第30話
【朗報】エル×クル、公式だった(ネタバレ注意)『ウィリディステラ・クエスト 外伝:碧き星の導き』
・なお、性別。
・お前、女だったのか……。
・まあ、女説は前からあったけどな。
・そんなベタな展開、あり得ない!って与太話扱いだったじゃん。
・まさか、本当に当たるとは。
・こういうのでいいんだよ、こういうので。
・エルミカとクルシュナは一緒に入浴したことがある→ほな、男同士か→男女で混浴でした!
・男だから男湯で混浴。よし、なんにも問題ないな!
・卑しか女バイ。
・この乳でよく男って言い張れるよな。
・デカ……。
・エッッッッッッッッッッッッ!!
・卑しか女パイ。
青、青、青。
一面ブルーに包まれた空間に俺はいた。
そしていつもの通り、エゴサしたのだが……。
・クルシュナアンチスレ、三日で千まで到達してて草。
・大炎上で笑う。
・ファンスレも伸びてるんだよな……。
・男ファンと女ファンで反応別れそうだな。
・拙者、女だけどクルシュナ様が女で嬉しいぞ。
・男装が似合うイケメン女子は昔から女に人気のジャンルではある。
・ふぅ……。俺、男だけどクルシュナが女でショックだわ。男同士の友情であって欲しかった。
・これは大賢者エブラム。
・此方も抜かねば…無作法というもの…。
・おいたわしや、兄上。
「はぇー、クルシュナ、漫画でも女バレしたんだな」
ということはみんな男だと思っていたわけか。
鈍いやつらばかりだな。
・エルミカ「俺は最初から女だと思ってたよ。というか、どこからどう見ても女だろ」
試しに書き込んでみる。
すると……。
・嘘つけ、お前も驚いてただろ!
・エルミカ様のいつもの知ったかぶり。
・いつものガバガバ未来視。
・男か女の二分の一を外すの草。
まるで俺がクルシュナが女であることを風呂場で知ったかのようなリアクションが返ってきた。
俺はちゃんとクルシュナが女だと知って、あの態度だったのだが。
読解力のないやつらだな。
・しかしまさか婚約まで済ませているとはなぁ。
・結婚は魔王討伐後か……。
・俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!
・エルミカ……! 結婚の約束を、死亡フラグを立てている! もはや、数分の命……もう助からぬ……。
・やっぱり死ぬんかな、エルミカ。
「そんなわけないだろ」
漫画やゲームじゃあるまいし。
結婚の約束をしたくらいで死ぬわけ無いだろ。
むしろ生きないといけない理由ができた。
これ以上、掲示板を覗く意味は薄いと判断し、掲示板を閉じる。
「さすがにただの夢じゃないよなぁ……はぁ」
ここまで繰り返されて、「夢の内容に意味なんてありません」とはなるまい。
この空間はおそらく、地球のインターネット環境と繋がっている。
だから俺は今の地球の状況をインターネットで調べられるわけだ。
「しかしエロゲが週刊少年雑誌で連載とはなぁ。全年齢ソシャゲ化なら百歩譲って分かるけど」
何がどうなって、そうなるのやら。
感度三千倍がス◯◯ラ参戦するようなものだと思うんだけどな。
もう終わりだよ、この国。
しかしいくら調べてみても、『ウィリディステラ・クエスト』のゲームに関する情報は出てこない。
R18のイラストはあるが、全て二次創作だ。
「つまりゲームを漫画化したんじゃなくて。最初から漫画原作として存在していると」
確かに『ウィリディステラ・クエスト』の原作者は元々、漫画家――エロ同人作家だった。
だからゲームのシナリオライター兼原画家ではなく、漫画家として作品を発表する可能性はあったかもしれない。
「しかし、まさかの光墜ちとはな」
調べてみたが、やはりエロ同人作家として活動した経歴は出てこなかった。
この世界線では清廉潔白な少年漫画家である。
彼(まさか彼女ってことはないだろう)は妙に臨場感あるというか、実体験じゃないかと思うほど、ねっとりとして胸糞悪くなるけど、なぜかエロい濡れ場を書くことで、一部界隈で有名な作家だったのだが。
これは日本のエロ漫画界の損失ではないか?
いや、そんな界隈、衰退したところでさほど一般社会に影響はないのだが。
そもそも衰退した方がいいかもしれないけど。
「まあ、エロ漫画家よりは少年漫画家の方が聞こえはいいだろうけど」
「エロ漫画書いてます!」よりも、「わ◯◯◯すみたいな漫画書いてます!」の方が何かと審査も通りそうだ。
「ということは世界線ごと違うわけか」
俺がアクセスできるのは、『ウィリディステラ・クエスト』がエロゲの世界――俺の前世の世界ではない。
『ウィリディステラ・クエスト』が一般健全漫画の世界だ。
そしてその世界の「エルミカ」は、俺だ。
ニセ勇者ではなく、ニセ勇者の偽物の俺が漫画のキャラクターとして登場している。
主人公レナードの憧れの人物として。
「しかし俺が転生者ってことまでは明かされてないんだよな」
要するに、原作者は「俺がニセ勇者の偽物、転生者である」と知らないのだろう。
少なくとも俺の脳内まで把握できるような、神的な存在ではない。
……いや、仮に知っていたとしてもそこは書かないか。
「エルミカ」は人気キャラらしいからな。
主人公の憧れの人は実は転生者で、俺TSUEEEオリ主でした……とかされたら激萎えだ。
それにしても原作者――「空砂空」。
彼は何者だろうか?
翌朝。
夢から覚めると、いつも通りメイド服を着たララがベッドの横で控えていた。
「おはようございます。エルミカ様」
「あぁ……おはよう。しかし今日は少し寒いな」
「昨晩、雪が降ったようです」
「へぇ……」
俺は立ち上がり、窓のカーテンを開ける。
するとそこには一面の銀景色が広がっていた。
「そうか、そろそろ冬至――黄金祭だったな」
黄金祭。
それはこの世界の冬至のお祭りである。
冬至というのは一日でもっとも夜が長い日だ。
逆に考えると、冬至を過ぎると、昼の時間が長くなり始める。
これは冬の終わり、春の訪れ、そして太陽の復活を意味する。
故に冬至の時期には、来年の豊作を願うためにお祭りが行われる。
名称が「黄金祭」なのは小麦や太陽の色に掛けているという説が有力だ。
「黄金祭……知識では知っていますが」
「そう言えばアルヴ族にはなかったか」
「はい。……異教の祭りでしたので」
アルヴ族はどうやら大昔の、均一化される前の古代の信仰を保持しているらしい。
そのため黄金祭がないのだそうだ。
最近知った。
原作ではそんな情報、なかったのだ。
そもそも原作はゲームなので、作中の宗教や文化の描写は最低限だ。
そしてアルヴ族の生き残りはリリだけだった。
リリが家族を失ったのは幼少期。
それから彼女は都市連合の社会で生きて来た。
そのような事情から、おそらく彼女は自分の部族の宗教についてあまり詳しくなかったと思われる。
故郷にはこんなお祭り、なかったけどなぁー。
くらいにしか思ってなかったのだろう。
そもそもアルヴ族はかなり閉鎖的な少数民族。
文化の違う部分なんていくらでもあるわけで、原作リリは「そんなものかぁ」と適当に流していた可能性が高い。
「当日はファルティナやクルシュナと祝おうと思っていたが……どうする?」
郷に入っては郷に従えと、ララにごり押しする気は全くない。
大事なのは親睦を深めることである。
パーティーの名目を変えれば良いだけの話だ。
「いいえ、故郷の風俗に未練はありません。赤は不吉だの、青は幸運だのと……くだらない迷信に塗れた、因習ですよ」
ララは憂鬱そうな表情でそう言った。
青は救済、赤は破滅の色だったか?
そう言えばララは目がピンク色だったから、故郷で良い扱いを受けていなかった……みたいな設定があったな。
「“碧き御方”とやらも、私たちを助けてくれることはありませんでしたし」
「俺はララの瞳は好きだよ」
「あ、ありがとうございます」
俺が褒めるとララは赤い顔で俯いた。
耳がピクピクと嬉しそうに動く。
「……黄金祭、楽しみにしております」
「そうか。……プレゼント、何がいい?」
「プレゼント?」
「黄金祭では互いにプレゼントを交換するんだ」
黄金祭の内容は、はっきり言ってしまえば異世界版クリスマスである。
ちなみにサンタ的な設定も存在する。
「なるほど。そうですね。では……」
ララは少し考え込んだ様子を見せてから、自分の腕を俺に差し出してみせた。
そこには例の筋トレ用の武骨な腕輪がついている。
「もっと、お洒落な物を頂けると嬉しいです」
ララははにかみながら言った。
昔なら「エルミカ様からプレゼントなんて、畏れ多い……」などと言って何も要求しなかっただろう。
こうやって自己主張するのも、成長の一つだ。
「なるほど。クルシュナには指輪型を贈ろうと思っていたが……同じようなものでいいか?」
「被るとクルシュナ様も気を悪くされるのでは?」
「それもそうか。……どういうものが欲しい?」
俺の問いにララは少し考え込んでから、答えた。
「チョーカー、とか。如何でしょうか?」
「チョーカーか。……分かった。用意しておこう」
メイドにチョーカーというか、首輪を贈る主人というのは世間体的に危ない気がしないでもないが。
ララが欲しがっているなら、答えよう。
珍しい我が儘だしな。
「ありがとうございます」
ムフフ……。
と、ララは珍しくニヤけた顔をした。
幸せそうで何よりだ。
「ところでアルヴ族はどんなお祭りをやるんだ?」
興味本位で聞いてみる。
ゲーム的には意味がなくとも、こういうフレーバーというか世界観の掘り下げ的要素は結構好きだ。
「幻覚作用のある毒キノコを漬け込んだお酒を飲んで、幻覚作用のある草木を焚火で燃やします
「お、おぉ……」
想像以上に危ない内容だった。
いや、でもアニミズムでは天然の幻覚剤を使う儀式はよくある。
偏見は良くない。
「それからみんなで輪になって踊りながら、祈りの言葉を叫びます」
「祈りの言葉かぁ……。どういう感じだ?」
「『碧き星よ! 碧き瞳よ! 碧き御方よ! 巨海より目覚め、星空より降り立ち、無知蒙昧なる人類に恐怖と智慧を! 世界に終焉を! 我らに永遠を!』みたいな内容です。もっとも、みんなキマってるので途中でただの奇声になりますが」
「……」
――ちなみに私は「不吉な紅だったので、その場の勢いで三回くらい燃やされかけました」
ララは肩を竦めた。
想像以上に邪教だったわ。
そら、リリも口に出さないわ。
頭おかしいと思われるもんな。
すまない、出涸らし。
君の判断は正常だ。
「あぁ……でも、今にして思えば、案外当たっていたかもしれません」
「そうなのか?」
「はい」
ララはジッと俺の目を見つめてきた。
どうしたんだ……?
「夜空に煌めく星のように美しく、巨海の底のように暗い青……エルミカ様の瞳は、かつてアルヴ族に救いの手を差し伸べてくださったとされる、真なる主にそっくりですから」
うっとりとした表情でララはそう言った。
俺は思わず頬を掻いた。
目が綺麗と言われることは多いが、そこまで言われると流石に照れる。
「瞳の色に意味なんてないだろう」
「そうですね」
ララは大きく頷いた。
「エルミカ様は私の勇者です。私にとって勇者はエルミカ様です。誰が何と言おうと」
「……そのことは秘密な?」
「何のことでしょうか?」
ララはわざとらしく首を傾げてみせた。




