襲われた?優奈
青い空から照り続ける日差しはグラウンドを灼熱地獄に作り上げている。俺はそんなグラウンドの片隅で、ピッチング練習をしている。その横では、守備練習が行われていて、監督が振るバットにボールが当たるたびに甲高い音が響いている。
練習していても気が気でない。早く終わってくれよ。俺はそんな思いのまま、キャッチャーが構えるミットにボールを投げいれている。
優奈はお兄ちゃんから俺と帰るように言われている。それだけに、俺の練習を見ながら待っている。そのはずだった。ところがだ。若原さんがいつものように俺を見つめているのを知った優奈は俺を無視して、どこかに姿を消したのだ。一人で帰った可能性だってある。
ずっとこの街にいなかった優奈が、今日襲われる可能性は低いと思いながらも、気になってしかたがない。無事に帰ってくれよ。
そんな気分で力を込めて、ボールを投げ込む。
「くぅぅぅ。いいねぇ。翔。絶好調!」
ボールを受けているキャッチャーの小沢が呻いた。
等間隔で植えられた街路樹の緑の葉っぱが風にざわめいている。歩道には部活を終え、駅を目指す同じ学校の生徒たちの姿がある。俺はそんな生徒たちの隙間を縫って追い越しながら、足早に駅を目指す。そんな俺の視界の先に人だかりが見えてきた。
何だ?
そう思い視線をそこに向けながら、近づいて行く。車道にはパトカーが停車している。嫌な予感がした俺は走って、その場所に向かった。
「また、あの力を持った人らしいわよ」
「飯田に抹殺してもらわないとな」
「襲われた女の子は無事だったみたいだけど」
警察が張ったロープの外側に立って、不安そうな表情の人たちから、そんな会話が聞こえてきた。
「まじかよ?優奈じゃねぇよな?」
俺がそんな不安に襲われながら、人をかき分けて、警察が張ったロープの前まで来た。
鑑識。そんな腕章をした警官たちが、路上の遺留物などを探している。不安にさいなまれている俺の前に突然、人が立ちはだかった。
俺がびくっとした瞬間、胸ぐらをつかまれた。
「えっ?」
「お前なぁ」
見上げると、それは鬼のような形相の優奈のお兄ちゃんだった。優奈のお兄ちゃんはロープをくぐって、現場の外側に出てきて、俺の胸ぐらをつかんだまま、人気の少ない場所まで俺を連れて行った。
「俺はお前に、妹を守るように言ったよな。
それにお前も任せてくれと言ったよな」
「優奈ちゃ、いえ、岡本さんがまた襲われたんですか?
無事なんですか?」
俺はまだ胸ぐらをつかまれたままの状態だと言うのに、両手で優奈のお兄ちゃんの服の胸のあたりを握りしめて、たずねた。
「そうだ。そして、優奈は無事だ。
だが、どうしてお前は一緒にいなかった」
「そ、そ、それは」
優奈が勝手に帰った。それは言い訳にしかならない。そうさせてしまったのは俺自身だ。そう思うと、俺の言葉はそこで止まった。
「すみませんでした」
俺は両手で、優奈にお兄ちゃんの体を押しのけ、空間を作ってから、深々と頭を下げて、そう言った。
「お前にも、都合もあるだろうし、優奈にも都合があるんだろう。
明日からは俺の仲間をつける事にする」
そう言うと、優奈のお兄ちゃんは俺に背を向けた。
「待ってください。
岡本さんは、岡本さんは?」
「優奈を襲ったのが、あの力を持つ者なのかどうかは分からないが、近くにいた男に撃退されたそうだ。そのまま逃走していて、今は捜索中だ」
「あの力は?力で襲われはしなかったんですか?」
「らしいな」
俺の脳裏に岩下が下校途中の俺たちを襲おうとした時の事がよみがえってきた。あの時も、力が使えなかった。
「実は岩下に襲われた日、下校途中にもあいつは襲ってきたんです。あの力で」
優奈のお兄ちゃんの目が見開いた。
「でも、力が使えなかったみたいなんです。
もしかすると、岡本さんの家の付近で力が使えないんじゃなくて、岡本さんに力が使えないんじゃないでしょうか?」
「岩下の話は本当か?
だとすると、お前はいいところを突いた。正解は優奈のいる近くでは力が使えないだがな」
優奈のお兄ちゃんがにこりとして、俺に背を向けて、立ち去って行った。
優奈の近くではあの力が効かない。確かにその考えるのが正解だろう。でも、それはなぜなんだ?
そう言えば、あの事件の時も?
あの事件もやはりこの謎の力の仕業なのか?
いや、あの時は優奈も生死をさまよっている。
分からないじゃないか。
俺はいらいらした気分で、頭の髪の中に手を入れて、わさわさと激しくかきむしった。
次の日から優奈の登下校はどこかの組織の人が守る事になった。おかげで、俺は毎朝、優奈の家の前で立つ事から解放されたが、教室でも無視され、登下校も別々で、優奈との関係を修復できずにいた。




