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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
紅の剣士と恐怖の剣
13/32

恐怖の紅い騎士3

 後方からの爆発音……


 航太は咄嗟に、音の正体を見極める。

 どこから放たれたのか……火の粉を撒き散らしながら、火の玉がガイエンに向かって飛んで行く。


「火の玉? ファイア・ボールってヤツか? いよいよファンタジーしてきやがったな! だが……これなら、やれるかもしれねぇ!」


 航太は、エアの剣で風を起こす。


 刃から迸る風が渦を巻き……

 火球を掴み……

 煽り……

 膨張させる。


 炎球は獰猛な咆哮を上げ、轟々と加速。

 地獄の獣と化し、ガイエンへ襲いかかった。


「なにっ? くそがっ!」


 ガイエンはヘルギを閃かせ、辛うじて火球を切り裂く。 

 だが風圧で膨れ上がった炎は予想を超え、右腕の甲冑を焦がし皮膚を裂いた。

 肉が焼ける嫌な臭いが立ち上り、血が滴り地面に黒い染みを作る。


 痛みに歯軋りを漏らす顔に、狂気の亀裂が走った。


 航太が視線を移すと、エリサが松明を高く掲げている。


 炎がエリサの意志に応じ、脈動し蠢く。

 その瞳に宿る光は、死地を前にしても揺るがない。


 しかし、その小さな手は震えている。

 額を伝う汗が地面に落ちるたびに、小さな穴を穿つ。


「航太様、大丈夫ですか? 皆さん、一度後退を! ここは私達が!」


「エリサさん、ありがとう! でも、来ちゃ駄目だっ!」


 近寄ろうとするエリサを、航太が必死に止める。

 ガイエンの焦りの表情から、予測不能の遠距離攻撃が有効であることを直感したのだ。


「エリサさん、医療班だった筈だよな? なんで戦場に?」


「私達ホワイト・ティアラ隊の任務は、戦場で傷ついた兵や人々の傷を癒す事。当然、危険でも戦場に出ますよ。救うべき人達が、そこにいるのなら!」


 海辺で会った時の優しい表情とは違い、今は凛々しく力強さも感じる。

 オゼス村に向かっていた筈なのに、異変を感じて来てくれたのだろう。


 その臨機応変の対応に、航太は胸に熱いものを感じた。


「智美、絵美、エリサさんの援護攻撃に合わせて、ここまで下がれ!」


 魔力を込めたエリサの言葉が、松明の炎に命を吹き込む。


 エリサの魔力によって松明の炎が分裂し、無数の火球を生み出した。

 まるで意志を持った生き物のように、宙で蠢き牙を剥く。


「飛べっ!」


 エリサの声が響くと、火球がガイエンへ殺到する。


「で、今度は2段加速だっ!」


 その火球に航太は風を重ね、鎌鼬で拡散させる。

 1つ目の風で加速し、2つ目の鎌鼬がファイア・ボールを拡散させる。


 2段加速の変則攻撃が、ガイエンを防戦に追い込んだ。

 火球が炸裂するたびに衝撃波が広がり、地面が抉れ土煙が視界を塞ぐ。


「ちっ、厄介な攻撃を考えやがって! 腐っても、MythKnightって事か!」


 ガイエンはヘルギを旋風のように振り、ファイア・ボールを弾き返す。

 火花が散り、紅の甲冑が焦げる。


 しかし足止めをされてはいるが、ダメージを受けずに捌いているのは流石と言えるだろう。


 ガイエンの足止めに成功している間に、智美と絵美が航太と合流する。


「エリサさん、ありがとうございます。助かりました!」


「ほんと、ナイスタイミングだったねー! でも、これからどーする?」


 智美と絵美はエリサに感謝を述べ、航太に顔を寄せる。


「まだ具体的な対策は考えてねぇんだけど、とりあえず遠距離攻撃は効果的だと思う。あいつの剣は、マジで強ぇ……オレ達が弱いだけの可能性はあるが、近距離でヤツに勝つのは難しいと思う」


「それは分かるけど、火の玉の攻撃だけで何とかなるの? 全く効いてないように見えるんだけど……」


 智美の言葉に、絵美もウンウンと力強く頷いている。


「だが、ヤツの剣の効果……よく分かんねぇけど、あの赤い光を浴びるのはヤバい。できるだけ、近寄らない方がいい」


 航太はヘルギの効果が、剣を振るう時や距離を置けば無効化されるのではないかという仮説を立てていた。

 つまり剣が動いてなければ使えず、その効果範囲は然程広くない。


「まずは、出来る事からやってみるか! エリサさん、火の玉を何発か撃ってくれ!」


 エリサは頷き、松明から火球を次々と放つ。

 だがその手は震え、額を伝う汗が地面に落ちる。

 体力が、限界に近づいていた。


 エリサの状態まで見る余裕がない航太は、ファイア・ボールに合わせて風と鎌鼬を飛ばす。


 ヘルギが火花を散らし、防御に徹するガイエン。

 2方向からの変則的な遠距離攻撃の猛攻に、防戦一方となった……ように見えた。


 だがその瞳に、嘲笑が宿る。


「智姉……ネイアさんとも相談したんだけど、ガイエンが出て来た民家に入ってみる! まだ中の人が生きてるかもしれないし、もしそうなら治療を待ってるかもしれない」


 ガイエンの足止めが成功したと見て、一真が唐突に智美に提案してきた。


 ネイアは既に何個かの医療道具の準備を終え、一真の後ろで待機している。


(こんな時にも、他人の心配? でも、カズちゃんらしいのかな? 確かに、ガーゴは女の人と赤ちゃんが……って言ってたけど、殺されてたとは言ってないか……)


「了解したわ。航ちゃんにも伝えておく。でも私達じゃ、援護も出来ないと思う……ネイアさん、カズちゃんをお願いします。危険だと思ったら、逃げるのよ」


「智美様、一真様は私が必ず守ります」


 智美はネイアの言葉に安心し、一真に目配せした。


「ありがとう、智姉! ネイアさん、行きましょう!」


 智美の合図で、2人は民家に向かって駆け出す。


 民家に消えていく一真の背中を見送りながら、智美は前方から聞こえてくる荒々しい息遣いが激しくなるのを感じた。


「はぁっ……はぁっ………」


 その荒々しい息遣いが聞こえる方に視線を移すと、そこには肩で息をするエリサの姿があった。

 魔法は、彼女の体力を急速に奪っているのだろう。


「航ちゃん、エリサさんが限界よ! 他の作戦考えて!」


「ガイエンの野郎……手も出さずに防御してたのは、この状況になるのを知ってたんだ……すまねぇ、エリサさん!」


 弱々しい火の玉を最後に撃ち出したエリサは、膝から崩れ落ちる。

 額には、無数の汗が輝いていた。

 限界までファイア・ボールを放っていたのが、その状態で分かる。


 火の玉の力が衰えた瞬間、そのファイア・ボールを切り裂きながら……ガイエンは、倒れたエリサ目掛けて猛然と突進する。


「ナメた真似をしやがって! あの世で後悔させてやる!」


 ガイエンの剣が、エリサに迫る!

 ヘルギが閃き、剣閃がエリサの首筋を狙う。

 刃が空気を裂き、残光が尾を引く。


「きゃあああ!」


 エリサは恐怖で、その瞳を閉じた……


「させるかよ!」


 エアの剣から発生した鎌鼬が、土煙を巻き上げて割り込んだ。

 鎌鼬がガイエンの視界を塞ぎ、剣先がわずかに逸れる。


 それでも勢いは止まらず、ヘルギの刃がエリサの肩を浅く斬り鮮血が舞う。

 血しぶきが弧を描き、地面に赤い花を咲かせる。


「ぐっ……!」


 エリサは声を殺した悲鳴を上げ、崩れ落ちた。


 肩から噴き出す血が、エリサの白いローブを真紅に染める。


 その姿を見たガイエンは、動きを止めた。

 一瞬、瞳を閉じる。

 そして、一度だけ首を横に振った。


「あの時と……今は違う。嫌な事を、思い出させやがって!」


 ガイエンは、再びヘルギを振り翳す。

 躊躇いを捨てたヘルギの刃は、エリサの命を刈り取ろうとしていた……


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