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第28話

 僕って、お前、男っていう設定じゃ……いや、明日からやめるのか。

 ということかクルシュナは本格的にこの世界の婚活市場に参入するわけだ。

 ……ふむ。


「い、いや、もちろん、あくまで政略結婚の候補としてどうかなって! 君という存在を聖王国に引き込めれば、国益に繋がるし! 魔王を倒した勇者である君ならみんな認めるし! 君は野心なんてないから、兄上の王位を脅かすこともないし……それに兄上はああ見えて、親教国派だから! 戦後も神聖教国と連携して、大陸の秩序と平和を維持しようと考えていて……神聖教国とのコネクションを持つ君との縁組は僕たちにといってもメリットも大きくて。それに君にとっても、メリットも大きいんじゃないかなって! だから、その、双方ともにメリットがたくさんあるから、提案してみただけであって、べ、別に僕が君のことが好きだからとか、全然そんなんじゃないから! か、勘違いするなよ!!」


 三大国のうちで最大の国力を持つのは、間違いなく聖王国である。

 神聖教国は絶対に認めないが、単純な軍事力と経済力ならば聖王国が圧倒している。

 現在はもちろん、戦後の国際情勢を左右するのは聖王国の動向だ。

 しかし聖王国は閉鎖的な国であり、介入が難しい。

 今回もそれが理由で苦労したが、しかし俺が聖王家と婚姻同盟を結べば、身内という形で介入できるようになる。

 もちろん、俺が聖王国に「婿入りする」という形だと聖王国に戦力が偏りすぎてしまい、バランスが崩れ、周囲の警戒を招く。 

 俺が聖王国の王位を狙う可能性も浮上するので、第一王子もいい顔はしないだろう。

 だがクルシュナが俺に「嫁入り」する形なら、むしろクルシュナという戦力が都市連合に来ることになる。

 三大国の軍事的なバランスが拮抗する。

 もちろん、デメリットもあるが……。


「そ、それで、どうかな!?」

「……今すぐ結論を出せることじゃないが、前向きに考えよう」

「ほ、本当に!?」

「嘘を付く意味はないだろう」


 反出生主義者というわけでもないしな。

 俺も人並みには所帯を持って、子孫を後世に残したいという欲求はある。

 もちろん、「先代勇者」としての立場が最優先だが……。


 デメリットよりメリットが上回るなら、十分に検討する余地がある。

 

「そ、そうか! じゃ、じゃあ……前向きに! 前向きに考えてくれるんだね!!」

「あ、あぁ……うん、まあ。今は考えているだけだぞ? 情勢次第では変わる」


 何しろ、魔王討伐後の話だ。

 俺のなんちゃって未来視の範囲外である。

 え? お前の未来視、そもそも当てにならないじゃないかって……?


 殺すぞ。


「分かっているとも! ぜひ、しっかり考えてくれ。僕たちの将来に関わることだからね!」


 クルシュナは俺の手を両手で握ると、ブンブンと上下に振った。

 この様子だと、やはり政略結婚に関する話をするのが最大の目的だったようだ。

 クルシュナがそんなことを考えるわけないので、国王か第一王子の策略だろう。

 ……しかし男湯に放り込んで政略結婚の話をさせるなんて。

 あいつら、何を考えているんだか。

 いや、確かに意表は突かれたし、そのせいで載せられた感はあるが……。


 間違いがあったらどうするんだ。


「えへへ……子供は十人は欲しいなぁ」

「……今ので話は終わりか?」

「え? あぁ……う、うん……そうだね」

「言いたいことがあるなら、今のうちだぞ」


 俺の問いにクルシュナは少し悩んだ様子を見せた。

 それから恥ずかしそうに目を伏せた。


「え、えっと……じゃあ、聞くけど」

「うん」

「ぼ、僕の体を見て……どう思った?」

「どうって……言われてもな」

「あ、あるだろ?」

「やっぱり、女かぁ……みたいな」

「もっと具体的に! ちゃんと言わないと、離さないからな!」


 クルシュナは頬を膨らましながら、俺の腕を強く抱きしめた。

 む、胸の感触が……。


「分かった! 分かったから、緩めろ!」

「なら、早く言って」

「……綺麗だなと思ったよ」


 肌は白く透き通るように美しかった。

 お腹や足回りなどは、鍛えられた筋肉によりほどよく引き締まっている。

 あとは……。


「それに……あぁ、いや、何でもない」

「言わないと離さない」

「意外と大きいなと……思った」


 原作でのクルシュナは常に男装していた。

 そのため彼女の胸のサイズはよくわからなかった。

 とはいえ、違和感なく男装できている時点で大きくはないだろう……そう思っていたのだが、しかし実際に脱いだら俺の想像を一回りも二回りも超えるほどだった。

 ファルティナに匹敵するか、もしくはそれを超えるかもしれない。

 

「へぇー、そんなところ、見てたんだぁ」

「目立ったからな。……話しただろ。そろそろ離せ」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」


 クルシュナは顔を赤らめながらも、ニヤニヤと笑みを浮かべ、俺の腕を放そうとしない。

 妙に強気な態度だ。

 いるよなぁ……相手が反撃してこないと分かった途端に調子に乗るやつ。


「はぁ……」


 もっとも、以前は俺がからかい倒していたわけだし。

 今回だけは、好きなようにやらせてやろう。

 どうせ飽きるだろうし。

 

「エルミカはやっぱり大きい方が好きだったりするの?」

「大きいに越したことはないんじゃないか? 一般論として」

「僕は君の好みを聞いているんだけど?」

「さぁ、どうかな」

「答えろよ。何でも答えるっていっただろ」


 小さいよりは大きい方が好きだ。大は小を兼ねる。

 でも、個人的には胸よりは尻の方が好きだ。

 胸が小さくても、尻が大きいなら魅力的だと思う。

 もっとも、勇者が「胸より尻が好き」なんて言うのはどうかと思うので、絶対に口には出さないけど。


 俺が適当に濁していると、クルシュナはつまらなそうな表情で俺の体を指で突き始めた。

 相手にすると調子に乗るので、これも無視する。


「むぅー」


 クルシュナは不満そうに頬を膨らませた。

 しかしすぐに何か思いついた様子で笑みを浮かべた。


「そ、そういえば、僕との結婚について、大きなメリットがもう一つあった。さっき、言い忘れちゃったけど」

「ふむ? 大きなメリットか」


 小さな細々としたものなら思い浮かぶが、「大きなメリット」となると、パッと浮かばない。

 海上貿易に関することだろうか?


「それは何だ?」

「そ、それは、えっと……」


 クルシュナは何故か言い淀んだ。

 自分から言い出したんだろうが。

 途中で止められると、逆に気になるんだが……。


「ぼ、僕の体を……す、好きにできる」

「……」


 思わず、クルシュナの体をガン見してしまった。

 ツンと上を向いた大きなバスト、鍛えられ引き締まったウェスト、女性らしい丸みを帯びたヒップ。

 そして片手で隠された秘め穴。

 好きにできる……そうかぁ。

 好きにできるのかぁ……。


「も、もちろん、結婚まで待てないなら……その、もちろん責任取ってもらうけど……キャ!」


 クルシュナが小さな悲鳴を上げた。

 俺が彼女の顔に水を掛けたからだ。


「変な冗談を言うな」


 俺は立ち上がると、逃げるように男湯から上がった。

 ふぅ……。

 少し危なかったな。


 それにしても色仕掛けで俺を聖王国に引き止めようとするとは。

 相変わらずの自己犠牲精神だ。


 うーん、やっぱりあれだな。

 人に自己犠牲は良くないって言った手前、ダメだよな。




 俺が死ぬのは。




 


 

 

 

 そして翌日、討伐祝いのパーティーにて。


「……いかがでしょうか、エルミカ様」


 ララは少し恥ずかしそうにしながらも、ドレスの端を掴みながら俺に尋ねた。

 彼女が身にまとっているのは、華やかな黄色いドレスだ。

 肩を露出させたデザインで、美しいデコルテラインを大胆に見せている。


「うん、よく似合っている」


 ララは年齢の割に落ち着いていて、実年齢よりも高く見える。

 だからこそ。こういう大人っぽいデザインのドレスはよく似合う、


「……ありがとうございます」


 ピクピクと長い耳が動く。

 礼儀作法とダンスは突貫工事で身につけさせたが(さすがは天才、あっという間に習得した)、感情が耳に出る癖は直せていない。

 まあ、指摘していないのだから当然だが。

 ……いや。可愛くてね。つい、このままでもいいんじゃないかなと思ってしまう。

 とはいえ、今回本格的に社交デビューとなったわけだし、このままというわけにはいくまい。

 今度。都市連合に戻ったら矯正させよう。


「……しかし私のような者がこのようなドレスを着てよいのでしょうか」


 どうやら急に不安になってしまったらしい。

 しょぼーんと耳が下に垂れた。

 

「そのドレスを贈ったのは他ならぬ国王だ。場違いなはずがない」


 今回のパーディーの主役は言うまでもなく、竜王を討伐した勇者パーティーのメンバー。

 そのうちの一人がドレスを着ないというのはおかしい。

 持っていないのであれば。ぜひ贈らせてほしい。

 ……とのことだった。


 ついでに勲章も贈られた。 

 政治の匂いがプンプンするが、まあ、貰った方が得なのは事実だ、


「基本的にララは俺の従者として出席することになるが、正式な出席者として招かれることも今後はあるだろう。今のうちに慣れておけ」

「かしこまりました」


 これも仕事のうちだから。

 そういうニュアンスで伝えると、ララは真剣な表情で頷いた、

 顔から不安の色が消え、いつもの凜々しい表情になる。


 ……こういうのがタイプの男子は少なくないので、きっとモテるだろう。

 ダンスを申し込まれて、あたふたするララの姿が目に浮かぶ。


「悪いことを考えていますね? エルミカ」

「まさか」


 ファルティナの問いに俺は小さく肩をすくめた。

 普段はクールで完璧な従者が慌てる姿を肴に、酒でも飲もうなんて思っていない。

 ……実際、モテたら自己肯定感も上がるだろう。

 ララにとって悪いことじゃないはずだ。


「ところでクルシュナ様は?」

「主役は遅れてやってくるそうだ」

「主役って……確かにここは聖王国ですが」


 聖王国の国王が主催のパーティーだ。

 勇者パーティーで一番活躍したのは誰か、それはクルシュナだ! という形でアピールするのは当然だろう。


 ……もっとも、それがメインの理由ではないが。


「……まあ、今回の戦いでは私はあまり役には立てなかったので、何も言えませんが」

「そんなことはないだろう」


 確かにファルティナは竜王スワラータに直接ダメージを入れられなかった。

 しかしファルティナが竜王が飛ばないように押さえていてくれたおかげで、俺たちはやつとまともに戦うことができたのだ。


 あいつ。ゲームだとずっと空飛んで攻撃してくる害悪モンスターだったからな。

 それを防いでくれただけでも大手柄だ。



「俺にはファルティナが必要だ。悲しいことを言わないでくれ」


 俺はファルティナの手を握り、彼女の目を見つめた。

 すると彼女は顔を赤らめ、気まずそうに目をそらした。


「わ、分かりましたから……少し謙遜しただけです。自虐しているわけではありませんから」

「それは良かった」

「だ、だから……手を離してください」

「おっと、これは失礼」


 俺はファルティナの手を離す。

 ファルティナの顔は真っ赤に染まっていた。

 相変わらず、男に対する免疫は低い様子だ。


「クルシュナ様、国王陛下の御成り!!」


 そんな話をしていると、ラッパの音が鳴り響いた。

 今回のパーティーの主催者である、国王が現れる。


 そしてもう一人。

 国王の隣には、真っ赤なドレスを着た青銀の髪の少女がいた。


 会場にどよめきと困惑の声が広がる。


――陛下の隣の女性は誰だ?

――先程、クルシュナ様の名前が出たが……。

――クルシュナ様? なぜ、ドレスを……。

――まさか。

――道理で……。 


 貴族たちの反応は様々だった。


「え? えぇ……!? いいんですか?」

「主役……なるほど」


 ファルティナは目を丸くし、ララは納得の表情で頷く。

 良くも悪くも、これでクルシュナが女性であることは誰もが知る事実になった。

 これが吉と出るか、凶と出るか。


 俺ができることはクルシュナの選択を尊重すること。

 そして彼女を助け、守ること。

 原作のような悲劇は起こさせない。


 ……大好きな国民に裏切られるほど、彼女にとって辛いことはないだろうから。


「ファルティナ、ララ。悪いな。少しパフォーマンスに行ってくる」

「かしこまりました」

「……今回は譲ります。今回は」


 ララとファルティナに断りを入れてから、俺はクルシュナの下へと向かう。

 貴族たちの視線が俺に集まる。


「ご機嫌麗しゅう、陛下」

「うむ。……娘を頼む」


 国王は俺にそう伝えると、ゆっくりとその場から離れた。

 俺とクルシュナだけが残される。


 はにかむクルシュナの前で、俺はゆっくりと膝を折った。

 彼女に手を差し出す。


「麗しきクルシュナ姫。お手を取っても?」


 周囲に聞こえるように、大きな声で俺はダンスを申し込む。

 貴族たちが息を呑む声が聞こえた。


「はい、喜んで」


 クルシュナは微笑むと、俺の手に自分の手を重ねた。

 会場に美しい音色が響く。


 貴族たちの視線の中、俺たちは二人で踊り始めた。


「女性側の動きもできるんだな」

「君と踊るために練習したんだよ。まだちょっと慣れないけどね」


 クルシュナは恥ずかしそうに言った。

 どうやらまだ“女装“は恥ずかしいらしい。


「協力してくれてありがとう」

「当然のことをしたまでだ。……女装癖があると勘違いされたら、大変だからな」

「あはっ! そうだね」


 俺は貴族たちの前でクルシュナのことを「クルシュナ姫」と呼んだ。

 つまり俺はクルシュナを擁護する立場であることを、貴族たちに宣言したのだ。

 これで下手なことはできないだろう。

 

 もっとも、竜王スワラータとの「不戦の契」の条件は「俺とクルシュナ、ファルティナ、ララの四人が生きていること」なので、どのみちクルシュナを殺害して自らの首を締めるような馬鹿な真似をするやつはいないと思うが……。


「でも、今回の件で君には大きな借りができてしまったね」

「借りだなんて言うな。クルシュナのためなら、俺は魔王だって倒して見せる」

「あは、君は僕に頼まれずとも魔王を倒すだろ」


 クルシュナはくすくすと堪えるように笑う。

 そしてニヤっと笑みを浮かべた。


「だって、君は“勇者”だからね。誰がなんと言おうと、君は僕の勇者だ」

「……そのことは秘密な?」

「さて、何のことかな?」


 弱みを握られてしまった。

 もっとも、ファルティナやララはとっくに気付いているような気もするが……。


 やられっぱなしは癪だな。


「そう言えば、言い忘れていた」

「何が?」


 クルシュナは首を傾げる。

 俺はそんな彼女の耳元に唇を近づけ、囁いた。


「ドレス、似合ってる。惚れ直したよ」


 クルシュナの体がぐらっと揺らぐ。

 俺は彼女を支えるように、体を引き寄せた。

 クルシュナは俺に全身の体重を預けるように、倒れ込む。


「……この、女誑し」


 クルシュナは真っ赤な顔で俺を睨んだ。




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