俺は踊らされていたのか?
優奈がゆっくりと湯川のベッドに向かっていく。湯川は人口呼吸器が取り付けられており、全く人としては機能していないようだった。ゆっくりと、呆然と、ゆらゆらと歩く優奈を俺も看護士さんも、じっと見つめていた。
「湯川さん、あなたがやったの?」
湯川の前にたどり着いた優奈はそう言って、ベッドに横たわる湯川を見下ろしていた。
「なんで、なんで」
優奈が繰り返すその言葉には生気はなく、だが怒気だけがにじみ出ていた。優奈の視線が湯川の全身をはった。白いシーツがかけられた着布団が顔以外の部分を覆っている。
たった今、優奈のお兄ちゃんを殺したとも思えない安らかな表情。
「どうして、そんな顔してられのんよ!」
優奈が怒鳴った。
俺は慌てて優奈の横に向かった。
優奈の視線が人声呼吸器のチューブに向かい、凝視した。
危ない。
そう感じた瞬間、優奈が叫んだ
「よくもお兄ちゃんを殺したわね!
あんたなんか、殺してやる!」
優奈がそう言いながら、湯川の人口呼吸器のチューブに手をかけ始めた。
慌ててその手を取り押さえようとした時、俺の耳に女の人の声が聞こえた。
「やめなさい!」
声の方向に目をやった。廊下のドアを開けて、叫んだのは若原さんだった。その背後には優奈と話をしていた俺の見知らぬ男。
「その子は私たちがもらうわ」
若原さんの突然の言葉に俺だけでなく、優奈も意味が分からない顔をしている。
「岡本さん、あなたにも来てもらうことになるけどね。
寂しくないでしょ。彼もいてくれるんだから」
そう言って、若原さんは背後の男の人に目をちらりと向けた。
「何の事だ」
唖然としている優奈に代わって、俺が言った。
「私たちのミッションは謎の力の源を突き止め、本国に連れ帰ること」
「今までのすべてのことは仕組まれた事なのか?」
「まあ、そう言う事」
若原さんはせせら笑うような表情で、冷たい視線を俺に向けている。
俺はまるで道化師じゃないか。この女の策謀の中で踊らされていたのか?
「あなたって、サイテー!」
そう言うと、優奈は素早く湯川のチューブを掴んだ。
「待て」
俺が慌てて、その優奈の腕を掴んだ。




