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全てはあの時に

 「同じ私の力。でも、この子ではない」


 声の主は俺の言いたいことを理解したようで、俺が全てを話す前に語り始めた。


 「力を使った子はあの時、その子を守ろうとしたみたいだけど、私とのつながりが不完全だったため、本人の意思に反した結果ばかりを生み出したみたい」

 「じゃあ、この子とあの事件とは関係無いんだな。

 じゃあ、俺はその怒りはどこに向ければいい?」

 「怒りを向けたいのですか?

 あなたたちは、これまでに起きた事件に怒りを感じていて、その怒りの矛先を向ける相手が必要。と言う事ですね」

 「待って。その事件って、私の事よね?」


 優奈が俺の目を見て、たずねてきた。俺は黙って頷き返した。


 「あの事件もそうだったんだ。でも、もう私はあの事は何も思っていない。

 あの事件の怒りの矛先なんてものは要らない。

 話を戻して。綾菜たちが殺された後の事件は、全てこの子のした事なんでしょ?」

 「それは違う。その子の力はその子と意識をつなげる素養のある人間たちが、その子と至近距離に近づく事で意識が混じりあい、意識がつながる事で力が伝搬していった。力を得た人間の多くが、その力に心を汚される。力を得た人間たちはその人間たち自身の意志で力を使った。

 もっとも、時々はその子の大きな感情のうねりに影響された行動をとったこともある。

 恨みからあなたたちの同級生を殺したり、あなたを襲ったりしたことが、それね」

 「お兄ちゃんは!

 お兄ちゃんを殺したのは?」

 「その子の防衛本能のようなもの。危険を感じて、身を守った。そう言ったところ」

 「そんな」


 優奈が膝から崩れ落ち、湯川のベッドの横に座り込んだ。


 「さて、どうするの?

 兄の敵でもあるその子を殺す?

 あなたなら可能な訳だけど。いえ、あなただけが可能なんだけど」


 しばらく、優奈は動かなかった。ただ、頬に涙が伝い、床にぼたりと落ちた。

 その時、優奈の表情が変わったのに気付いた。何かを決意したようだ。


 「許さない!」


 優奈はそう言って、立ち上がった。


 「では、その手で兄の敵を取る?」

 「そんなことはしない。この子がした事は許さない。

 でも、私がこの子を殺したとしても、私のお兄ちゃんは戻ってこない。

 憎しみによる殺しは、新たな憎しみを呼ぶだけ。この子を裁くのは私じゃない。この国の法律よ」

 「でも、法律では裁けないと思うけど」

 「それでも、構わない。この子を私が裁くのは間違い。

 それに、この子にも幸せになる権利はあったのよ。

 ある意味、この子も犠牲者だわ」


 そう言い終えると、優奈は湯川のベッドに背を向けた。


 「へぇ。人間世界に溢れる憎しみの連鎖。私は人間と言うものに幻滅していたけど、人間も断ち切れる時が来るやも知れませんね」




 あれ?

 俺は一瞬意識が飛んでいた気がした。頭の中がぼぉーっとしていて、何か今、俺がここにいる事に違和感がある。俺がいるのは中1の教室だ。教壇には担任の先生が立っていて、何か話をしている。黒板の片隅に目をやると10月18日と書かれていた。

 周りを見渡すと、多くの生徒たちが沈んだ表情で、女子の一部は涙を流している。そんな中、優奈がまるで今の俺のと同じように、きょとんとした表情で辺りを見渡している。

 優奈と俺だけが、何か浮いている気がする。だが、それが何故なのか分からない。と言うか、皆は何で泣いているんだ?

 そう思った時、俺の頭の中に今の状況が思い浮かんできた。一瞬、意識が飛んだような気がした時に、記憶が混乱したのかもしれない。

 昨日の夜、このクラスの女子生徒 大下綾菜が殺されたのだった。首を切断すると言う猟奇的な殺され方で。殺されたのは大下だけではない。同じような殺され方で、この学校の2年生の男子生徒が何人も殺された。一人は柔道部の南とか言う人らしい。

 他校でも3人の中1の男子生徒が殺されている。

 理由は何なんだ?殺された者たちの一部には共通するものがあるらしかったが、全員を結びつけるものは無いと言う事だ。だとしたら、どうして殺されたんだ?

 一体、こんな事をする奴は誰なんだ?

 許せない気持ちが湧き上がってくる。


 「とにかくだ。

 まだ犯人はもちろん、大下を含め今回の犠牲となった者たちが、どうしてこんな目に遭わなければならなかったかは分かっていない。しばらくは一人で帰らないように」


 担任が俺たちを見渡しながら言った。

 俺は優奈が悲しむ顔なんか見たくない。ましてや、優奈を殺させたりするものか。

 俺は両拳に力を込めながら、心の中で叫んだ。


 「俺は優奈ちゃんを守る!」


-完-

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 夢おち?

 じゃないです。

 設定の全てを書こうとすると、最初のページか、最後の女性の声の主に全てを語らせる事になってしまいます。

 最初のページだと、いきなりネタばれですし、声の主に語らせるとくどくなるので、そのあたり読み取っていただければうれしいです。

 途中で出てくる「中1の時の事件」、それに最後のシーンの意味は私の別作品「神に近づいた少年の悲劇」を読んでいただければと思います。


 今回の作品、感想やアドバイスなどいただけたら、うれしいです。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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