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第29話

――痛い、苦しい。


 今日も僕は大地の底で、地獄の苦しみを味わっていた。

 おかしい。

 どうして、こんなことに。


 僕はエルミカに助けてもらったのに……。


 うん?


 あぁ、そうだ。

 僕はエルミカに助けてもらったんだ。


 だから僕がこんなところにいるのはおかしい。

 つまりこれは夢だ。


 そう気付いた途端、痛みはなくなった。

 僕は、「僕」を見ていた。


 痛みに苦しみ、己が犯した罪を懺悔し、泣き叫ぶ僕を見ていた。


 なるほど。

 これは記憶だ。


 あり得たかもしれない未来。

 もしくは、どこかで起こった過去。

 それとも、今、どこかで起きている現在。

 もしくは、かつての僕の体験。


 その記憶だ。


 少なくとも、これは今の僕じゃない。

 だから……。



――タスケテヤロウカ?



 声がした。

 声のする方を見上げる。


 地上、その遥か先。

 大空の上、宇宙の果て。

 その深淵の向こう側。

 巨海の底のように暗く、静かな虚空の中。

 光り輝く、真紅の星――否。


 紅い瞳。


 ソレはいた。

 こちらを見下ろしていた。


――タスケテヤロウカ?


 ソレは僕に問いかける。


 なるほどね。

 君は誰かに望まれないと、この星に降り立てないのか。


 だからそうやって、問いかけて来るんだね?


――タスケテヤロウカ?


 悪いけど、もう僕はエルミカに助けてもらった。

 君の助けはいらない。

 他を当たってくれ。


――ワカッタ……。


 その声はとても悲しそうだった。






 どうか……。


 どうか、どうか、どうか、どうか、どうか!!!!!

 お嘆きにならないでください! 悲しまないでください! 泣かないでください!

主よ、主よ、我らが主よ!

 我らの父よ!

 我らの真の支配者よ!


 外側より我らを見守りし、我らの主人よ!!

 紅き星よ、紅き瞳よ。

 “紅き御方”よ!!!


 あなた様の悲しみは我らの悲しみ!

 あなた様の怒りは我らの怒り!

 あなた様の望みは我らの望み!


 あなた様の勇ましき御御足が、この大地を踏みしめることができますように。

 あなた様の優しき御手が、我らの頭を撫でることができますように。

 あなた様の清らかな御声が、全てのツマリ共にも聞こえますように。

 あなた様の美しき御姿が、全てのアカズ共にも見えますように。


 我ら、粉骨砕身いたします故……どうか、どうか!!




 ……聞け!!

 皆の衆!!


 今、我らの崇高なる計画に乱れが生じている。


 ファルティナ。

 本来、我らの同志となるはずであった者。

 エブラム教会始まって以来の天才。

 忌まわしきエブラムが企てし、封神の担い手。

 エブラムの知の真なる後継者。


 ララ・シーリウス。

 合成精霊の末裔。

 我らのことを記憶する、最後の生き残りの片割れ。

 裏切り者共の血と知の執念の結晶。

 最初の鍵の生まれ変われにして、最後の鍵。

 白銀の鍵の相続人。


 何より、贄巫女クルシュナ!

 忌まわしきナディアに匹敵する器。

 翠星の末子。

 死にゆく星の落とし子にして、悪足掻き。

 主を阻みし最後の砦の人柱。 


 本来であれば、忌まわしきアルコーンと相打ちするはずだったやつは、まだこの地上にいる。

 このままでは五百年前の焼き増しになりかねない。


 本来、死ぬべき者が生きている。

 生きるべき者が、死んでいる。


 大いなる運命の乱れ。

 その原因は全て、ただ一人の男にある。



 ニセ勇者、エルミカ!!



 忌まわしき、“碧き星”の使徒!

 邪悪な“碧き瞳”の持ち主。

 手段は分からぬが、やつは我らが作り出すはずの運命の流れを知り、それを尽く覆している!!


 この機を逃せば、次に星辰が揃うのは五百年後となる。

 主をこれ以上、お待たせするわけにはいかぬ。


 故に奴をこの星から除く必要がある。


 初代贄巫女アマティア。

 魔王シメオン。


 二名に並ぶ、我らの障害。

 第一級特異点とする!


 案ずるなかれ。


 運命とは、絶対の意思が作り出す、世界の流れ。

 

 奴らは強大ではあるが、しかし個に過ぎぬ。


 我らの千年の意思が、負けるはずがない。

 

 さあ、同志諸君。

 祈り、讃え、寄り、頼られよ!


 この翠星が紅き夢に染まるその時まで!!







「あぁ、あぁ、主よ! 我らが父よ!! どうか、お許しください!!! って、頭を打ち付けながら、死んじゃったってさ」

「つまり手掛かりなしと」


 クルシュナの説明に俺はため息をついた。

 今回の竜王襲撃事件。

 原作に於ける「聖王国の惨劇」。


 その発端は「アマティア大神殿が“エリクサー”を密造したから」である。

 しかしここで一つ、気になることがある。


 どうやってアマティア大神殿は“エリクサー”の製造方法に至ったのだろうか?と。


 “エリクサー”の正体はアルヴ族に伝わる、秘薬だ。

 

 車輪の再発明をした可能性も考えられるが……それよりはアルヴ族の生き残りか何かが絡んでいると考える方が自然だ。


 原作では聖王国ごと何もかも吹き飛んでしまったので、その経緯は不明だったのだが……。

 幸いにも第一王子、第二王子たちの活躍のおかげで、“エリクサー”を製造した連中を逮捕することに成功している。


 原作では明らかにされなかった真実……気になるじゃん?


 というわけで、もし取り調べで経緯が分かったら教えてもらえるように、俺はクルシュナに頼んでいた。

 普通は他国の貴族にこんなことを教えるはずないが……。


 今回の事件が早期解決できたのは、俺のリークがあったからだ。

 俺にはそれを知る権利がある。


 というわけで俺は真実が明らかになるのを楽しみにしていたのだが……。


 結論は「作ったやつは自殺してしまいました」というつまらないものだった。

 はぁ。

 萎えるわ。


「しかし頭を打ち付けて自殺、か……」


 人間には生存本能があるので、基本的に痛みや命の危機にはブレーキが入る。

 頭を打ち付けて自殺なんてのはかなり難易度が高い。

 並大抵の覚悟ではできないだろう。


「我らが主……か。エブラム教の異端宗派か、何かか?」

「知らないよ。……エリクサーでキマってたみたいだし。頭のおかしな人の言動なんて、鵜吞みにしない方がいいよ?」


 意味なんてないよ。

 とクルシュナは肩を竦めた。


 なお、今回死んだやつはアルヴ族でも何でもない、ただの一般人類だった。

 絶対にアルヴ族の生き残りだと思っていたのに。


 考察が外れてしまった。

 

 もしかして、「原作者の人そこまで考えてないよ」案件なのだろうか?


 ………………

 …………

 ……というか、原作者って誰なんだろうか?


 この世界は間違いなく、『ウィリディステラ・クエスト』の世界だ。

 だが、間違いなく現実、リアルだ。


 ここで気になるのは、卵が先か、鶏が先かだ。


 要するに『ウィリディステラ・クエスト』を元にこの世界が作られたのか。

 それともこの世界を元に『ウィリディステラ・クエスト』が作られたのか。


 ちょっと気になる。

 さすがに自分が転生した理由くらい分からないと死んでも死にきれない。


 もっとも、たまたま偶然なのかもしれないけど。

 猿がシェイクスピアを書き上げたように、たまたま原作者がこの世界とそっくりのゲームを作り上げたのかもしれない。


 そして俺もたまたまこの世界に転生したと。

 ……さすがにそれはあり得なくないか?


 となればもっとも可能性が高いのは、これが俺が見ている夢であること。

 いわゆる、“夢オチ”だが……。


「な、なに? 人の顔、マジマジと見て……」


 クルシュナはジャケットにショートパンツという、中性的な格好をしていた。

 一見すると男装風に見えなくもないが、ジャケットのボタンは左前についているし、大胆に太ももを露出させたショートパンツは、かなり女性的だ。

 そして何より、普段は抑圧されていただろう胸と尻が、服の上からはっきり分かるほど浮き出ている。


 ……どうやってこれ、今まで隠せてたんだ?

 胸はサラシでどうにかできても、この尻はどうにもならんだろ。


 夢よりも気になるぞ。


「あ、あまり、じっとり見られると、さ、さすがに恥ずかしいんだけど……まだ言いたいこと、あるの?」

「あぁ、悪い」


 恥ずかしそうにモジモジするクルシュナ。

 これは本物の人間だろう。

 絶対に夢ではない。確信できる。

 

 夢と言えば……。


「今日は顔色、いいな。変な夢とやらは、見なくなったのか?」

「え? あぁ……うん、そうだね。最近は見ないかな」

「結局、どんな夢だったんだ?」

「うーん……死ぬ夢? 正直、あまり覚えてないんだよね。何か引っかかるんだけどね……」


 クルシュナは眉間にシワを寄せながらそう言った。

 無理に思い出さなくても良いと思うが。


「何はともあれ、君には感謝しているよ。エルミカ。……きっと、君のおかげだ。そんな気がする。それだけは確かだ」

「夢の話をされてもな」


 夢か……。

 俺は前世ではオカルト否定派だったから、「夢に意味なんてない」と言いたいところなんだがな。

 この世界のジャンル、ファンタジーだからなぁ。


「夢だけじゃないよ。……君にはいろんな恩ができてしまった」

「竜王を倒せたのはクルシュナのおかげでもあるが……」

「僕が贄巫女になるのを、止めてくれてありがとう」

「もうなるつもりはないってことでいいか?」


 俺の問いにクルシュナは迷うことなく、頷いた。


「さすがの僕も永遠は嫌だからね。……贄巫女は悪習だ。僕の母で最後にする」

「そうか」


 どうやら父や兄から、贄巫女の仕組みについて詳細を教えてもらったようだ。

 しかし最初から教えていればと思うが。

 ……いや、教えてしまえば、クルシュナが母を救うために贄巫女になる可能性があるのか。

 以前のクルシュナなら、やりそうだな。


「それと、エルミカ。君にお願いしたいことがある」

「お願い?」

「お母様を……いや、ナディア様を始めとする、歴代の贄巫女たちを助けたい」


 一度、アマティア神と一つになった以上、解放されることは二度とない。

 苦痛を次の贄巫女に押し付けることはできるが、一つに溶け合ってしまった魂は戻らない。

 それは永遠に輪廻の輪へ戻ることができないことを意味している。


「贄巫女となることを拒む以上、贄巫女となった彼女たちを救うことが僕の使命だ。方法はわからないし、見当もつかないけど……協力して欲しい」


 原作では、分霊クルシュナと爽やかな別れをし、しばらく経ってから主人公たちは贄巫女の真相を知ることになる。

 隠しダンジョンでクル山の地下へと赴き、悲鳴を上げるクルシュナを見ることもできる。

 

 しかし主人公たちには何もできない。

アマティア神と一つとなったクルシュナを解放するには、世界を滅ぼす以外にないからだ。


 原作において、贄巫女たちを救う方法は提示されない。

 その方法が匂わされることもない。

 絶対に救えないと、明言される。


 クルシュナ関係のエピソードが胸糞悪いと言われる所以だ。


 しかし、だからといって本当に存在しないとは限らない。

 原作者が知らなかっただけという可能性も考えられる。

 ……もちろん、それは原作者がこの世界(現実)を元にゲームを作ったという前提があってだが。


 何はともあれ、ゲームに存在しないからといって、諦める理由にはならない。


 それに後味悪いしな。

 大切な仲間の母親が囚われたままってのも。


「クルシュナに言われなかったら、俺の方から提案するつもりだったよ」

「じゃあ……」

「必ず、お母さんを助けよう」


 俺がそう答えると、クルシュナは目を大きく見開いた。

 そして両手を頬に当てた。


「そ、そんな……お義母さんなんて……き、気が早すぎるよ……」


 いや、別にそういう意味じゃないけど……。

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