78「久しぶりのギルドなのです」
久しぶりに足を踏み入れたギルドで、私は少し居心地の悪さを感じていた。
何故なら、一斉に私の方を見てきたからである。先ほどまで外からでも聞こえるくらい賑わっていたのに。
私もどう動けば良いのか困ってその場で立ちすくんでいると、すたすたと1人の女性冒険者が私の方へ歩いてきた。
そして、おもむろに私のほっぺを掴み、むにゅーっと引っ張る。
別に痛くは無いけど、いきなりどうしたのこいつ。
「いっ、生きてる……?」
「生きてる、ってどういう意味よ」
彼女の言葉を皮切りに、一気に私の元へ同僚達が寄ってきた。
女性冒険者は私の実態を確かめるかのように、妙に私の身体や顔に触ってくる。流石に男は触っては来ないが、それでも何故か涙を流して喜んでいる。
……なんだこれ。
「いっ、生きてる! バルカが生きてるぞー!!」
「海賊に襲われたと聞いたときは死んだもんだとばかり思っていたが……良かった、本当に良かった!」
……どうも私は死んでいたらしい。というより、こいつらはそう認識しているようだ。
ふと目線を上げると、2階のバルコニーからオフェンシヴにくっついている博士と目が合った。博士は苦笑いしている。
「なんだお前等、私が死んだと思っていたのか」
「だっ、だって! 海賊に襲われたって聞いて、おれ、死んじまったのかと……」
「いや私が死ぬわけないだろ」
そりゃ、私も船の上での戦闘は初めてだったし、向こうの大陸の魔法も所見だったけども。だからといって死ぬほどのものでもなかった。
精々、ちょっと危ないな程度だ。
……でも、私が生きていただけでここまで喜んで貰えるのは、その、なんか照れるな。
「とにかく、私は生きている。幽霊なんかではないぞ」
私は妙に群がる人混みをかき分け、私は2階へと上がる。
2階にいた冒険者達は私の事情を大体察している奴等ばかりなのか、私に微妙な感じの笑みをくれた。
「災難……でしたね、姫様」
「ん、まあね。久しぶり、みんな」
私の言葉に博士は顔をほころばせ、オフェンシヴは……相変わらずフルプレート、表情全く見えない。
しかし、1人足りないわね……まあ、多分どっかで死体でも掘り起こしているんでしょう。
《お久しぶりです、王女様。……なんだか嬉しそうですね》
「ん、そう? まあ、久しぶりにお前等と出会えたからな」
しっかし、流石新婚さん。手ぇなんか繋いじゃってお熱いようで……私なんで心にダメージ受けてるのかしら。
同僚の幸せそうなところを見ているだけだってのに……あれか、職場恋愛を見る奴等はみんなこんな感じなのか。
「ところで、なんで私は死んだこと扱いになっていたんだ?」
「ああ、それはですねー……多分ですけれど、しょっちゅう姿を見せていた姫様が急に居なくなった、と勘違いした冒険者の勘違いと、海賊船に襲われたという情報が入ってきて、それらが混合して……まあ、死んだということになったんじゃないでしょうか」
「訂正しろよ」
「面白かったので、つい……ヒヒヒッ」
こいつヒデェ。
というか彼氏――じゃなくてもう結婚しているのか、夫であるオフェンシヴは止めろよ。という感じの念を送ってみたら、そっと目を逸らされた……気がする。顔も隠れているから表情とか全然分かんないし。でもなんとなく、そう感じた。
ああ……こいつ、尻に敷かれてるタイプの人間か。
「オフェンシヴも大変だな」
《いえ、毎日が幸せですぞ》
「そう、なら良いんだけど」
本人が幸せそうならそれでいいや。
いや、でもストッパー役として機能してないのはあれだな。もうちょい博士の行動を抑制してくれれば言うこと無しなんだが……。
「まあ、いいや。過ぎたことはもう面倒だし。で、博士、私が不在の間に何か事件とか起こった?」
「いえ、別に……強いて言うなら、アールグレイさんところが離婚したことくらいでしょうか」
アールグレイ、確か、私と同い年の同僚で、結婚の招待を送ってきた冒険者ね。ちなみに女性。んで夫の名前が確か……ワーグラ、だったかしら。
そっか、あいつ離婚したのか。1年も持たなかったんだ……。
でも付き合っている時の2人を見た感じ、結構幸せそうだったんだけどな……。
「理由は?」
「何でも、ワーグラが女と思って不倫したと思ったら相手は男で、女にされたとかなんとか」
「ごめん意味分かんない」




