行く手を遮る謎の男
あの力さえなければただの男とは言え、普通の女の人が一撃で男を倒したりはできないはず。一瞬、呆気にとられはしたが、長堀は優奈のお兄ちゃんの組織の仲間だけあって、それなりの戦闘力を持っているらしい。
突然の出来事に背後の信者たちも、何が起きたのか分からない様子で、ただ立ち尽くしている。
「行くよ。目的の場所は第二入院病棟、東301号室」
俺はその言葉で、現実に引き戻され、頷くと優奈の手を取って、走り始めた。
「こらぁ。待てぇ」
「尊師をお助けしろ」
背中を向けて駆け出す俺たちを見て、ようやく信者たちは自分たちの成すべきことを思い出したようだ。背後から迫る男たちの怒声と足音。
「目の前の建物は外来病棟。第2入院病棟はここを抜けて2つ目の建物よ」
俺たちは外来病棟のドアを抜けて、中に入った。アルコールのようなにおいが立ち込める空間。壁や柱はくすんではいるが、蛍光灯に照らし出されて、中は白い光に満たされている。
突然、駈足で入ってきた俺たちに、一般の患者さんたちが、何事?と言う目を向けている。
「なんで、ここにいるんだよ?」
俺が駆け足で病院の中を駆け抜けながらたずねた。
「飯田がその子がやって来ると言って、騒ぎ出したのよ。
止めようとした鍵山は殺されたわ。そして、私たちを引き連れて、ここに瞬間移動してきた」
「あの鍵山を殺したのかよ」
「それだけ、こっちの方が大変だって事なんでしょ」
その言葉に納得しながら、俺は人の間を縫って進む。周りは受付や会計が並ぶエリアを抜け、第一外科外来に差し掛かっていた。その先に並んだソファでは順番を待つ患者さんたちが座っている。カルテを持って歩いている看護士さんが、俺たちに気付いて一瞬怒りの表情になったが、俺たちの背後に迫っている教団の者たちの姿に、驚きの表情になって、手にしていたカルテを床に落とした。
多くの患者さんも、異様な雰囲気に気付き、戸惑いの表情でソファから立ち上がって、壁際に身をよけ始めた。そんな中、パッと見は白いシャツのクールビズ姿、七三にわけた髪型が会社員っぽいソファに座っていた男が立ち上がると、俺たちの前に立ちはだかるかのように、両手を広げた。
走るな!
そう言うことかと思い、俺たちは男の直前で減速し、その横をすり抜けようとした。
俺たちがその男に、近づいて行く。
男は両手を広げたままだったが、特に邪魔する気配はない。
俺と優奈はその横を通り過ぎた。
「よし」
そう心の中で思った俺が再び優奈の手を引っ張って、加速し始めた時、背後で声がした。
「通してくれない?」
振り返ると、さっきの男は体の位置をずらして、長堀の針路を塞いでいた。
俺はその時、長堀よりも後ろにいた俺たちを追いかけていた教団の者たちの前にも、何人もの人たちが立ちふさがっているのに気付いた。
その体のでかさ。髪の色。広げている腕の色。日本人ではない。白人と黒人たちである。
何で?こいつらは?CIA?
そう思いいたった時、長堀が少し背伸び加減で、俺たちとの視界を妨げている男の体の隙間から顔をのぞかせて言った。
「先に行って」
長堀の事が気にならない訳ではなかったが、今は優奈のお兄ちゃんの方が優先だ。
「分かった」
俺はそう言うと、優奈の手を取って、再び走り出した。




