第24話
「というわけでファルティナ、ララ。協力してくれるか?」
「もちろん」
「ご命令とあらば」
クルシュナを連れて戻った後。
俺は竜王を倒しに行くことを二人に伝えた。
「あなたが言い出さないのであれば、私から提案するつもりでした」
ファルティナはやはりノリノリだった。
一方のララは無表情だが、特に不満や不安はなさそうだ。
こちらもやる気十分。
……うちのパーティー、ちょっと好戦的すぎないか?
少し心配になってきた。
「よし、じゃあ竜王をどうやって倒すかの作戦会議をしようか」
「その前に……聖王国にはどのように許可を得るつもりですか? 」
聖王国の立場からすれば、竜王とは戦って欲しくないだろう。
竜王の怒りを買うかもしれない。
仮に俺たちが勝ったとしても、それはそれで都市連合や神聖教国に借りを作ることになってしまう。
第一王子は嫌がるだろう。
だから答えは一つ。
「こういう時はな、ファルティナ。最初から無断でやればいいんだよ」
「……そう言うと思いました」
ファルティナは呆れた表情で肩を竦めた。
竜王はアマティア聖王国から東にある島を根城としている。
俺たちは漁村で船を借りると、その島へと向かう。
最初は何の変哲もない海だったが、少しずつ生き物の気配が消えていく。
そして空気に毒が混ざり始める。
「解毒魔法を掛けます」
ファルティナが俺たちに魔法を掛け、毒を無力化する。
それとほぼ同時に、島から咆哮と凶悪な魔力の波動が飛んできた。
「俺の百倍か……凄まじいな」
「アルコーンの百分の一も魔力があるあなたも大概ですが。本当に人間ですか?」
「ファルティナ様もおかしな魔力していると思いますが……」
「あなたに言われたくありません」
「私は人より器用なだけです」
「そういうのは世間では天才というのですよ」
そんな愉快な話をしているうちに、船は島に到着した。
途中で攻撃されると思っていたが。
どうやら取るに足らない相手と思われているようだ。
……まだまだ俺もチャレンジャーということか。
思わず笑みがこぼれる。
ちょっと燃えてきている自分がいる。
「何か、面白いことでもありましたか?」
「……やはりエルミカ様が一番おかしいですね」
こいつら、大概失礼だな。
そう思った、その時。
『我が要求した数は一万だったが』
低く唸るような音がした。
明らかに人の言葉ではないにも関わらず、その意味が分かった。
テレパシー的な能力だろうか。
さすが、創世の時代から生きている神の一柱だ。
しかし姿が見えない。
どこにいるのだろうか……。
『残りの九九九八はどこだ?』
山が動いた。
山の斜面に巨大な目玉が三つ、浮かび上がる。
どうやら俺が山だと思っていたものは、竜王の頭だったらしい。
いや、お前原作だとこんなにデカくなかっただろ!
原作の百倍以上のサイズ感なんだが……何で!?
と思ったが冷静に考えてみると、このサイズ感をゲームで再現しようとすると画面がこいつの顔で覆い尽くされるな。
そりゃあ、サイズもナーフされるか。
「お初にお目にかかります、竜王陛下。私はエルミカと申します」
『ほう? 貴様、使い手か?』
竜王は俺が腰に下げている『勇者の剣』を見て言った。
置いていくか迷ったが、盗まれても嫌なので持ってきたのだ。
もちろん、戦闘の際には外すつもりでいる。
『……いや、違うな。臭いが異なる。しかしこの星の臭いでもない』
どうやら俺がニセ勇者のニセモノだと気づいているらしい。
そんなことまで分かるのか……。
『献上品を届けに来たわけではなさそうだ。何用だ』
「交渉をしに」
『我の答えはすでに伝えた。あとは期日を待つだけだ』
俺たちと交渉する気はなさそうだ。
そもそも興味すらない様子。
当然だな。人間ではこいつの鱗に傷をつけることはできない。
故にゲームでは、特定の条件を満たさなければ、門前払いされる。
「竜王陛下、お初にお目にかかります」
ここでララが前に進み出た。
竜王の三つの瞳が細く絞られる。
『ほぉ、外来種の落とし子……合成精霊か。まだ生き残りがいたか。それも先祖返り……キレナクスを思い起こさせる』
竜王は遠い目をする。
魔導師キレナクスのことだろう。
「私はあなたの“名前”を知っています」
ララの言葉に空気が変わった。
途端に体が重くなる。
息がしにくい。
どうやら竜王が権能を使い、空間を支配したようだ。
『我の名を知っていると? その言葉、真であるならば生かして返せん。白状するならば、今のうちだぞ』
「アルヴの名誉にかけて、偽りではありません」
『クハ……であれば、申してみよ。その生命を掛けて』
ララは苦しそうに心臓に手を置いた。
呪いだ。
“名前”を言い間違えれば、ララは死ぬ。
「ララ」
俺はララの肩に手を置く。
竜王の“名前”を言い当て、その権能を奪う。
それは作戦の第一段階だ。これが決まらなければ、戦いにならない。
そしてこれができるのは、古代語を話せるララだけだ。
俺のジャパニーズ発音では失敗してしまう。
「……はい。大丈夫です」
ララは一歩、前に進み出る。
そして竜王を睨みつけた。
「『我、ララ・シーリウスはその命を持って、汝の名を明かす。三度、繰り返す前に是か死か答えよ』」
ララと竜王の間に魔法契約が交わされる。
ララが名を三度繰り返し、それが正しければ竜王はそれを肯定しなければならなくなった。
三度唱えた名のうち、一つでも誤ればララは死ぬ。
正しい名を唱えたにも拘らず、竜王がそれを肯定しなければ死ぬのは竜王だ。
「『汝の名は……』」
ララは息を呑む。
肩に置いた手から震えが伝わってくる。
俺は彼女の肩に置く手に力を強める。
……信じてるからな。
絶対に噛むなよ?
噛んで許されるのは出涸らしちゃんだけだからな!?
「『■■■■■!』」
ララの声が島に響き渡る。
竜王は答えない。
「『■■■■■!!』」
ララが再びその名を唱える。
緊張が頂点に達する。
竜王は何も答えない。
「『汝の名は……』」
三度目。
青い顔をしたララが震える声で唱えようとした、その瞬間。
『是である』
竜王の声が響き渡った。
瞬間、俺は体が軽くなるのを感じた。
名前を看破されたことで、竜王の権能が一時的に失われたのだ。
『五百年前……絶えたと思っていたが、密かに血と知を繋いでいたか。その執念、見事! 褒めてやる』
竜王は楽しそうに笑った。
一方のララは汗をびっしょりと掻きながら、ぐったりとした様子で倒れ込んだ。
俺は彼女を支える。
『褒美をやろう。その名、生涯明かさぬと誓え。先程の無礼は水に流し、我が前から去ることを許す』
「聖王国を見逃していただくことはできますか?」
『ならん』
「だそうだ。ララ……もう一踏ん張り、できるか?」
「はい」
俺とファルティナ、そしてララはフォーメーションを整える。
できれば前衛がもう一人、いればよかったんだがな……。
『それが聖王国の答えか?』
「いいえ。我々は通りすがりの愚者でございます」
聖王国は無関係。
俺たちはたまたま、竜殺しの称号が欲しくなったアホの集団……という設定である。
『そうか、そうか。まあ、そういうことにしておいてやろう』
竜王スワラータの三つの瞳が、細く絞られる。
『我を楽しませることができれば、だが』
瞬間、巨大な山脈が動き出す。
巨大な翼が空を打ち、今にも飛び上がろうとする。
「させません」
ファルティナが両手で引っ張る動作をする。
同時に聖句を唱える。
「『塔を建て、天に昇らんとする者に、鉄槌を。蜜蝋の翼で、陽に手を伸ばす者に、破滅を。傲慢なる者よ、地に縋り、頭を垂れ、主に縋り、許しを乞え』」
飛行魔法が無力化され、竜王スワラータの肉体が重力に囚われる。
ガクっと、竜王スワラータはバランスを崩す。
『エブラムの忌まわしき反魔法……ぐあぁぁあ!!』
竜王スワラータが悲鳴を上げる。
ララが竜王スワラータの眼球に魔法を放ったからだ。
この程度の魔法では竜王スワラータの眼球に傷をつけることは叶わないが、しかし目眩ましにはなる。
『ええい、小癪な……!!』
竜王スワラータが大きく息を吸い込む。
……ここまでの動作は原作通り。
「『我が左手に白銀の鍵。開くは万象の門。右手に招くは冥鏡。我が敵を映せ』」
竜王スワラータの口元に移動していたララが、虚空に向かって手を回す。
反射魔法の展開と同時に、竜王スワラータの口から業火が放たれる。
業火はララを飲み込み……。
キン!
高い金属音のような音と共に、炎が真っすぐ跳ね返される。
合成精霊のみが扱える、深淵魔法の反射だ。
原作において「才能がない」とされるリリの反射ですらも相当に便利だったが、ララが扱えば百倍以上の魔力量が相手でも跳ね返せるようだ。
魔法戦なら、ララは無敵だな。
『ガァァァァ!!』
「っく……」
竜王スワラータは悲鳴を上げ、同時にララは眉を潜める。
さすがに威力までは完全に殺しきれなかったか。
やはり長期戦はこちらが不利だな。
「『時の結び、空の繋ぎ』」
剣を構え、詠唱を始める。
省略は可能だが、詠唱した方が安定する。
「『星の瞬き、命の輝き』」
全身から魔力を搔き集め、剣に集約させる。
剣の中で魔力を回転させ、加速させる。
「『魔の囁き、神の導き』」
ピキィと剣にヒビが入る音がする。
お願いだから、持ってくれ。
「『我が剣に斬れぬモノはなし』」
後は一度に放出するだけ。
『待て、その口上は……』
「『マリウス流剣術奥義』」
狙うは首。
一撃で切り落とす。
「『絶剣』」
真っ直ぐ振り下ろす。
斬撃と共に魔力が放たれる。
『ガァァァァ!!』
剣が砕け散る音とともに、辺りが光に包まれる。
竜王スワラータの絶叫と轟音が響き渡った。




