事故じゃなく、自殺だったのか?
小さな窓から差し込む光が、溜められた水面をきらめかしている。
小さな空間、冷たい樹脂製の壁に床。
風呂場?
俺の意識が認識した。
そこに座り込み、細い左腕がバスタブのきらめく水の中につけられる。
「高橋君。
私は高橋君を見つめているだけで、幸せでした」
右手に力を込め、左手首にカッターを近づける。
誰?
これは誰なんだ?
感じているイメージが何なのか分からず、俺は混乱気味だ。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい」
痛みが走る。不気味に赤く盛り上がる水面。
「全てはこれで終わる。汚れた私も終わる」
痛みも次第に薄れ、目の前の光景も徐々に光を失い、闇に包まれ始めた。
「大嫌いだった私が消える」
俺は正気に戻った。
俺がつかんでいた優奈の手は、湯川に取り付けられた人工呼吸器のチューブを離していた。
「今のは何?
自殺?
今のは湯川さんなの?
事故じゃなく、湯川さんは自殺だったって言うの?」
優奈が戸惑い気味に俺にたずねたきた。残念だが、その答えを俺だって持ち合わせていない。今見たものが何なのか、俺だって分からない。分かっているのは一つ。二人が同じイメージを共有したらしいって事だけだ。
「優奈ちゃんも感じたのか?」
優奈がベッドに目を向けたまま、頷いた。
そこには人工呼吸器が取り付けられた湯川が静かに横たわっている。
よく見ると、人工呼吸器は停止している。
それを感じた時、俺の心は一瞬ぎくっとした。
慌てて、あたりを見渡した。
「何なのこれ?」
優奈も異変に気付いたらしく、そう言った。
ドアの所には若原さんたちがいて、今にも飛び込んで来ようとしている姿で停止している。
振り返ると看護士さんも優奈の行動に気付き、止めようとしたのか、手を差し出した姿で停止している。
「時間が止まっている?」
湯川に取り付けられた人工呼吸器が止まっているのではなく、すべてが止まっているのだ。そう思った時、俺の心にほのかな安堵感が生まれた。
優奈は湯川に被せられた布団をはぎ取り、湯川の左腕を見た。そこにはざっくりとした傷痕が残っていた。
「やっぱり」
そう言って、優奈が湯川の左腕を掴んだ瞬間、優奈の行動が止まったかに見えた。また何か、幻影を見ている。そう感じた俺が優奈の腕に手をかけた。




