優奈の絶叫
「何があったんですか?
その人はどこにいるんですか?」
俺がまくしたてるようにたずねた。
事を悟った優奈が俺の前に割り込んできた。
「お兄ちゃんに、お兄ちゃんに何かあったの?」
その優奈の言葉は絶叫気味だった。
目の前の看護士さんは言えないと首を横に振っている。
CIAの人は飛び降り自殺した。
そして、窓から下を眺めている看護士さんたち。
二つの事から求まる答えはこれしかない。
俺は猛ダッシュでナースステーション横の301号室のドアを開けると、窓際にまで走り寄った。優奈も俺の後を追ってきた。窓にはブラインドが付けられていた。そのブラインドのひもを慌ただしく引っ張り、ブラインドを上げ始めた。
蛍光灯の光で白く照らし出されていた301号室の中に、雨雲に隠された弱々しい太陽の光が差し込む。ブラインドを上げ終えると、俺は慌てながら、窓を開け、身を乗り出して、下を見た。
パトカー。警官。病院関係者。
彼らが取り囲んでいるのは赤い血だまり。
白で枠どられた人型の線。
その中にはうつ伏せ状態で、人が横たわっている。
その人の髪型、服装には見覚えがある。
優奈のお兄ちゃんの晃一である。
優奈が見ようとするのを押しとどめ、叫んだ。
「見るな」
俺の態度に優奈も全てを悟った。
「いやぁ~!」
優奈の絶叫が狭い301号室の中こだました。
優奈はその場に泣き崩れた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん」
ナースステーションと301号室の間に設けられたドアを開けて、優奈の所にやってきた看護士さんが優奈の横に寄り添うようにしゃがみ込み、優奈の肩を抱きかかえた。
俺はかける言葉もなく、優奈をじっと見つめていた。
「かわいそうに」
「これで、2人目」
その言葉に、優奈は立ち上がった。
頬はぐっしょりと涙で濡れているが、全くの無表情で何かを思いつめているかのようだ。
優奈が二つのベッドに目を向けている。俺もベッドの主の名に目を向けた。廊下のドアに近いベッドのところには見知らぬ名が。俺たちの目の前のベッドには俺たちの同級生「湯川ほなみ」の名があった。




