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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
神話の世界へ
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覚醒の神剣1

 「これって……本当に、来ちゃったの? 本当に、来れちゃった……んだよね?」


 智美の声は風に揺れる木々のざわめきに混じって、かすかに震えている。


 周囲を見回していた智美は、月光に照らされた見知らぬ海辺の風景に目を凝らす。


 波の音が、不気味に響く。

 遠くで揺れる木々の影が、まるでこの世界の秘密を囁いているように聞こえる。


「まだ……実感が、湧かないけど」


 智美は自分を落ち着かせるように呟き、言葉を続けた。


「でも……こうして、ここにいる。私も心のどこかで、この世界があるって信じていたのかもね?」


 その声は、まるで自分自身に言い聞かせるようである。

 智美の瞳には恐怖と好奇心が交錯し、月明かりの下で揺らめく。


 その隣で、一真の顔に緊張が走った。


「オレ……ちょっと、周りを調べてくる! みんなは、ここにいて! どんな危険があるか、分からない! 絶対に、離れないで!」


 突然……一真が鋭い視線で辺りを見渡し、口を開いた。


 普段は穏やかで控えめな一真の瞳に、緊張の色が宿る。

 そして次の瞬間、一真は迷いなく駆け出したいた。


 砂浜を蹴り上げ、木々の間に消えていく背中。


「おい、一真! って、もういねぇよ! あいつ、どうしたってんだよ?」


 航太は焦りを隠せず、思わず声を荒げる。


 重い溜息が航太の口から漏れ、砂浜に響く波音に飲み込まれた。


「普段は、大人しいのに……なんなんだよ、あいつ?」


「でもさ、でもさ。いてもたってもいられない気持ち、チョット分かるなー」


 絵美が、軽い口調で口を挟む。


「だってさ……私達の先祖様達の話、ホントに本当だったってことだよね? おじ様たちが語ってた神話の世界が、実際に存在したんだよ!」


 絵美の声は軽快さを装いつつも、どこか不安に震えている。


 絵美の視線は、航太が握りしめる剣……エアの剣に注がれていた。

 その刃は月光を浴びて冷たく輝き、まるで神話の力を宿しているかのように神秘的な光を放っている。


「そう……だな。そんで、神話の世界があるって事はよ……7国の騎士の話も、本当って事だよな?」


「うん……だとしたら、この世界はヨトゥンって種族が侵略戦争を仕掛けてるんだよね? 危険……だよね?」


 航太の焦りの声に、智美の不安が重なって心に響く。


 一真の先祖は、神話の世界で名を馳せた7人の英雄に助けられたらしい。


 先祖達から伝わる伝説によれば……彼らは人間界を滅ぼそうとする恐るべき存在、ヨトゥンを倒すために立ち上がった騎士。

 ヨトゥンは、神の力に匹敵する怪物である。

 7人の騎士はヨトゥンを倒す為に、神の力を宿した武器を求めて旅に出たのだ。


 7人の騎士は幾つかの神聖な武器を手に入れたが、ヨトゥン側に計画が露見してしまう。

 一真の先祖たちはヨトゥン軍に囲まれ、絶体絶命の危機に瀕したという。

 その時、一真の先祖を救った騎士はエアの剣とグラムを手にしていた。


 後に、航太たちの先祖を救ったとされる女騎士……三叉の槍トライデントを振るい、命懸けで空間を切り裂いて逃げ道を作ったという話だ。


 その逃走劇のさなか、ヨトゥンの追撃を振り切るため2人の騎士が時間を稼ぎ……協力した1人の女性がヨトゥンに囚われた。


 その女性は、不死の力を宿す存在だという。

 先祖から伝わる話では、彼女は今なおヨトゥンの城に囚われている。


 先祖達を救ったという神話の世界から逃げて来た騎士は、その女性を何としても救いたいと言っていたらしい。


 子供の頃……航太たちはこの話を聞いて、心を躍らせていた。


 しかし大学生にもなり、そんな話は笑い話になっていた……だが今、彼らが立っているこの世界。

 月明かりに照らされた海辺、木々の間から聞こえる不気味な風の音……すべてが、伝説が現実であることを突きつけてくる。


 一真は意志を継いで、ずっとその女性を救いたいと言い続けていた。


 一真の瞳には、ただの好奇心を超えた使命感とも言える強い光が宿っていた。


 航太は、ふと思う。

 一真は神剣の重さを、最初から感じ取っていたのではないか?

 自分たちとは違う、特別な何かを持っているのではないか?


 航太が、そんな思いに沈んでいると……


 ドオオオォォォォン!


 耳をつんざく爆発音が、闇の向こうから響き渡る。

 一真が……消えた方向からだ!


 砂浜に立つ3人の身体が、衝撃で一瞬硬直する。


「ちょっと、今の! カズちゃんに、何かあったんじゃ!」


 絵美の声は、恐怖と焦りに震えた。


「やめてよ……そんなこと、言わないで! 来たばっかりで、そんな……」


 智美の顔が青ざめ、普段の冷静さを失う。


「とにかく、一真の後を追うぞ!」


 航太は素早く決断を下し、言葉を終える前に走り出した。

 エアの剣を握る手に力が入り、航太の心臓は激しく鼓動する。


「何かあってからじゃ、遅い! 最悪、コッチ来た要領で元の世界に逃ちまえばいい!」


「そだね! 急ごう!」


 絵美が続き、智美も慌てて後に続く。


 神話の世界に足を踏み入れたばかりの彼らは、恐怖に心を支配されていた。

 それでも、一真の無事を確認したい一心で足を前に踏み出す。


 だが、その時……


「きゃあああ!」


 甲高い女性の悲鳴が、進行方向の闇から響き渡った。

 まるで空気を切り裂くような、鋭い叫び声である。


「何? 今の悲鳴! 何でこんなに、次から次に起こるの?」


 智美が両手に握った剣を強く握りしめ、走りながら叫ぶ。


 智美の瞳には、恐怖と決意が交錯する複雑な光が浮かぶ。


「まさか、カズちゃん……コッチの世界の女の子が可愛い過ぎて、襲っちゃった? 私なら、いつでもオッケーなのにー!」


 絵美は不安を誤魔化すように冗談を飛ばしたが、その声は明らかに震えている。


 航太は絵美の言葉を聞き流し、握りしめたエアの剣に目を落とす。

 剣の刃は月光を反射して冷たく輝き、まるで航太に何かを囁いているように見える。


「頼むぜ……今は、お前だけが頼りだ」


 航太は一瞬立ち止まり、エアの剣を見つめた。

 そして……女性の悲鳴が聞こえた方向へ、全力で走り出す。


「ちょっと、航ちゃん! カズちゃんを探すんでしょ? 絵美の冗談を、真に受けないで!」


 智美が大声で呼び止めるが、航太の足は止まらない。


「分かってる! だが、ほっとけねぇだろ!」


 砂浜の柔らかい砂が足を取る中、航太は歯を食いしばって走る。

 この悲鳴の現場に行けば、この世界の何かが分かるかもしれない。

 闇雲に一真を探すより、今はこの状況を利用するべきだ。


 それに困っている人を放っておいて捜索を優先すれば、一真はきっと怒るだろう。

 一真の性格を考えれば、誰かを助けることを選ぶはずだ。


 航太の脳裏には、そんな一真の姿が浮かぶ。


 進行方向で起きていることを手早く解決し、一真の手がかりを得る。

 それが最善の道だと、航太は確信していた。


 だが、急ぐ必要はある……航太は足に鞭を打ち、更に加速させる。


 砂に足を取られながらも全力で走ると、月明かりの下に人影が浮かび上がってきた。


 鎧をまとった2人の大男が、地面に座り込む2人の女性を見下ろしている。


 男たちの目には、獲物を値踏みするような冷酷な光が宿っていた。


「爆発音を聞きつけて来てみりゃ、こりゃいい拾い物を見つけたな!」


 1人の大男が、粗野な笑みを浮かべる。

 そして1人の女性の腕を乱暴に掴み、強引に立たせた。


「やめて! 放して下さい!」


 女性は叫び必死にもがくが、大男の力には流石に敵わない。


「てめぇ、何やってんだ! やめろ!」


 航太は、思わず叫んでいた。

 エアの剣を握る手が震え、緊張と怒りが全身を駆け巡る。


 思ったより大きな航太の声は、夜の海辺に響き渡り大男の視線を一斉に引きつけた。


 月光の下……薄暗いからこそ震える航太の姿は隠され、まるで神話の英雄の様にも見える。


 エアの剣を構えながらも、航太の心は揺れていた。


 この世界の真実と、一真の安否。

 そして、目の前の危機と恐怖……


 すべてが航太を試すかのように、迫り来ていた……

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