湯川の覚醒?
返す答えを見つけられず、辺りを眺めまわしてみた。
人の気配は無い。
そもそも、あの声はどこから聞こえてきたのか?
優奈が俺から視線を湯川に戻した。
「気のせいなんかじゃない。
で、どうするの?」
再び声がした。声はどこかの方向から聞こえてくると言うより、この空間全てから伝わって来ているのか、あるいは頭の中に直接伝わってきている感じだと言う事に気付いた。
「誰?
どこにいるの?」
そう言って、優奈がきょろきょろと見渡している。俺は静かに目を閉じ、意識を集中してみた。静かな空間。何も感じる事はできない。
「私の姿はあなたたちには見えない。そして、私が誰なのかを言う必要も無い。
私が聞きたいのは、あなたたちがその子をどうするのかと言うこと」
俺たちに構うことなく、一方的に問いかけてきている。この空間は今、こいつの支配下にある。そう言うことだろう。
「さっき私が見たものは何?」
優奈が視線を天井に向けながら、たずねた。
「それはその子の心を深くえぐった傷。
今もその傷が大きく残っていて、あなたたちの意識の中に流れ込んできたのよ。
怖い思い。それ以上にやっとできたと思っていた友達に裏切られたつらさ。
自分の愚かさ」
やっとできた友達だと思っていた子の裏切りにより、男たちに乱暴される。
裏切られた事が、さらに心を痛めつける。
湯川が受けた心の傷の深さは俺にも想像できた。
しかも、俺もさっき若原さんの正体を知り、心は痛んだ。
「待って。
一つ、教えて。
あの特別な力はこの子が持っているの?
この子は何をしようとしているの?」
「その子には遺伝的に元々素質があった。その才能が死の直前に覚醒し、私と意識がつながったのよ。
その事で、その子は私の力を使えるようになった。ただそれだけ」
死の直前に覚醒した?
俺はその言葉が引っかかった。優奈のお兄ちゃんはこの力の源を追い求めていた。優奈のお兄ちゃんが追い求めていた力は、そんな最近の事ではなく、ずっと前にあったはずだ。
「ただそれだけって。あんなひどい事をいっぱいしたじゃない」
「待ってくれ」
俺は優奈の言葉を遮った。これをはっきりさせなければ、俺の湯川への思いを決められない。
「この力は最近のものなのか?
俺が中1だった時に起きた事件は」




