉を待っている。


「でね、ランカスト将軍は普通の剣……バスタード・ソードで、デュランダルを持つユトムンダスに挑んだのよ!」


 ゼークの声は、まるで吟遊詩人のように高らかに響く。

 盃を握る手が震え、その熱が周囲の空気まで熱くしているようだった。


「皆なら、分かるでしょ? 神剣デュランダルを前に、普通のバスタード・ソードで挑む無謀さを! 折れるか、砕けるか……まともに戦ったら、ほぼ負け確定の戦いよ!」


「まったくだ!」


 いつの間にか会話に割って入った酒場の主人が、豪快に笑いながらゼークの熱弁に相槌を打つ。

 太い腕でカウンターを叩き、酒の匂いがさらに濃く漂った。


「あの戦いは、誰もが無謀だと思ったさ! 村に残った騎士見習いが、あのユトムンダスに一騎打ちを挑んだんだからよ!」


 ランカストはテーブルの端に座し、盛り上がる話を聞きながら過去の記憶を静かに思い出す。

 その瞳には遠い記憶の痛みが宿っているようだったが、誰もその表情に気付かない。


 燭台の光がランカストの横顔を優しく撫で、ただ静かに時を遡っていく。


 ゼークの声が、徐々に小さくなっていた。

 それと同時に、脳内に再生される過去の記憶が少しずつ……しかし、確実に鮮明になっていくのを感じる。


 ゼークの声が完全に聞こえなくなり、ランカストは微睡の世界へ落ちていった……


 額から滴る血が、視界を赤く染めていく。

 左腕の傷口から痛みが迸り、全身を焼き尽くす炎のように骨の髄まで染み込んでくる。

 膝が震え、息を吸うたびに肺が軋む。


 それでも、私の瞳は曇らなかった。


 心の奥底で燃え盛る意志の炎が、私を支えていく。


 ユトムンダス……ヨトゥンである巨躯の男が、私を見下ろしながら嘲るように低く鼻を鳴らす。

 その影が、焼け焦げた地面に長く伸びていた。


「ふん……ベルヘイム騎士団も、所詮はそんなものか。おい、二人ぐらい宝探しを再開しろ。攻めてくる気のないベルヘイム騎士など、相手にする価値もない」


 その言葉に二体のヨトゥン兵が素早く動き出し、村の奥へと走って行く。

 重い足音が土を踏みしめ、埃が舞い上がる。


 私は歯を食いしばり、心の中で毒づいた。


(ベルヘイムの正規騎士は、何をやっているんだ! 村の外から、見てるだけか! もはや、私がこの将を倒す以外に村を救う道はない……頼るのは、止めだ!)


 ボロボロの体を支えるのは、唯一の相棒であるバスタード・ソードだけ。

 重い剣身が地面に突き刺さり、私の体重を辛うじて受け止めている。

 血の滴が刃を伝い、土に染みていく。


 私はユトムンダスを睨みつける視線を、ふと村の方へ移す。

 そこでは戻ってきたヨトゥン兵たちが逃げようとする村人たちを阻み、無慈悲に屠り始めていた。


 だが……村人たちは、勇敢である。


 鍬や棒……武器にならなそうな武器を持ち、必死にヨトゥン兵に立ち向かっていく。

 泥にまみれた顔に、恐怖ではなく何かを守ろうとする炎が宿っている。


 ベルヘイム正規騎士団より、遥かに騎士の心を持っていた。

 しかし心の強さだけでは、絶望的な力の差は埋まらない。


 ヨトゥン兵の一振りで、三人程の村人が弾け飛んでいく。

 木の棒が折れ、鍬が空を舞う。


 村人の叫びが、風に散っていく。


「そんな……みんな、逃げてくれ! 立ち向かうなんて、無理だ!」


 私の叫びは、風に掻き消されるように虚しく響いた。

 村人たちの悲鳴が上がり、血と鉄の臭いが空気に混じる。


 友人や、近所に住む知り合い……大切な人の命が、次々と刈り取られていく。


 今朝に笑顔を交わした顔が、歪み……倒れ、そして動かなくなる。


 胸が、張り裂けた。

 無力感が、私の魂を蝕む。

 膝が折れそうになり、視界が揺れる。


 それでも、私の指は剣を離さなかった。


「ふん……腑抜けのベルヘイム騎士の中で、お前が一番まともだな。それだけは評価してやる。敬意を表して、もう少しだけ遊んでやるぞ。かかってこい」


 ユトムンダスが呪わしいデュランダルを構え、ゆっくりと私に向かって歩み寄ってくる。


 巨人の足音が、大地を震わせた。

 一歩ごとに、地面が軋む。

 遠くの家々まで揺れているかのように、錯覚する程に。


 私は深く息を吸い込み、喉の奥から吠えた。


「このまま……こんなところで、終われるか! 村の皆も、命を無駄にするな! 絶望の中だろうと、命を繋げろ! 救うべきは、村じゃない! 命だ! 全員で、全員を守り続けろ!」


 腹の奥から、声を張り上げる。

 そして体中の力を振り絞り、私はユトムンダスに向かって飛び込んだ。


 左腕の激痛が脳を刺し、足元がふらつく。

 それでも、前へ。

 ただ、前へ。


 ユトムンダスの左腕に捕らわれた、娘同然の少女……テューネに当たらないよう、慎重に剣を振るう。


 刃が空を切り、風を裂く。

 気迫のこめた一撃は、ただの斬撃などではない。

 私のすべてを賭けた、村の人々の未来を切り開く一閃だ。


「テューネ! 必ず助ける! もう少し……もう少しだけ、辛抱してくれ!」


 テューネの瞳と、視線が交錯した。


 まだ7歳ほどの小さな身体で、涙を溜めながらも泣きじゃくらずにユトムンダスの腕から逃れようともがき続けている。

 細い指が巨人の腕に食い込み、必死に力を振り絞っている。


 そしてテューネは、ランカストの声に力強く頷き返した。

 その健気さに、胸が熱くなる。

 小さな体から放たれる信頼の光が、私の奥底にまで届く。


 その小さな頷きが、私の背中を押す。

 テューネの純粋な信頼が、私に新たな力を与える。

 胸の内から力が湧き上がり、足取りが確かになっていく。


 私の剣撃と気迫に押され、ユトムンダスが数歩後ずさった。

 巨体がよろめき、デュランダルの先端が地面を擦る。


 その隙に、民家の影から一筋の閃光が飛び出す。

 鋭く突き出されたレイピアが光を宿し、ユトムンダスの持つデュランダルを弾き飛ばした。

 金属がぶつかり合う高い音が、戦場に響き渡る。


「今だ!」


 私は更に、一歩を踏み出す。

 もう動かないと思わせておいた、激痛の走る左手にバスタード・ソードを持ち換える。


 血が滴る……だが、そんなモノに構っている余裕はない。

 指が震え傷口が開く痛みが走っても、それでも剣を握りしめる。


「うおおおぉぉぉぉ!」


 私は、叫んだ。

 喉が裂けそうなほど、声を振り絞る。


 ユトムンダスが、一瞬怯んだ。


 私の振ったバスタード・ソードを躱わして、体勢を崩す。

 巨体が大きく揺れ、足元が乱れる。


 その一瞬……ユトムンダスの左腕に、レイピアの切っ先が深々と突き刺さった。


「なんだと!」


 血が噴き、巨人の表情が初めて歪む。


 私は息を切らしながら、レイピアを突き刺した人影を見る。

 細身のシルエット……紛れもなく、ソフィーアだ。

 風に揺れる髪、冷静な瞳。


 ソフィーアがここにいるという事実が、胸の奥で熱く広がっていく。

 心臓が、激しく鼓動を打つ。


 周囲の空気が、変わるのを感じる。

 重い絶望が薄れ、わずかな光が差し込む。


 ソフィーアが、ここにいる……いてくれる。

 力が、何倍にも膨れ上がるのを感じた。

 これならば、勝機はある。


 戦いは、まだ終わっていない。


「ランカスト! デュランダルを!」


「よし、やってみる!」


 私はバスタード・ソードをユトムンダス目掛けて投げつけると、転がりながらデュランダルの元へ急ぐ。


 そして私は、弾き飛ばされたデュランダルを拾い上げていた。


 クレイモアのような形状の、大剣……デュランダルは、片手剣と言うにはあまりに大きく長い。


 大柄な私でさえ、構えるだけでフラついてしまう。

 刃の重みが腕に響き、肩が軋む。


(くっ! 重い……だが、思った通りだ。私でも、持てる! ユトムンダスは、デュランダルに認められていなかったんだ!)


 神剣は自らの主を見つけるまでは、その質量を保ったまま誰でも使える。

 しかし一度主と認める者が現れると、その人以外の者が使おうとしても持つ事すら許されない。


 つまりユトムンダスはデュランダルには認められる事なく、ただ使っていただけだった。


(これで私がデュランダルに認めてもらえれば、言う事ないが………そう上手く、事は運ばないか。だが、ユトムンダスから神剣を奪えた。それだけでも、勝てる可能性が増した筈だ!)


 私はデュランダルを構えながら、ユトムンダスを睨む。


 だがユトムンダスの左腕には、テューネが捕われたままである。


 少女の小さな身体が、巨人の腕の中で微かに動いていた。


「ゴメンね、ランカスト……テューネ、取り戻せなかった」


 突然のレイピアの攻撃に、ユトムンダスは一瞬驚きはした。

 しかし騎士でもない女性の攻撃如きでは、強いダメージを与える事は難しい。


 血が滴ったとしても、ユトムンダスの余裕は崩れない。


「一騎打ちだと思わせておいて、奇襲攻撃を用意しておくとは……人間にしちゃあ、上出来だ。だが、駒が悪すぎたなぁ……もっと、屈強な騎士でも準備しておけや。デュランダルは、ハンデとして貸しといてやるよ。良い思い出になるだろ?」


 ユトムンダスは笑いながら、余裕な表情を浮かべている。

 巨体が揺れ、嘲笑が風に乗る。


 私は大きく息を吸うと、覚悟を決めてデュランダルを握り締めた。

 ほんの少しだけ軽くなった感じのするデュランダルは、その刀身を輝かせる。

 刃が夕陽を受け、淡く光る。


「いくぞ……ユトムンダス!」


 私は、力一杯叫んでいた……喉の奥から、魂のすべてを込めて。


 私の投げた剣を、ユトムンダスが拾い上げる。


「さぁ、来いよ! その非力な腕で、デュランダルを使いこなせるならな!」


 戦いは、まだ終わらない。


 この剣、デュランダルが……神剣の意志が、村の未来を切り拓くまで。

お読みいただき、ありがとうございます!


今回は、ランカスト将軍の「伝説」の裏側を書いてみました!


酒場で語られる勇ましい英雄譚と、実際にその場にいた一人の人間が抱えていた無力感と痛み。


その間にある溝を、感じてもらえると嬉しいです。


普通の剣で、神剣に挑む。

ランカストが守りたかったモノ……それは村という場所ではなく、そこに生きる「命」そのもの。


そして、テューネ初登場回です。

今後、大活躍が期待されるキャラクターです!

どうぞ、名前を覚えておいて下さい。


そしてガヌロンの娘、ソフィーアの運命は……


次回は、この戦いの続きを描いていきます。


読んで頂き、本当にありがとうございました!


ブックマーク、感想など、とても励みになります。

よろしくお願いします!

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