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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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酒場にて 〜疲れ果てた夜に希望の杯を〜

 新たな目標ができた航太は、重大なことを思い出した。

 疲れ過ぎていて、考えることを放棄していた事実。


「ちょっと、意見を聞きてぇんだが……ガイエンとかと戦ってた時、エアの剣の力が使えなくなったんだ。多分、絵美の天沼矛もな。このままじゃ、姫を助けるっていっても何もできねぇ!」


「そーいや、そうだったね! なんか、すっかり忘れてた! 寝たら治ったり、しないもんかねー?」


 航太と絵美は、思わず自らの掌に視線を落とす。


「神剣の力が失われる……か。聞いたこと、ないかも。確かに、力が弱まったりすることはあるみたいだけど……私は神剣に選ばれてないから、分かんないな。ごめんね」


 ゼークはそう言うと、ランカストに視線を向ける。


 葡萄酒を傾けるランカストは、話が耳に入っていないように見えた。


「ランカスト将軍? どうかしましたか? 体調、悪かったりします?」


「いや、別に何ともないさ。すまんな、少し気が抜けていた。それで、何の話をしていたっけな?」


 ランカストはすぐに顔を上げ、皆の視線を集めた。


「オレらの神剣の力が失われた件について、ゼークの意見を聞いてたんスよ。あの場にいなかったからこそ、客観的に考えられるかなって」


 疲労の霧が晴れないように、航太の疑問は解消されていない。


「疲労とかも、あったかもしれないけど……今まで神剣に認められた人が、力を失ったって話を聞いたことがないのよね。だとしたらティアさんのペンダントから放たれたっていう、赤い光が関係している気もするんだけど……」


 ゼークの言葉に、ランカストの目が鋭く光る。

 葡萄酒の杯を傾けながら、記憶の糸を紡ぎ出す。


「なるほどな……確かに、あの時に変化があった事と言えばペンダントの光だな。ガイエンのヘルギも、力を失っていた。特定の神剣にだけ作用する……いや、そもそも心に作用していたのか?」


 その言葉は、宴の空気に新たな緊張を織り交ぜる。

 しかし、絵美がそうはさせない。


「帰って休んでから、力が戻ったか確認してみればいーさ! まずは、腹ごしらえー」


 絵美が明るく割り込み、運ばれてきた料理に手を伸ばす。

 香ばしい肉の匂いが立ち上り、皆の視線を一時的に和らげた。


 だがゼークの呟きが、更なる静かな波紋を広げる。


「智美も、ちゃんと食べれてるかな? 捕虜になったとしても、ちゃんと食事……してるかな?」


 その名を口にした瞬間、酒場の灯りが一層柔らかく感じられた。


 絵美の笑顔が、ぽたりと影に染まる。


「智ちゃん……無事だよね? ご飯だって、ちゃんと食べてるよね? コッチの世界の捕虜事情、分かんないけどさ……」


 ゼークの胸に、戦場の記憶が鮮やかによみがえってきた。


 あの混沌の渦中、智美が置き去りにされた瞬間。


 激しい剣戟の雨、血と土にまみれた大地。

 逃げ延びるなど、夢物語に過ぎなかった。

 自分たちも、ギリギリだった戦場。


 それでも、倒れていく身体に向かって手を伸ばしていれば……


 ゼークは無意識に、力強く拳を握ってしまう。


「大丈夫……って、信じたいけどな。戦場で行方不明になったんだ……実際、どうなんだ?」


 航太の言葉は、希望と絶望が入り混じっている。

 戦闘の意思のない人間を殺すのか、それとも捕虜にするのか。


 普通の大学生だった航太には、戦争の常識が分からない。


 沈黙が、杯の底に沈む葡萄酒のように重くのしかかる。


 その時ランカストの声が、鋼のような確信を帯びて響いた。


「まぁ……心配ではあるが、ロキ軍のフェルグスが指揮する部隊との戦闘だったんだろ? なら捕まっていても、手荒な事はされないはずだ。食事だって、質素だろうが食べれていると思うぞ」


 ランカストの口調は、皆を安心させる程に優しく説得力がある。


 ゼークが頷き、優しい笑みを添えた。


「ごめん、心配になるような事を言っちゃった。そうだね……フェルグスの指揮する部隊と、戦ってたんだ。なら、大丈夫! 捕虜になっていれば、ちゃんと手厚く迎えてくれてるよ! だから、智美を信じて待とう! ねっ!」


 その言葉は嵐の後の陽光のように、心の闇を優しく照らした。


 皆の胸に、かすかな希望の灯がともる。

 宴の流れが、再び穏やかさを取り戻す。


 ゼークの視線が、航太と絵美に注がれた。


「ねぇ……聞きたかったんだけど、航太達は何をしにベルヘイムに来たの? ご先祖様の恩人であるフレイヤ様を助けるっていうのは、さっき聞いたけど……」


 突然の問いかけに、航太と絵美は顔を見合わせる。


 航太が慌てて言葉を捻り出すが、その額に冷たい汗が伝う。


「いやっ、まぁねぇ……実際に姫を助けたいって言ってたのは、一真だけだったしな。いや……子供の頃は、助けたいって本気で思ってたけどな」


「うーん、コッチの世界に来れると思ってなかしねー。遊ぶ事しか、考えてなかったよねぇ……」


 二人のしどろもどろとした様子に、ゼークの頭上には巨大なクエスチョン・マークが浮かび上がる。


「まぁほら、今は目的も持ったし! 姫様を取り戻すために、頑張るぞぃ!」


 絵美は冷や汗をかきながらも、力こぶを作りながら素早く話題を逸らす。


「それにしてもランカスト将軍、兵隊さん達からメチャ人気高いよね! 慕われてるのが、よく分かる!」


 絵美の言葉に、ランカストの頰がわずかに赤らむ。


「それは当然よ! なんたって、ランカスト将軍は正義の騎士なんだから! 生ける伝説なのよ!」


 ゼークの目が輝き、絵美も釣られて身を乗り出した。


「へー! 何か格好いいエピソードなんて、あっちゃったりするの?」


 ランカストが、二人を慌てて制止しようと声を発する。


「おいおい、別に昔の話はいいだろ。それに、そんなに良い話でもない」


 航太は葡萄酒の瓶を手に、悪戯っぽくランカストの杯に注ぐ。


「ランカスト将軍、こんな日ぐらいしか話す機会ないんだから! 昔話、結構じゃないスか! 話、しましょうよ!」


 若干酔っ払った口調で、航太が煽る。


 ゼークの声が、興奮の調べを奏で始めた。


「昔ね……ベルヘイムに、ユトムンダスって巨体のヨトゥンが攻めて来た事があったの。ベルヘイムの国土にヨトゥン軍の侵攻を許したのはユトムンダスの軍が始めてだったのよ。さらに、ユトムンダスは神剣デュランダルを装備してたわ!」


 ゼークの言葉に、絵美の目が丸くなる。


「デュランダルって……今、ランカスト将軍が持ってる神剣と同じ!」


「それに、ユトムンダスか……さっき、慰霊碑でもその名前出てたよな」


 航太も、記憶を呼び起こす。


 ゼークの語りが、加速する。


「そう……神剣であるデュランダルを持つユトムンダスに、レンヴァル村の村人も駐屯していた騎士も犠牲になったの。そこに現れたのはベルヘイムの誇り、白銀の騎士!」


 ランカストの顔が、呆れと照れの狭間で歪む。


 エスカレートするゼークのテンションに、酒場の空気が熱を帯びていく。


 その時ゼークの膝からスルリと滑り落ちたガーゴが、机に飛び乗る。

 クチバシに巻かれたテープを、器用に机の角で剥ぎ取る。


 自由になった瞬間、甲高い声が迸る。


「そこで、ランカストVSユトムンダスが始まるんでしゅね! うひゃ~、痺れる展開でしゅね~」


「ひゃあ~、楽しくなってきた! そしてそして~、ユトムンダスの手にあるデュランダルが、今はランカスト将軍の剣ってコトはぁ~」


 ゼークと絵美のハイテンションがガーゴの奇声と絡み合い、宴は一気に頂点へ。


 収拾が、つかなくなってきた……


 渦巻く笑い声と興奮が、酒場を包み込んでいく。


(コイツら……酒、飲んでねーよな?)


 最初は煽っていた航太が、徐々に引き気味になり冷静な視線を投げる。


 酒を飲む者たちが最も醒めているという、不可思議な逆転の夜。

 そんな中でも宴の炎は静かに、しかし激しく燃え始めていた。

読んで頂き、ありがとうございます!


今回は、戦いの後の宴の場面をお届けしました。


神剣の力が使えなくなったという重い事実と、智美さんの安否への不安。


そして、レンヴァル村で起きたユトムンダスとの戦い…


ランカスト将軍が、どんな戦いをしたのか?

ガヌロンの娘さんとの関係は?


まだまだ謎いっぱいの話ですが、次回もどうぞお楽しみ下さいませー


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