69「なにもかもが新鮮、なのですわ」
言葉も出ない、とはこのことを言うんでしょうか。
案内してくれたアリーシュ以外は、城門に飾られた、巨大なドラゴンの首を見て呆気にとられていました。
死体の、首だけを見ても分かりましたわ。これは我々では勝てない、恐ろしい存在であると。それをバルカ様は、たった9歳で討伐したなんて……正直信じられませんが、でも同時に納得してしまいます。
それだけの強さがあったからこそ、彼女は前線で戦ったのでしょう。民を、兵士を護る為に。きっと、それを強要されたのでしょう。
「……すっげぇですわ」
「ふふん、凄いですよね。これがバルカ様の実力の証明ですよ!」
「いえ、それは昔から分かっていましたわ」
「なんとぉ!?」
しかし、アヘンは一体何所へ行ったのでしょうか。この国の物価は少し高すぎて、わたくし達ではろくな買い物も出来ませんというのに……。
というか、もう少しお金を持ってくるべきでしたわね……。ううっ、ここまで高いなんて思いませんでしたわ……。
「そういえば、お祭りはいつ頃に始まりますの?」
「えっと、確か2日後ですね。ドレスとかはバルカ様が貸してくださるそうですよ」
「なるほど……バルカ様のドレス、……バルカ様ドレス着ますの!?」
「アリデレスさん、それはあまりにも失礼ではないかしら……」
バルカ様も女性なんですから、ドレスの1着や2着くらい着ますわよ。なのに驚きすぎですわ、失礼ですわそれ。
……まあ、気持ちは分からなくもないですが。バルカ様ってどちらかというと、男らしいタキシードとか鎧とか着ている方が似合っていそうですもの。理想の王子様がバルカ様、っていう生徒は少なくないと思いますわわたくし。
そんなこんなを城門の前で話していると、ふとお腹が鳴ってしまいましたわ。恥ずかしいですが、時間で言えばお腹が空いておおかしくはないくらい経っていますので、不可抗力ですわよね。
「なに食べますの? ワタクシ、ドラゴンステーキってのを食べてみたいですわ!!」
「でしたら、1度私の家に寄らせていただいてもよろしいでしょうか? 私、お母さんからお小遣い貰ってきますので」
「あら、庶民に奢って貰わなくとも結構ですわ! ワタクシにも貴族としてのプライドが――」
「つまり今日はアリデレスさんが奢ってくれるそうよ、アリーシュ」
「なんでそうなりますの!?」
多分アリーシュは、割り勘にする為にお小遣いを貰いに行こうと思ったんですわね。それをアリデレスが『奢るために取りに行く』と短絡的に考えてしまったのでしょう。
……一応、成績上位者だった筈なのですが、やっぱり知能落ちてきてますわよねアリデレス。
「ううっ……いいですわ、アリーシュの分くらいなら出して差し上げてもよろしくてよ!!」
「ところで、ドラゴンステーキって幾らぐらいしますの?」
「50,000アレサですね、1人前」
50,000アレサ……? 1人前が、50,000アレサ……割と高いですわね。貴族のわたくしからして見れば確かに、普通に出せる金額ですわ。わたくしなら。
アリデレスさんは……顔を真っ青にしていますわね。まあ無理もありませんわ。ミハル教の教会・美術品やらを破壊した賠償はそのままアリデレス家へと回され、かなりお小遣いが減ったと聞いていますもの。
「ううっ……週に150,000アレサしか貰えないなんてあんまりですわ」
「十分だと思うんですけど……」
「良いですわねアリーシュ、人って言うのは最初に贅沢を覚えたら、前の生活には中々戻れない生き物なのですわ。よーく覚えておきなさい」
「アリデレス様、それ威張って言うことじゃないです」
割と貰えてますわね……でも確かに、貴族ならすぐに使い切ってしまうような金額ですわ。
何せ貴族同士の付き合いはお金がかかりますものね。まあ、アリーシュにそれを理解しろというのも酷な話ですわ。
「ところで、アリアンローズ様はお小遣い、どれくらい貰えているんですか?」
「月に5,000,000アレサですわね」
わたくしの返答を聴き、何故かぽかーんと口を開けるアリーシュ。ちょっと間抜けで可愛らしいですわね……。
……触っても、大丈夫かしら? 良いですわよね、ちょっとくらい……。
わたくしはそっと、アリーシュのほっぺたを摘まんでみた。すんごいプニプニしてますわこれ、すんごいプニプニしてますわ!
アリデレスさん、渡しませんわよ! アリーシュのほっぺたは、わたくしのものですわ! すんごいもちもちプニプニしてますわ!
「……なにしてるの?」
「うひゃぅっ!?」
急に後ろから声を掛けられたので、変な声が出てしまいましたわ!
振り返ってみると、そこには……乾燥させた葉っぱを紙で巻いたものを咥えているアヘンの姿がありましたわ。
「きゅっ、急に後ろから声を掛けないでくださいまし!」
「なにしてたの?」
「あっ、アヘンさん助けてくださ~い……」
ちょっ、違うんですのよアヘン。違いますのよ。ちょっとしたおふざけ、戯れですのよ。だから、その、ロリコンを見るような蔑んだ目で見ないでくださいまし! わたくしをそんな目で見ないでくださいまし!




