70「アヘン、煙草デビューですわ」
「ところでアヘン、咥えているそれは何ですの?」
「煙草、って言うらしい。アヘンと似たようなものって聞いた」
アヘンの咥えているもの、オーラス大陸では見かけなかったものですわね。
しかしアヘン(薬物の方)と同じものであるなら、身体に害がありそうですわ……。友人としては、やはり身体に悪いことはやめてほしいですわね。
「アリアンローズ、火を貰える?」
「火ならワタクシに頼みなさいな! この炎の精霊魔術師、アリス・アリデレスに!!」
「髪が燃えそうだからやだ」
アヘンの言葉にキーッ、となって怒っているアリデレスさんですが、わたくしもそれに同意してしまいましたわ……。
何せアリデレスさんは、確かに火の魔法に関しては学園1の力を持っていますが、その反面精密性というのが皆無ですもの。そりゃあ、不安になって当然というものですわ。
「まあ、構いませんけど……アリーシュの方に煙がいかないようにしてくださいよ?」
「分かっている」
わたくしは指を灯して、アヘンの煙草に火を付けます。乾燥させた葉っぱでしたら、小指程度の大きさで十分ですもの。
もくもくと上がる白い煙、それに独特な匂い。好みが分かれるかと思いますが、わたくしは好きになれなさそうですわ。
アリデレスさんは興味があるのか、チラチラとアヘンを見ていますわね。
「……吸ってみる?」
「いいんですの!?」
「身体には悪いだろうけど」
そう言って、アヘンは咥えていた煙草をアリデレスさんに渡しました。
アリデレスさんはそれを咥えてみましたが、どのようにして吸うのかが分かっていないようでした。アヘンはそんな様子のアリデレスさんを頬笑みながら見ています。
「口で息を吸うみたいに」
「……げほっげほっ!」
アヘンのアドバイス通りにやってみたら、どうも噎せたようですわ。咳と一緒に白い煙が出て行っています。
アリデレスさんは涙目になりながら、アヘンに抗議します。
「なんですのこれ、喉が痛いし頭もクラクラしますわ……よくこんなの吸えますわね」
「慣れてるから」
アリデレスさんの背中を、アリーシュが優しくさすります。
アヘンは、何故アリデレスさんが噎せたのかよく分かっていないようで、首を傾げていますわ。どうも動作が一々あざといですわね。
「もう、いいですわ……ドラゴンステーキ食べに行きましょう」
「それなら、『ドラゴンの眼差し』が1番美味しいらしい」
「ドラゴンの眼差し、ですの?」
名前からして、ドラゴンステーキ専門店みたいですわね。
でもその名前を聞いてからアリーシュが、何故かもの凄く青ざめた表情でわたくしの方をチラチラと見てくるのですが……いったいどうしたのでしょうか?
「どうかしたの、アリーシュ?」
「そっ、そのお店、王族貴族御用達の超高級レストランですよ! さっ、流石にお昼からそれは……」
「……どのくらい高いんですの?」
アリデレスさんの声が少し震えていますわね。どうも、あの時の事件を思い出しているようですわ。
わたくしもちょっと気になりますわね……正直、アリーシュはバルカ様やわたくしとの付き合いでかなり金銭感覚がマヒしていますもの。そんな彼女に「高い」と言わせるもの、気にならないわけがありませんわ。
「大体……1人前で、アリデレス様のお小遣いと同じくらいはかかります」
「……マジですの?」
「大マジです」
150,000アレサ……アリデレスさんの週のお小遣いと言えば規模が小さく感じられますが、アリデレスさんはこれでもわたくしと同じ公爵家の生まれ。故に安いものだと思われがちですが、子爵が平均して月に稼ぐ額が大体600,000アレサ、つまりわたくし達全員がドラゴンの眼差しで食事をしたら、子爵の月給が飛ぶくらいの額ですの。
……正直、お昼に軽く食べにいくかーで行ける額ではありませんわね。
「流石に私も、お誕生日の日に連れて行ってもらったことしかないですねー」
「……貴女、平民ですわよね? ……ああそうでしたわ、モンテクルズは下手な子爵より稼ぐんでしたわね」
そういえば、聖アリストテレス学園に通う平民ってモンテクルズの人以外、あまり見たことありませんでしたわね……。いたとしても学年に精々1人や2人くらいかしら……?
「まあ、稼ぐ人の親の殆どは冒険者なんですけどね」
「そうなんですの? 冒険者って稼げるんですわねぇ」
「ドラゴン退治とかしょっちゅうですからね」
……わたくしはなんとなく、この土地でやっていけそうにないと思いましたわ。
というか、日常で普通に出るんですわね。ドラゴン……。




