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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
二人のフィアナ騎士
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運命の交響曲 ゼークの剣2

 ゼーク12歳の春。

 銀の試練場は、すでにゼークの故郷のようになっていた。


 父ファルミアの「白銀の閃光」は、依然として7国に轟く最速の剣。

 だがゼークはもう、ただ追いかけるだけの少女ではない。


 ゼークは父の剣を「継ぐ」のではなく「超える」ための道を、自分自身で切り開こうとしていた。


 その日……試練場に降り注ぐ朝陽は、いつもより鋭く冷たく感じられる。

 ゼークは白い訓練着の上に、薄手の銀糸のマントを羽織っていた。


 背負うは、父から贈られたばかりの本物の剣。


「白炎の剣」を返したと同時に贈られた「白銀の月影」


 刃渡り六尺程もある、長剣。

 しかし細身で軽く、芯に秘めた硬さを湛えた一振。


 ゼークの身長に比べて長いが、それでも剣との一体感を生む程に馴染んでいた。


 ファルミアはいつものように巨木の根元に腰を下ろし、静かに娘を見守る。


 ゼークが初めて、自分の剣を「型」として示す日だった。

 ベルヘイム近衛騎士団に伝わる伝統の型、風読みの剣。


 その型を更に、自分流に進化させている。


「始めるよ、父様」


 ゼークの声は静かだったが、そこに宿る決意は霧のように濃く広がっていた。


 ゼークは目を閉じ、深く息を吸う。

 そして……ゆっくりと、剣を抜いた。


 剣身が朝陽を浴びて、青白い光を放つ。

 父の白炎とは、違う。

 より冷たく、より澄んだ……月光のような、輝き。


「始まりの型、風華」


 言葉と共に、ゼークの身体が動く。


 初動は、驚くほど静かだった。

 足音すら立てず、まるで影が滑るように前へ。

 剣は高く掲げられ、ゆっくりと弧を描いて振り下ろされる。

 だが、その軌道の途中で……剣が、止まる。


 いや、止まったように見えた。


 実際には極限まで速度を落とし、剣先が空気の中で微かに震えながら一点に集中している。

 次の瞬間、剣が再び動き出す。

 まるで水が流れ込むように滑らかに、しかし確実に。


 剣先から、淡い青い光の粒子が零れ落ちる。

 それは花弁のように舞い、風に触れて静かに消えた。


 瞬間……古木の枝が音もなく3本、斬り落とされる。

 切断面は鏡のように滑らかで、まるで最初からそこになかったかのよう。


 ファルミアの瞳が、わずかに細まる。


 ゼークの動きは、止まらない。

 二歩三歩と進みながら、剣を連続で振るう。


 しかしそれは、父の「閃光連斬」とは全く異なる。

 父のそれは、閃光の如き連斬。


 ゼークのそれは、月夜に咲く花の連なり。


「追の型、朧華連舞」


 剣が円を描き、弧を描き、螺旋を描く。

 各々の軌道が重なり合いながらも、決して交わらない。


 青い光の尾が残り、試練場の空間に複雑な模様を刻む。

 まるで、満月の夜に舞う幽鬼の舞踏のようだった。


 まだ、父ほどの剣速は出せない。

 だからこその、間合いと間の極致。


 そこに剣が「在る」ように仕組まれた、幻影の如き剣。

 在る場所にはなく、迂闊に踏み込めば青の連斬の餌食となる。


 そして、終の型。


 ゼークは深く息を吐き、長剣を鞘に納める仕草を見せながら……しかし、納めない。

 剣を鞘に半分だけ戻し、柄を握り直す。


「終極・蒼月」


 ゼーク家に伝わる、高速の剣術。

 その動きを応用した、一撃必殺の剣。


 高速で鞘を引き、剣を振り抜く。

 鞘と剣刀の摩擦で、青い炎が生み出される。


 振り抜かれたバスタード・ソードは、弧を描きながら青い炎を舞散らす。

 青い光が渦を巻き、まるで小さな月食のように周囲を飲み込む。

 試練場の中央に、巨大な青銀の円が浮かび上がる。

 そして一瞬の静寂の後、爆ぜるように四散した。


 地面に残ったのは、完璧な円形の斬撃痕。

 深さは浅いが円の内側だけが、まるで時間が止まったように葉一枚落ちていない。

 外側は、風に揺れる葉が通常通りに……


 ファルミアは、ゆっくり立ち上がる。


「速さだけが、剣の全てではない。風読みとゼークの剣の融合、見せてもらったぞ」


 ゼークは汗に濡れた銀髪を掻き上げ、静かに頷く。


「父様の剣は光のように速く、すべてを焼き払う。私の剣は月のように静かに、でも確実に在ることを証明したい。敵が気づいた時には、もう遅い。私がそこに存在したっていう、事実だけが残るように……」


 ファルミアは娘の肩に手を置き、珍しく穏やかな笑みを浮かべる。


「いい剣だ。銀狼の血を継ぎながら、まったく別の道を歩み始めた。伝わるといいな、マクロイヒの剣に……」


 ゼークは父の胸に額を寄せ、小さく呟く。


「なんでヨトゥンに寝返ったのか、分からない。でも、いつか私の剣で取り戻してみせる。私の存在を感じてもらえる剣で、カラドボルグを封じてみせる。絶対に、届かせるんだ……私の剣を!」


 朝陽が試練場を、黄金に染め上げる。


「難しいな……人とヨトゥン、人と神。侵略してくる方が悪い、命を奪った方が悪い……そして生まれる憎しみで、悪夢が繰り返させる。この戦いに、終焉があるのか? 願わくば、娘の剣が正しく使われるように……真実を知っても、その引き金を引かぬように……」


 ファルミアは、静かに呟く。


 この時、アムルサイト・ゼークは何も知らなかった。

 自分の名前に隠された真実も、白炎の剣に隠された秘密も……

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