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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
神話の世界へ
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覚醒の神剣2

 夜陰に包まれた砂浜は、まるで黒い絹を広げたように静まり返っている。

 波のささやきすら遠く、月光が銀の糸を引いて砂を縫う。

 だがその静寂は、突如として砕け散る。


 巨人の如き体躯を誇る敵が、闇の中から這い出るように航太の前に現れたのだ。


 航太は走りながら、エアの剣を握りしめた。

 柄に伝わる冷たい金属の感触が掌の汗を冷やし、心臓の鼓動を鋭く刻む。


 ヨトゥンの兵……人間の倍はあるであろう肩幅と、岩のような筋肉が鎧の下で盛り上がっている。

 吐息一つで、砂が舞う程の威圧感を放っていた。


「おい、てめぇ! オレらが、ヨトゥン軍の先兵だと知って言ってんのか? ガキが、笑わせてくれるぜ!」


 巨人の咆哮が、潮風を震わせる。

 声は低く、腹の底から響き、航太の耳朶を打つ。


 だが航太の瞳には、恐怖の色はない。

 代わりに燃えるのは、純粋な怒り……女性に手を上げる男への、許せぬ憤り。


「何の兵でも、関係ねぇ! 女性に手を挙げる男は、最低だぜ!」


 航太の言葉は、夜の帳を切り裂く閃光のごとく鋭利に響く。


 普段なら、足が竦んでいただろう。

 女性が襲われていても、見て見ぬフリをしていたかもしれない。


 だが……何故だろう?

 今は、力も勇気も湧いてくる。


 砂浜に立つ航太の影が、月光に長く伸び巨人の足元まで届く。


 ヨトゥン兵の唇が、挑発的に歪む。

 だがその奥の瞳に、わずかな動揺が揺らめいていた。

 人間1人の気迫が、ヨトゥンの誇りを蝕み始める。


「おもしれぇ! オレ達ヨトゥンに、人間1人で挑んでくるバカがいるとはな! お前は、手を出すな。オレだけで、相手してやんよ!」


 2体のうちの1体のヨトゥン兵が、大きく一歩を踏み出した。

 砂が爆ぜ、足跡が深く刻まれる。


 航太は、エアの剣を構え直す。

 エアの剣……神話の風を宿す刃が、微かに唸りを上げ始めた。


 航太は息を大きく吸い、魂を込める。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びが……爆発した。

 航太の喉から迸った戦吼は、砂を嵐のように巻き上げ夜空を震わせる。


 航太は剣の重さも、走って来た疲労も忘れていた。

 剣に導かれるまま、何も考えずにエアの剣振り抜く。


 エアの剣が弧を描き、振り下ろされる。


 風を切り裂く、鋭い軌跡! 


 月光が刃に反射し、銀の尾を引いてヨトゥン兵の首筋を狙う。


 だが……ヨトゥン兵は、嘲笑う。


 巨躯をわずかに捻るだけで、その一撃を悠々と躱す。


 剣尖が空を切り、砂を抉るだけ。

 衝撃が航太の腕を痺れさせ、肩が軋む。


「戦い慣れてねぇ、雑魚かよ……つまんねぇな!」


 ヨトゥン兵の拳が、反撃の咆哮を伴って振り上げられる。

 空気が歪み、風圧だけで航太の髪が逆立つ。

 心臓が凍りつく、一瞬……死の影が迫る。


 その瞬間……


 ヨトゥン兵の腹部から、鮮血が噴き出す。 

 鋭利な刃物で斬られた跡の様に線が伸び、そこから吹き出す赤い飛沫が月光に輝き砂を染める。


 ヨトゥン兵の瞳が、見開かれた。

 痛みと驚愕が、岩のような顔を歪める。


「なんだ、てめぇ! 魔法でも、使いやがったのか?」


 その言葉が、終わらぬうちに……闇から、2つの影が躍り出た。


  ヨトゥン兵の左側から、矛の閃光!

 絵美が握る水の神矛が、青く輝きながら槍のように伸びた。

 絵美の瞳に宿る決意が、水を凝縮させ鋭い刃へと変える。

 水の刃は稲妻の如く……

 ヨトゥン兵の脇腹を貫き、肉を裂き、骨を砕く。


 血肉の臭いが潮風に混じり、ヨトゥン兵の咆哮が苦痛に変わる。


 そして右側から……智美の双剣が、旋風のように舞う。

 二刀流の軌跡が交差し、水の刃を無数に生み出す。

 智美の動きは流れる水のように滑らかで、ヨトゥン兵の肩から腕にかけて鮮やかな血飛沫を散らす。

 水の刃が鎧を削り、筋肉を抉り、ヨトゥン兵の巨腕が不自然に垂れ下がる。


 死角からの襲撃は、完璧だった。


 ヨトゥン兵の巨躯が、よろめく。


「智ちん、このまま押し切るよ!」


 絵美の声が、潮騒を切り裂く。


 絵美の持つ天沼矛が再び輝き、水の渦を巻いてヨトゥン兵の膝を狙う。

 智美は頷き、草薙剣と天叢雲剣を交差させて水の波を呼び起こす。


「うん! なんだか、力が湧いてくる! 護るぐらいなら……出来る気がする!」


 矛と双剣が、淡い水色に輝いている。


「2人とも、いくぜ!」


 神器は、それぞれの持ち主の心に呼応していく。


 航太のエアの剣が風を操り、姉妹の水の力を加速させる。


 3つの力が、砂浜の戦場を支配していく。


 ヨトゥン兵は血を吐きながら立ち上がろうとするが、膝が折れる。


「くそが……人間の、分際でぇ!」


  咆哮は弱々しく、血泡が唇を染める。


 航太がエアの剣を掲げ、風を纏う。


「油断は禁物だ! 一気に、きめるぞ!」


 絵美と智美が、力強く頷く。

 神器が、その心に応えた。

 風が舞い、水が畝る。


 航太が、先陣を切る。

 エアの剣が唸りを上げ、風の渦を巻き起こす。

 傷だらけヨトゥン兵の拳が再び振り下ろされるが、風圧がそれを逸らし砂を爆ぜさせる。


 航太は低く身を沈め、エアの剣を横薙ぎに払う。

 刃がヨトゥン兵の太腿を浅く斬り、血の筋を引く。


 ヨトゥン兵がよろめく隙に、絵美が天沼矛を構えて飛び込む。

 水の刃がヨトゥン兵の胸板を深々と斬り裂き、心血が噴き出す。


 ヨトゥン兵の咆哮が、絶叫に変わる。


「やああぁぁぁ!」


 智美は跳躍し、双剣を交差させて水の嵐を呼び起こす。


 無数の水刃が2体のヨトゥン兵の周囲を包み……鎧を削り、皮膚を裂く。

 ヨトゥン兵が腕を振り回すが水の流れがそれを絡め取り、動きを封じる。


「2人とも、安全な場所まで離れて!」


 唖然とした表情で戦闘を見ていた女性2人組は、智美の言葉で我に返った。

 深々とお辞儀をすると、走り始める。


「これで、当面の危機は回避できたな! 後は、コイツらを!」


 航太は風を操り、姉妹の水の力を加速させる。

 風が水を押し進め、矛と双剣の軌跡を倍加する。


「今だ!」


 3人が、同時に叫ぶ。


 航太のエアの剣が風の嵐を纏い、ヨトゥン兵の首を狙う。

 絵美の天沼矛が腹を抉り、智美の草薙剣と天叢雲剣が両腕を断ち切る。

 血が月光に舞い、砂を赤く染めた。


 ヨトゥン兵の巨躯が崩れ落ち、砂浜に深い轟音を残す。


「なんだこいつら……Myth Knightなのか?」


 恐怖が、ヨトゥン兵の声を震わせる。

 怯えが、傲慢な瞳を曇らせていく。

 血が滴り落ち、砂に赤い花を咲かせていた。


 動けるヨトゥン兵が、慌てて叫ぶ。


「おい、Myth Knight3人も相手にしたら、流石に殺されちまう! 逃げるぞ!」


 怯えながらも重傷の仲間を肩に担ぎ、月の光の中に溶けるように逃げ去ようとする。


「逃がすかよ!」


 エアの剣を構え、逃げるヨトゥン兵の背後から一刀を浴びせようとする航太。


「航ちゃん、ダメ! 私達は、戦う為に……何かと争う為に、この世界に来たんじゃない! 今は、護る為に戦っただけ! でしょ?」


 智美の言葉に振り上げたエアの剣を止めた航太は、腕の力を抜く。


「そうだな……その通りだ」


 航太は大きく息を吐いて、エアの剣を鞘に戻す。


 砂煙が残り、血の臭いが夜風に混じる。

 短く……しかし激しい戦闘の余韻が、砂浜に重く沈殿している。


 その時、離れていた女性2人が戻って来た。


「助けてくれて、ありがとうございます! Myth Knight様に助けられて、光栄です! 我が軍を助ける為に、来て下さったのですか?」


「ちょっと待って……Myth Knight? って何ですか?」


 智美が、好奇心を抑えきれずに尋ねる。


「Myth Knightを、ご存知ないのですか? あなた方のような、神剣や神槍を使う騎士様の事ですよ」


 その説明に、絵美がクスクスと笑いを漏らす。


「航ちゃんが、騎士様? ウケるね! 騎士と言うより、見た目はモブ兵……」


「うるせーな! オレもそうだが、智美も絵美も騎士って感じじゃねーだろ! 良くて、同じ事を繰り返して言う住民AとBだぜ! 鏡でも、持ってきてやろうか?」


 航太が目を吊り上げて、絵美を睨む。


「はぁ……どうでもいいけど、カズちゃんの事を聞くのが優先じゃない? モブでも、住民Aでも何でもいいから……」


 智美の冷静な言葉に、航太は気まずい表情を浮かべる。

 一真の顔が脳裏に浮かび、慌てて女性に尋ねた。


「スイマセン……俺らより少し若い男の事、見ませんでした? 走って、コッチに来たと思うんですけど……」


 航太の話を聞いた黒髪の女性が、目を閉じて手を周囲に翳す。

 微かな魔力の波動が、空気を震わせた。


「その方は、無事のようですね。伝心の魔法でこちらの位置を伝えたので、すぐ合流できる筈ですよ」


 不信感を抱く表情で微かに笑顔を見せる女性が、航太に伝える。


「いや……しかし、そう言われてもなぁ。どう思う?」


「彼女達に、私達を騙すメリットが見当たらないよ。数分だけ、待ってみよう。闇雲に探すよりは、良いと思う。それに今の私達なら、状況が変化しても対応出来ると思う」


 航太の疑念に、智美が耳元で囁く。


 それもそうかと、航太は肩の力を抜いた。


 闇雲に探せば、自身が行方不明になるリスクもある。

 先ほどのヨトゥン兵のような敵と遭遇を繰り返すより、ここで待つのが賢明だと感じた。


 力が抜けた航太の肩を、チョンチョンと突く指。


「何ん何だよ、緊張感のない……」


「いやー、素朴な疑問なんだけどさぁ……私達、現地の人と普通に話せてるのおかしくない? 某ネコ型ロボットから、コンニャクもらって食べたっけ?」


 絵美の言葉に、航太も気づく。


「容姿で人を判断しちゃいかんが、日本語をスラスラ喋る様な顔立ちはしてねーよなぁ。どちらかと言うと、白人さんに近い気がするが……」


 伝心の魔法に、Myth Knight……

 知らない謎が、次々と膨らむ。


 この異世界に放り出されたばかりの彼らは、新たな謎の渦に飲み込まれていく……

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