49「ちょっ、ちょっとふくよかだけになっただけなのです!本当なのです!」
「お姉様、太った?」
ケツァルコルトニーの儚い恋愛成就大作戦失敗から帰ってきた私におかえりの挨拶の代わりに投げかけられた言葉は、それだった。
傷心気味の私に言う言葉かそれは、と私がラストを睨み付けるも、おどけた様子を見せるだけで効果無し。知ってた。こいつに何人も婚約者寝取られているんだもん、知ってたわよ。
いや、そりゃあハニートラップとして使えるかもっていうので、古今東西のあらゆる場所で通用するあらゆるあざといポーズを教え込んだのは私だけどさ。
でもね、まさかこうなるとは……せめて女に、女にそれが向かってくれれば、私もちょっとは過ごしやすかったというに……。
ちなみに太っていた云々は言い返さないわよ、心の中では「ちょっとぽっちゃりしただけだから!」って返してるけど。
「というか、何してたの3人とも。今日、普通に授業ある日だよ?」
「学生の本分は遊びよラスト、覚えておきなさい」
「教師が聞いたら怒るよお姉さま」
思い切り不良全開発言だけど、私は元からそういう人間だと自分を知っているのよ。
そもそも不良王女じゃなくちゃ冒険者なって最高ランクにまで上り詰めたりとか、前線で嬉々として剣振るって武勲立てたりとかしないわよ! なっはっはっ!!
……それが巡り巡って祟って私のお腹に来たと。
前世ではテレビで「部活していた時の癖で引退後もいっぱい食べてたら太っちゃいました~」とか言ってた女を馬鹿にしていたというのに、今世で私がその立場になってしまうとは……今のうちに、手を打っておかねば!
「で、大事な授業をサボってまで何してたの? ……まあ、大体察しはつくけど」
「ちょっと待ってね、ラスト」
ラストからいったん距離を取って、二人と相談をしなければならない。流石に、人の秘密をそうぽんぽんと教えるものじゃないからね。
飯で釣られたらそりゃあ、ねえ……? 冒険者ギルドが無いのがいけないのよ。
「どうする? 起きたことをすっぱり話すべきかしら?」
「いえ、彼には彼のプライバシーというのがありますし、そう詳しく話すのは如何なものかと……」
「なら、名前をぼかして説明すればいいんじゃないですか? ついでにアドバイスもいただけるかもしれないですよ?」
「「それだ!」」
そうよね、よくよく考えればラストはなんやかんや恋愛経験……いや違うわ。駄目だわ。あいつ恋愛経験は無いわ。そもそも思考がビッチ依りだし、男の純情恋愛の参考にはならないわ。
……いや、でもどうするべきか。
「バルカ様、ここはバルカ様がお尋ねした方が聞き出しやすいかもしれませんわ。お願いしますわ」
「バルカ様、頑張ってください!」
ええいこいつら、他人事だと思って……いや他人事に首突っ込もうとしてるんだけどね私達。理由もぶっちゃけ、当事者からすればふざけんなって感じだろうし。
しかし、ここで聞かなければ私が楽しめない! いざ――
「えっ、そんなの放っといた方が良いでしょどう考えても」
正論で返さないでラスト。
というか、私の元婚約者と濃厚に関わっていたというに、どの口が言うかどの口が。
「ボクはいつもお姉様に殺されても仕方ないと思っていたし、そのスリルを求めて寝取っていたと言っても過言では無かったよ。だというのにお姉様全然ボクに手を出さないんだもん」
「うわあ……」
「バルカ様、いったいどんな姉弟付き合いをしたらここまでこじらせられますの?」
私にもわからん。
いや、スリルを求める気持ちは分かるよ。知り合いの冒険者で不倫が趣味の夫婦とかいたし。背徳感がどうとか言ってたなー……結局お互いにバレて、殺し合って今は豚箱の中っていう。
まあそれはいいか、どうでも。問題なのはラストよラスト。
ラストの話はまだ続くみたい。
「でもそれは、バレるのは当人が覚悟を持っていて初めて成立するもの。そもそもこの多感な時期に何所の誰々が好きって噂されるのは、かなりクるものがあるからね……下手すればこじらせて女性恐怖症になる可能性も」
「ぐっ」
正論だ……ぐうの音も出ないほどの正論だ。ラストここまでマトモだったんだ、あたし初めて知ったよ。
ええい、アリアンローズ! 何か、何か策は無いのか!? あっその顔マジで積んでるって感じの表情だな畜生!
「……結論は、そっとしておくべき、という事ですか?」
「うん、そうなるね。まあ、引っかき回したいっていうなら止めはしないよ。強力もしないけど」
「そうはいかないわよ!」
なっ、まさかの新キャラ……!? ラストの後ろから待ったをかけたのは、金髪ツインドリルのボインちゃん。ぶっちゃけて言うと、あの教会の誰よりもデカい胸を持った女だった。
まあ、キツそうな三角眼とか、側に控えている取り巻きの数とか、色々とテンプレートな悪役令嬢という感じで、どうしても薄幸さが滲み出て見えるような気がするのは気のせいだろうか。
私も一応悪役令嬢だけどね! つかやってる事の規模で考えたら結構な極悪人だけどね!!
「お初にお目に掛かりますわ。ワタクシ、アリデレス伯爵の娘、アリス・アリデレスでございます」
優雅にスカートの裾をちょこんと掴んでの一礼、流石と言うべきか様になってるわね……そしてラスト、あんたも同じように返すんじゃ無い。一応男でしょうがあんた。童貞でヤリマンとかいう意味分かんないビッチだけど男でしょうが!
ほら、若干アリデレスさんも困惑しているじゃない!
「初めましてアリデレスさん。知っているだろうけど、モンテクルズ大公の一人息子、ラスト・モンテクズだよ」
「同じく、モンテクルズ大公の娘、バルカ・ド・モンテクルズよ」
「アリアンローズ辺境伯の娘、オラルケイニー・アリアンローズですわ」
「私の名前はアリーシュ、平民です……」
何故大公なのかというと、王族という事がバレたら色々と面倒だからなのよ。ラストの場合は言いよってくる女が増えるくらいで、ぶっちゃけ最終的にあいつは男の方に行くだろうから問題ないとして、私の恋愛事情がね……今でもかなりやらかしてしまっているけど、一応大公という事にしているので、百戦錬磨の魔人バルカとか、王家の雷光バルカとか妙な異名を付けられている、王族の方のバルカとは別人だと思わせる事を狙っているのよ。ぶっちゃけ成果出てない気がするけどね!
もし私が本当は王族でしたってバレたら、きっとこれまで以上に男は寄ってこないと思うのよね……どうしてこうなっちゃったのかしら。教えておじいさん。
取りあえず一通り自己紹介が終わったところで(取り巻きは大勢いたので省略とする)アリデレスは本題へと入った。
「それでバルカ様、今の話は本当でございますの? マジにございますの!?」
口調、口調が崩れているわよアリデレスさん。
どうもかなり興奮しているようね。
「落ち着いてください、アリデレスさん。深呼吸してください。大きく息を吸って、吐いて」
「……落ち着きましたわ。お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」
ぺこり、と頭を下げるアリデレスさん。しっかしアリーシュの対応、こういうのに慣れているような感じだったわね。
こほん、と一つ咳払いをしてから、アリデレスさんが口を開く。
「ワタクシ、ケツァルコルトニー・バルトラス様の婚約者ですの」
……へっ?




