急がないと!
GPSか。俺は慌てて、優奈が座っているソファの横に座って、優奈の手のスマホに目を向けた。スマホの画面に表示されたマップに目を向けながら、優奈が言った。
「塩見中央病院って、どこにあるんだっけ?
今お兄ちゃんは国道を西に向かってるみたいだけど」
俺の頭の中に、この街の全体図が浮かび上がった。優奈の家はこの街の東の端。塩見中央病院はこの街のど真ん中。可能性ありなんじゃね?
「まずい。
優奈、一緒にお兄ちゃんを追いかけてくれ」
ソファから立ち上がり、優奈の手を掴んでソファから優奈を立ち上がらせた。なんで?そんな表情で、俺を見ている。
「何でもいいから。急がないと大変な事になるかも知れない」
いつもとは違うしっかりした口調。そんな俺の真剣さが伝わったのか、優奈が頷いて、立ち上がった。
「どこか出かけるの?」
「お兄さんの後を追います」
優奈のお母さんが俺たちに聞いてきたので、俺はそう答えて、玄関を目指した。玄関で自分の靴を履き、ドアの取っ手に手をかけて、思いっきり開けた。
雨のしずくが俺に降り注ぐ。傘いるな。そう思って、背後を振り返ったら、優奈が濃い青色をした大きな傘を俺に差し出していた。お兄ちゃんの傘だろう。俺はそれを受け取って、道路に出た。
足早。そんな感じで、駅を目指す。はねた水と泥で、ズボンのすそに茶褐色の斑点が増えて行っている。車が何とか対向できる道路を挟み込むように、家がひしめき合っている。その先には大通り、そこを左に曲がって、まっすぐ行けば駅である。
「優奈ちゃん。もう一度お兄ちゃんに電話してもらえないかな?」
俺の言葉に傘の柄を傾げた首と肩の間にはさみ、空いた手でスマホを操作し始めた。
「あれ?動かないよ」
優奈の手元を俺が覗き込むと、全く俺のスマホと同じ状態で、タッチパネルが反応していない。
なんだ?湿気が多いと、みなこうなるのか?
て言うか、何か縁起悪いじゃねぇか。
そう思っていると、軽く短いクラクションが鳴った。
邪魔だ。どけ!そう言う事かと思って、道の端に俺は寄った。近くにいた車は雨に濡れてはいるが、ぴかぴかを思わせる黒のボディに、はじかれた雨粒が小さな水滴状態でまとわりついたでかい高級外車。
ゆっくりと進み、後部座席のドアが俺の前のあたりになったところで、停車した。俺が目を向けていると、スモークで目隠しされている後部座席のウインドウがゆっくりと下がり始めた。隠されていた車の後部座席から、若原さんの笑顔がのぞいた。
「翔君。急いでるのかな?」
「若原さん」
「さっき、電話急に切っちゃったし。
どこか行くのに、急いでるんなら、乗って!」
「ありがとう」そう言いかけた俺の腕を優奈が引っ張った。
「早く行こう」
そう言った優奈の気持ちは分かった。でも、ここで若原さんの車に乗らなければ、このまま徒歩で駅まで行くことになる。そして、駅で電車を待って、その先でもバスを待たなければならない。そんな事で時間を浪費している余裕はない。
「ごめん。ちょっとだけ、待ってて」
そう言って、俺は優奈を引っ張って、少し離れた場所に移動した。
断る訳でもない雰囲気に優奈が不機嫌な表情で、俺を睨み付けながら言った。
「そんなにあの子の車に乗りたいのなら、勝手に乗ったら」
「ばか。そんなんじゃない。
優奈ちゃんのお兄ちゃんの命にかかわるんだ」
優奈の表情はまだ俺を睨み気味で、信じ切っていない感じだ。
「あの力の源は塩見中央病院にあるらしいんだ。そこに向かったCIAの人はすでに殺されている。
お兄ちゃんは優奈ちゃんを救うために、その力の源を何とかしようとしている。
そして、今、お兄ちゃんは塩見中央病院に向かってるんだ」
優奈の表情が驚きに変わった。俺の言っている事と緊急事態だと言う事を理解してくれたらしい。
「止めないと」
優奈があわてて、スマホを取り出した。俺は少しの期待で、優奈の指先に目を向けた。だが、やっぱりタッチパネルが反応しない。
「なんで、なんで」
優奈が動揺しきって、何度も何度も動かないタッチパネルを触っている。ここで時間を費やしている余裕はない。
「落ち着いて、優奈ちゃん。
でも、優奈ちゃんがいる場所ではあの力は効果を失うんだ。すぐに一緒に行こう」
俺の言葉に大きく目を見開いた優奈が頷いた。




