表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
二人のフィアナ騎士
31/49

運命の交響曲3

 反乱の報せが届いた瞬間、フェルグスの心臓は激しく鼓動を打った。


 アルスター王国の国境に位置する村、アデストリア。

 そこはヨトゥン軍の脅威にさらされた最前線で、約五百人の住民が暮らす中規模の集落である。


 そのアデストリアは、ヨトゥン軍の将ロキが率いる部隊に囲まれていた。


 ストレスに晒された状態での、生活苦……民衆の不満が爆発し、反乱が起きている。

 それが、フェルグスに届けられた急報だった。


 フェルグスは即座に愛馬に跨がり、近衛騎士たちを従えて現地へ急ぐ。

 馬の蹄が大地を蹴る音が、森の木々を震わせる。

 道中、風が木の葉をざわめかせ、遠くから煙の臭いが漂ってきた。


 アデストリアの空は、すでに灰色の雲に覆われているのかもしれない。

 フェルグスの胸中には、民の苦しみが渦巻いていた。


 アルスターの重税と戦争の負担が民衆を追い詰めていることを、フェルグスは知っている。

 父である国王の政策が、民を苦しめていることを。


 その道すがら、不審な影が現れた。

 漆黒の鎧を纏い、漆黒の馬に跨った騎士。

 馬の毛並みは闇のように黒く、鎧の表面は光を吸い込むかのように鈍く輝いている。


 漆黒の騎士の視線は鋭く、フェルグスの全てを見透かすようだった。


 挙動に隙はなく、只者ではない。

 フェルグスは無意識に、神剣カラドボルグの柄に手を伸ばす。


「フェルグス殿と、お見受けする。間違いはないか?」


 漆黒の騎士の声は低く抑揚のない響きで、森の静けさを切り裂いた。


「貴様、何者だ! フェルグス様は急いでおられる! そこをどいてもらおうか!」


 近衛騎士の1人が、馬を進めてフェルグスと漆黒の騎士の間に割り込む。

 剣に手をかけたその騎士の目は、敵意に燃えていた。


「すまぬが、フェルグス殿に重要な話がある。我らと共に歩むか、愚王と共に騎士としての道を外していくのか……話を聞きたくば構わないが、貴殿も後に引けなくなるぞ?」


 漆黒の騎士の言葉は、静かだが重みがある。

 まるで運命の選択を迫る、予言者のように。


「怪しい奴め! 貴様と話をしている余裕など、ない! どかねば、斬るぞ!」


 近衛騎士が剣を抜きかけた瞬間、フェルグスはその動きを制止させる。


「待て。かなりの使い手だ。戦えば、こちらも犠牲を覚悟しなくてはいけない。だが、我々も急いでいる。手短に済ませてもらえると、助かるんだが?」


 フェルグスの声は落ち着いていたが、内心では警戒を解いていなかった。

 漆黒の騎士は一礼し、ゆっくりと語り始める。


「ありがとうございます。話は簡単です。この先で起きている反乱に加担しているアデストリアの民、約五百名……他の村からアデストリアに向かっている民衆、約百名。全て、我々が責任を持ってお預かりします。フェルグス殿も共に来て頂ければ……ですが」


 その言葉に、フェルグスは視線を鋭くした。

 騎士の目は真っ直ぐで、嘘の気配はない。


「なるほど……こちらの事情は、お見通しという訳だ。私が国を裏切り、更にフィアナ騎士団をも裏切るとお思いか?」


「民の為ならば。人の命の尊さを、フェルグス殿は分かっているはずだ。命の重さは平等ではないが、軽々しく奪っていいものではない。人でもヨトゥンでも神でも、それは同じだと我々は思っています。フェルグス殿も、同じのはずだ。だからこそ、今アデストリアに向かわれているのでありましょう?」


 フェルグスは、カラドボルグを握っていた手を離す。


 漆黒の騎士の言葉は、フェルグスの心の奥底を突いていた。


 民の苦しみは、無視できない。

 それがフェルグスの弱さであり、強さでもあった。


「アデストリアの民の命は、保障してもらえるのだな?」


「もちろんです。命も生活も、保障しましょう。少なくとも、今よりは良い生活が出来るように手を尽くすつもりです」


 漆黒の騎士の言葉に、フェルグスは頷く。

 だが、近衛騎士の1人が叫ぶ。


「フェルグス様、このような得体の知れぬ騎士の戯言を信じるおつもりか? 民を連れて行ったところで、裏切る事もありえます!」


「そうか……確かに、名も知らぬというのもな。名乗ってもらう事ぐらいは、できるのだろう?」


 漆黒の騎士は馬から下り、深く礼をする。


「失礼いたしました。ロキ軍の将、ビューレイストと申します。以後、お見知りおきを……」


 その名に、近衛騎士たちはざわつく。

 敵将の名を堂々と名乗るなど、狂気の沙汰だ。


「敵を前に、馬から下り……敵将の名を出し、降伏勧告をしてくるとはな! 貴様、阿呆か?」


 1人の近衛騎士が馬ごとビューレイストに突っ込み、バスタード・ソードを振り上げる。

 馬の蹄が土を蹴り、風を切る音が響く。


「フェルグス殿、兵の教育はしておいた方が良いな。無駄に命を散らす事になります」


 ビューレイストは半歩で馬の突進を躱し、振り下ろされた剣の腹を手首に装備したガントレットで押し返す。

 バランスを崩した近衛騎士は、馬から転げ落ち土埃を上げる。


「馬上からの攻撃を、軽々躱わすか……強いな」


 フェルグスは、感嘆した。

 ビューレイストの動きは、芸術のように洗練されている。


「フェルグス殿……アデストリアの民も含め、お待ちしております。我々と共に、あるべき世界の為に……」


 ビューレイストは漆黒の馬に飛び乗り、森の奥へと消えていく。

 その後ろ姿を見送りながら、フェルグスは決意を固めていた。

 民を救う道は、そこにあるのかもしれないと思いながら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ