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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
紅の剣士と恐怖の剣
16/29

悲しみの過去、復讐の刃2

 ガァキキキィィン!


 エアの剣とヘルギが、激しく交錯する。

 金属の悲鳴が夜の闇を切り裂き、火花が散る。

 2つの刃は、互いの意志を試すように激突を繰り返した。


「ガイエン! てめぇ、なんで人間をここまで恨むんだ! 戦争だからって、制圧した場所を燃やす必要がねぇだろ!」


 航太の声は、剣の衝撃に負けじと響き渡る。


 汗が額を伝い息が荒くなる中、航太は必死にガイエンの心に訴えかけた。


「いちいち、煩い奴だな! それこそ、戦争中だ! 制圧した場所をどうしようと、コチラの勝手だ!」


 ガイエンは獣のような咆哮を上げ、ヘルギを振りかざす。

 朱色の刃が空を切り、風を裂く音が周囲を震わせた。


 過去の傷が、ガイエンの瞳に暗い炎を灯す。


「勝手じゃねぇ! 勝負がついた後に追い討ちをかけるのは、下衆のやる事だぞ!」


 航太の言葉が鋭く突き刺さるが、ガイエンは嘲るように唇を歪めた。


「ちっ! 言ってろよ! 人間の醜さも知らない、平和ボケした野郎が!」


 一瞬の隙を突き、ガイエンの剣撃が航太を吹き飛ばす。


 地面に転がる航太の体が土を抉り、痛みが全身を駆け巡った。


 立ち上がる間もなく、ガイエンの声が追撃のように降り注ぐ。


「オレの親は、人間に殺された。仲間だと思い、必死に守っていた村の住民にな! その争いの中で、幼馴染も死んだ! 人間は、簡単に裏切る。どんなに世話になった人間にも、容赦なくな! だからオレは、人間以外の勢力で人間と戦う道を選んだ!」


 ガイエンの叫びは、荒野に轟く雷鳴のように響き渡った。


 民家の中で幼馴染の妹に似た人間を斬った記憶が、フラッシュバックのようにガイエンの脳裏をよぎる。

 感傷が一瞬、硬い表情を緩めた様に見えた。


「それは……ご両親は、村の人達に恨まれるような事をしていないのに? 何もなく、人を殺すなんて事……それに、幼馴染も亡くなったって? そんな、辛い事……」


 智美の声は震え、涙が瞳に滲む。


 智美の優しい問いが、ガイエンの心の鎧に小さな亀裂を入れる。


「何なんだ……調子狂うな。少なくとも、オレの親は悪い事はしていなかった。だが、村で一番強かった。ヨトゥン側に裏切られるのが怖くて、先手をとって殺されたって訳だ。強いって事は、仲間の時は良いが敵になると厄介だからな。恐怖心ってのは、人の心を狂わせる。それに巻き込まれた方は、たまったモンじゃねぇがな」


 ガイエンの言葉は、苦々しく吐き出された。


 過去の影が、ガイエンの肩を重く押しつぶす。


 そのやり取りを傍らで聞いていたガーゴが、大きく欠伸と伸びを突然開始した。

 まるで、退屈な芝居を見ている子供のように。


「話が長すぎて、付き合いきれんでしゅ~。あの民家で、一休みするでしゅよ~」


 ガーゴは無邪気に跳ね、軽やかな足取りで一真たちが入った民家へと飛び込んだ。

 好奇心旺盛なその姿は、戦場の惨状やガイエンの話の内容とは対照的に見える。


「あ~、人が倒れてた民家だったでしゅ~。血で、汚れてしまったでしゅ~。やっちまったでしゅよ~」


 民家から響くガーゴの声に、航太は思わず顔をしかめた。


(一真……こりゃ、マジでご愁傷様だな。ガーゴが邪魔しなきゃ、いいんだが……)


 航太は一瞬だけ民家に目をやるが、すぐにガイエンの周囲に鋭い視線を戻す。


 智美は、震えを抑えきれずにいた。

 瞳から溢れる涙が頰を伝い、静かに地面に滴り落ちる。


 智美の心は、戦争の残酷さに引き裂かれそうだった。


「ちっ、馬鹿にしてやがるのか! いい度胸してるじゃねぇか!」


 ガイエンの顔が真っ赤に染まり、怒りに震える声で吠える。

 瞳に燃え盛る炎は、抑えきれない羞恥の証。


「いや、すまねぇ……あいつには、オレ達も頭抱えてるんだ。オレ達は、決して馬鹿になんかしてねぇよ」


 航太は懸命に弁解し、智美へと視線を移す。


 その視線を感じたガイエンも、智美の泣き腫らした顔に目を留めた。

 一瞬、硬い表情が緩む。


「お前ら……何か、不思議な雰囲気を持ってるな。それに、何だか今日は懐かしさを感じる夜だ……喋りすぎたな」


 ガイエンの声に、わずかな柔らかさが混じる。

 仮面の奥に隠された、人間味が覗く瞬間。


「誰かに、自分の心の奥底を聞いて欲しかったんだよ! 話を聞いてもらうだけで、心が救われる時だってあるんだよ!」


 絵美の声は軽やかだが、優しさに満ちている。

 風に舞う花びらのように、場を柔らかく包み込む。


「そうだ。人間は、お前の言う通り弱いかもしれねぇ! けど……助け合ったり、思いやったりすることもできる。気持ちが繫る事で何倍もの力を引き出せるし、心に安らぎだって得られるんだ。確かに、人間を信じられなくなる体験をしたかもしれねぇが……少しずつでも、信じてみねぇか?」


 航太の声は熱を帯び、ガイエンの心に届くことを祈るように力強く響く。

 希望の光が、闇を照らすかのように。


 だが、その瞬間……茂みが激しく揺れる。

 そしてクレイモアのような巨大な大剣を握った男が、雷鳴のような咆哮を上げて飛び出してきた。


「貴様が……貴様がティアを! 人の心を踏みにじった罪を、今ここで償え!」


 男の瞳は憎悪に燃え、大剣を振り上げる動作に空気が裂ける音が響く。

 重い刃が風を切り、ガイエンへと襲いかかる。


 バシュッ!


 決着は、あまりにも一瞬だった。


 ヘルギが漆黒の中で赤き閃光を放ち、男の大剣を紙のように両断する。

 刃は止まらず、男の胸を深々と貫いた。

 鮮血が噴水のように吹き出し、木々や草を赤く染め凄惨な絵画を描き上げた。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 智美の悲鳴が夜空を切り裂き、両手で顔を覆いその場に崩れ落ちる。


 地面に膝をついた智美の肩が、小刻みに震えていた。


 恐怖と悲しみが、智美を飲み込む。


「ガイエン、てめぇっ! やりすぎなんだよ!」


 航太は怒りに我を忘れ、エアの剣を本能的に構える。

 血の臭いが鼻を突き、戦慄が全身を駆け巡った。


「ふん……貴様ら、甘すぎるな。人が助け合えるのは、自分に危険が及ばねぇ時だけだ。圧倒的な力の前では、誰もが保身に走る……それが、人間の本性だっ!」


 ガイエンは冷たく言い放ち、ヘルギを握る手に力を込める。

 付着した血液を一振りで払うと、航太へと疾風のように斬りかかった。


 ガキィィィ!


 エアの剣とヘルギが火花を散らし、金属が悲鳴を上げる。

 航太は剣の間に風を渦巻かせ、殺意に満ちた剣圧を必死に押し返した。

 風の力で衝撃を緩和し、両手に走る痺れを防ぐ。


「ガイエン! オレ達に、戦う理由なんかねぇだろ! オレ達は、お前の話に共感できた。同時に、このままじゃダメだとも思ってる! 手を……取り合える筈だ!」


 航太は叫びながら、倒れた男に一瞬目をやる。

 戦争の中で敵に刃を向ければ、死の可能性はある……頭では、理解していた。


 ガイエンが、悪いわけではない。

 戦争そのものが、悪の根源だ。

 無駄に散る命を生む、元凶。


「どうかな? お前らは、ヨトゥン軍で戦えるってのか? ベルヘイム軍に……人間側に付いている限り、その男と同じだ。オレにとっては、敵でしかねぇ!」


 ガイエンは吼えるように言葉を叩きつけ、自らを鼓舞するかのように高速で剣を繰り出す。

 刃の軌跡が空を切り、死の予感を纏う。


「うわぁぁぁ!」


 航太はエアの剣に風を纏わせ、太刀筋をずらしながら命懸けで防ぐ。

 しかしヘルギの刃は徐々に航太の皮膚を切り裂き、鮮血が無数に飛び散り始めた。


 身体中が熱を持ち、痛みが意識を蝕む。

 限界が近づいているのが感じ取れ、恐怖を感じる。


「何で……何で、分かんないのよー!」


 絵美が叫び、ガイエンの横から天沼矛を突き出す。

 しかしガイエンの動きはあまりにも速く、軽く弾き返されてしまう。


 経験の差は、絶望的な程である。

 絵美の瞳に、悔しさが宿った。


 ガイエンは獲物を航太に定め、止めを刺す体勢に入った。

 ヘルギを赤く輝かせ、完璧な間合いから渾身の一撃を放つ。


 航太は、全身を貫くような恐怖に打ち震える。

 冷や汗が額から滴り落ちる中、恐怖で目を固く閉じた。


 その瞬間、運命の刃が迫る。

 夜の闇が、2人の未来を飲み込もうとしていた……

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