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第25話

 エルミカに連れ戻された日の早朝。

 眠りから覚めた僕は、エルミカを探した。


 しかし見つからない。

 エルミカだけではない。


 ファルティナ司祭も、ララという従者の姿もない。


「……エルミカはどこに行ったか、ご存知ですか? 兄上」

「さぁ? 夜の散歩に行くと言っていたが」


 一番上の兄はそう言いながら、わざとらしく東の方を向いた。

 まさか……。


「どうして止めなかった!」

「都市連合の貴族と、神聖教国の司祭に命令する権限は私にない」


 肩をすくめながら兄はそう言った。

 エルミカたちが竜王を殺せたら、ラッキー。

 負けたとしても、それは聖王国に関係ない。

 

 ……兄上とエルミカらしい言い訳だ。

 こうしてはいられない。


「待て、どこに行く気だ」

「僕だけ命を掛けないなんて、あり得ない」


 兄上の手を振り払い、止めようとする騎士たちを押しのけ、僕は東へ――竜王との戦いに向かおうとする。

 しかし……。


「ならん」

「父上……」


僕の前に立ちはだかったのは、父。

聖王国の国王だった。


「なぜですか」

「聖王国の王子であるお前が参戦すれば、竜王陛下に言い訳できん」

「どのみち、そんな屁理屈に騙されるほど、陛下は愚かではないと思いますが?」

「そうだな。一万が十万になるやもしれん」


 父上は僕を睨みつける。


「しかしお前が参戦すれば、それ以上だ」

「……そうですか」


 父と兄の理屈は分かった。

 そして何を求められているのかも。


 僕は金の指輪を手から抜き取る。

 印章と身分証を兼ねている装飾具だ。


「聖王国第三王子クルシュナは、陛下からいただいた封土と権利と地位、その他あらゆる権能を返上いたします」

「確かに受け取った」


 父の両手に指輪を乗せる。

 これで僕はただのクルシュナだ。

 竜王と戦っても問題ない。 

 ……そんな言い訳が通用するかは分からないが。


「待て、クルシュナ」

「まだ、何か?」


 僕を引き止めたのは、神官服を身にまとった男性。

 二番目の兄だ。

 今は大神殿の組織解体に着手していたはずだが……。


「これを持って行け」

「これは……」

「押収品だ。役に立つだろう」

「ありがとうございます」


 僕は二番目の兄から受け取ったそれを懐にしまう。

 そして東に向かい、全速力で走り出した。









 あとに残るのは大きく抉られた地面と、土埃。

 そして砕け散った剣。


 そこそこ、愛着あったんだけどな……。

 やはりこの時代の剣では、今の俺の魔力に耐えきれないようだ。

後でダンジョンにでも潜って、ちゃんとした武器を手に入れる必要がありそうだ。


「……やりましたか」


 ファルティナに複雑骨折を治療してもらいながら、ララが呟く。

 自信ないからって、そういうのは口に出すな!


『今のは効いた』


 唸り声がした。

 同時に土埃が晴れ、竜王スワラータの姿が現れる。

 その首筋には一本の傷跡。


『傷を付けられたのは、五百年ぶりだ。懐かしい』


 竜王スワラータは目を細める。

 そして砕け散った剣と、俺の手元を見る。


『残り九九九八。差し出すのであれば、見逃してやってもいいぞ』

「貴公に傷を付けた者は、その条件で逃げ出したか?」


 俺の問いに竜王スワラータは愉快そうに笑う。


『確かに。戦士マリウスは逃げなかった。しかし牙を失った状態で、どう戦うつもりだ?』


 そういうことだ。

 ファルティナとララを差し出して降伏なんて真似はできない。


「ご安心を」


 俺はアイテムボックスから予備の剣を引き出す。

 予備だから、先程の愛剣よりも劣るが、素手よりはマシだろう。


「ファルティナ、ララ。……二人は逃げてもいいぞ?」


 一応、聞くだけ聞いておく。

 俺の我が儘に付き合わされて死ぬのもどうかと思うしな。


「偽神に屈するくらいなら、殉教を選びます」

「あなたが死ぬ時は私が死ぬ時です」

「そうか。死んでも祟るなよ」


 俺たちはフォーメーションを組み直す。

 竜王スワラータは三つの瞳でそれを無言で見下ろす。

 どうやら待ってくれているらしい。 


 あまりの優しさに涙が溢れそうになるね。


「お待たせしました」

『構わん』


 竜王スワラータは翼を広げる。

 さあ、第二ラウンドだ。





 いやぁ、やっぱり自分より強いやつと戦った時の経験値取得率は一味違うなぁ。

 ガンガン、強くなる感じがする。


 竜王スワラータとの戦闘は順調に進んでいる。

 攻撃が効いていないわけではないのだ。

 少しずつ傷の数と、出血量も増えている。


 このまま戦い続けられれば、勝てるだろう。

 

 問題があるとすれば……。


「申し訳ありません。魔力が切れました」

「……私もそろそろ限界です」


 ファルティナとララが、今にも倒れそうな顔でそういった。

 こちらの体力と魔力がもう尽きそうということだ。


 やはり長期戦は不利だったか……。


「……一度、撤退する。俺が殿をする。二人は引け」

「しかし……」

「俺はまだ戦える」


 もっとも、俺も魔力切れ間近だが。

 うーむ、やはり武器とアイテムを揃えてから挑むべきだった。


 エリクサーも持ってくれば良かったな。

 副作用は怖いが、死ぬよりはマシだし。


 次はこの反省を活かそう。

 そのためには、次に繋げないとな。


『逃がすと思うか?』


 竜王スワラータが息を吸い込む。

 不味い。

 広域ブレスが来る。


 しかし防ぐ方法もない。

 中断させる術もない。


 仕方がない。

 寿命(時間)は減るが、切り札を使うか。


『ガァァァァ!!』


 竜王スワラータが悲鳴を上げた。

 あれ?

 まだ俺は何もしていないが……。


 何かを振り払うように、大きく首を振り回す竜王スワラータ。

 その目玉には人影。


 あれは……。


「ごめん、遅れた」

「クルシュナ!」


 竜王スワラータの目玉に突き刺した剣を抜き、クルシュナは俺の側に降り立った。

 王族のクルシュナが来たら、言い訳効かないだろ……。

 と思ったが、よく見たら指にあるはずの印章がない。


 王子の地位を放棄したのか。


「君には言いたいこと、伝えたいことが山程あるが、それは勝ってからだ」


 クルシュナはそう言うと、懐から何かを取り出し、俺に投げつけてきた。

 それはガラス瓶だった。

 中には透き取った深紅色の液体が入っている。


 これは……。


「エリクサー、完成品か!?」

「多分ね」


 クルシュナはそう言いながらエリクサーを後ろに放り投げる。

 ファルティナとララは小瓶を受け取った。


「躊躇している余裕はなさそうだな」


 俺は蓋を開け、一気に飲み干す。

 体が燃えるように熱くなる。

 五感が冴え渡り、体の内側から魔力が溢れ出る。

 全身の擦り傷もいつの間にか、消えていた。


 何だか、何でもできそうな気がしてきた。

 今の俺なら空も飛べるかもしれない。

 ……これ、ヤバいな。


 下手に多用できない。


『我の前でそれを使うとは、いい度胸しているな』


 竜王スワラータの魔力が膨れ上がる。

 こいつ、まだ底じゃなかったのか。

 わけわからん強さだな。


『一人増えたところで……待て。貴様、まさか……』

「『天の威、地の理、人の意』」


 クルシュナは剣を構え、詠唱を始める。

 彼女の魔力が膨れ上がる。

 ……いや、違うな。

 魔力が流れ込んでいる。


「『三位一体の星の息吹を我が身に宿す』」


 クルシュナの青銀の髪が、翠色に染まっていく

 彼女の周囲に集まった魔力が渦を巻く。


「『我らが母よ、あなたの末の娘に力をお貸しください』」


 星とクルシュナが繋がる。

 今のクルシュナの魔力総量は事実上、無限だ。


「『神威憑依』」

『贄巫女……我が末の妹だったか。しかしこの魔力……ナディアに匹敵する逸材だな』


 竜王スワラータは愉快そうに笑った。

 俺は一瞬だけ、クルシュナに視線を向ける。


「俺が補佐する。主攻を頼む」

「君の方が火力は上じゃないか?」

「普段ならな。しかし愛剣が壊れてね」

「なるほど。じゃあ、竜殺しの称号は僕がもらうよ」

『舐めるなぁぁぁ!!』


 竜王スワラータの咆哮とともに、俺たちは駆け出した。

 巨大な爪が振り下ろされる。

 俺たちはそれを……避けない。

 避ける必要がない。


「『我が左手に白銀の鍵。開くは万象の門。右手に招くは混沌。我が敵に這い寄れ。』」


 ララの声と共に、地面に黒い影が伸びる。

 影は竜王の足元へと這いよるように伸び……。


 ガクッ、竜王の体が大きく傾く。

 竜王の足がゆっくりと、影の中に沈み込んでいく。


『目障りな外来種が……!! 翠星に代わって、その血、絶やしてやる!!』


 竜王はララを睨みつけながら、影から足を引き抜こうと藻掻く。

しかし影から伸びた無数の触手が竜王の足や体に巻き付き、それを許さない。


 身動きが取れなくなった竜王の足元から、クルシュナが一気に駆け上がる。


『小癪な……!!』


 竜王が咆哮を上げる。

 辺りに猛毒の呪詛が広がる。


「『私欲のために、天秤を傾ける者に真の裁きを。正義のため、毒杯を仰ぐ者に永遠の安らぎを。意思を継ぎ、未来を歩む者に主の祝福を』」


 ファルティナが聖句を唱え、無効化する。


「『星の力を我が右手に』」


 クルシュナの右手に魔力が集まる。


「『人の祈りを我が左手に』」


 外側から流れ込む魔力と、内側から溢れ出す魔力。

 二つがクルシュナの剣に注ぎ込まれ、混ざり合う。


「『我が両の(かいな)でもって、星神の意をここに示す!』」

『我が前で星の意を騙るか! 贄巫女!!」


 竜王の口に魔力が集まる。

 あの魔力量は……ララが跳ね返せる限界を超えている。

 

「『外なる敵を討ち滅ぼせ』」


 竜王とクルシュナ。

 両者が魔力を解き放ったのは、同時だった。


「『星光剣!!』」


 クルシュナの剣から、翠色に輝く魔力の奔流が渦を巻きながら放たれた。

 それは竜王の口から放たれた黒い炎と衝突する。

 星光と黒炎は互いに拮抗し……。


「貫け!!」


 星の光が獄炎を貫く。

 同時に眩い光と轟音が辺りに響き渡る。


『グァァァァァ!!』


 竜王は苦悶の声を上げながら、大きく後ろへよろける。

 意識が朦朧としているのか、フラフラと首を大きく振っている。

 そこに追撃を仕掛けるべく、クルシュナは剣を構え……。


「うぐっ……反動が……」


 やはり許容量を超えた魔力の行使に肉体が耐えきれなかったのか。

 意識を失い、地面へと落下していく。


『クハッ……今のは惜しかったな』


 竜王は大きく口を開け、クルシュナをその牙で食い殺そうとする。

 その間に俺は割って入る。


『な! 貴様、いつの間に……その魔力は!』

「貴族の言葉を言葉通りに受け取るべきではありませんよ。竜王陛下」


 そもそも敵の前で本当の作戦なんて、話すわけないだろう?

 本当の主攻は俺だ。


『貴様、騙し……』


 すでに魔力の加速は十分。

 後は放つだけ。


「『絶剣』」



 魔力を解き放つと同時に、剣が砕け散る。

 少し遅れて、竜王の牙が砕け散る。

 鮮血が吹き上がる。


『ガァ……』


 竜王はフラフラとよろめき、地面に倒れ込んだ。


 ……やったか?

 俺は耳を澄まし、竜王の心音を確認する。


 ………………心臓は止まっている。

 死んでいる。


 勝った!


 ……いや、安心するのはまだ早い。

 果たして、みんな無事か……。

 俺は仲間たちの安否を確認する。


 クルシュナはララに支えられ、立っていた。

 意識はすでに回復した様子だ。

 ファルティナも泥だらけだが、無事だ。 


 死人も大きな怪我人もいない。

 完全勝利だ。


「勝ったね」

「あぁ……」


 俺とクルシュナは拳を合わせる。

 ララの手を借りながら、クルシュナはゆっくりと座り込む。

 そこにファルティナが駆け寄る。


「お怪我はありませんか?」

「擦り傷はあるけど、それくらいかな?」

「それは良かった。一応、治療しますね」


 ファルティナがクルシュナに治癒魔法を掛けていく。

 その間、手持ち無沙汰になった様子のララがこちらに近づいて来た。


「おめでとうございます、エルミカ様。これで竜殺しですね」

「俺だけの成果じゃない。ララも竜殺しだ」

「そんな……私なんて……」


 と謙遜しながらもララは「ふふん」と嬉しそうな表情を浮かべている。

 活躍した自覚があるようだ。

 

 いやぁ、しかし魔王より強い裏ボスまで倒せてしまうとは。

 このパーティー、最強だな!

 これなら魔王なんて余裕だろう。


 ガハハハ!!

 勝ったな!!















『勝手に殺すな』

 

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