優奈のお兄ちゃんの目的
強くなった夏の日差しが俺の頬を照らしている。白い半袖シャツの袖からはみ出した俺れの腕が、じりじりと焼け焦げていくのが感じ取れる。
「まだかよ」
そんな思いで俺は優奈の家の前で、優奈が出てくるのを待っている。久しぶりだ。こんな普通の日が戻ってきたのは。
優奈の家のドアの向こうに人の気配を感じた。優奈なのか?また優奈のお兄ちゃんなのか?俺は一瞬身構えた。
「いってきまぁす」
優奈の声だ。一気に俺の緊張感が緩んだ。玄関のドアが開くと、白い夏のセーラー服姿の優奈が姿を現した。俺を見つけた優奈の顔が、嬉しそうにほころんだ。
「翔くん。久しぶり!」
「おう!」
「寂しかったよぅ」
優奈が全身で、俺に飛び込んできた。優奈の柔らかな体を俺を包み込む。うれしいじゃないか。ちょっと、俺の顔がにやけている。そんな次の瞬間、俺は我に返った。ここは路上である。しかも、朝の通勤、通学の時間帯。辺りには駅に急ぐ人たちがいるじゃないか。俺が辺りを見渡すと、注目が集まっている。俺は慌てて、優奈を離した。
「うん?」
優奈がどうしたのと言う表情で、俺を見た。
「が、が、学校、行かないとな」
俺はそう言うのが精いっぱいだった。
「じゃあ、行こう!」
優奈はそう言って、俺に手をつないだ。
久しぶりの二人での登校。やっぱ、こうでなくっちゃ。
「おじいちゃん家はどうだった?」
「田舎だし、しかも外に出してもらえなかったから、暇で暇で」
「外に出れなかったのか?」
それは暇だろう。どうりで、俺にメールばっか送ってくる訳だ。俺はちょっと反省した。そんな優奈のメールを少し鬱陶しいがった事を。
「一度だけ出たよ。
この機会に検査しましょうとか言って、大きな病院に連れて行かれたんだ」
「まじ?
何を検査したの?」
「色々よ。MRI?とかなんとか言うやつで、頭の中も調べられちゃったよ」
頭の中まで?
それって、変じゃね?
「何か言ってた?」
「ううん。どこも異常なしだって
私がばかな理由見つけてくれて、治してくれてもよかったんだけどね」
優奈は俺の前に回り込み、ちろりと舌を出しながら、そう言ってにこりとした。かわいいじゃないか。俺はこいつが昔のように賢くなくったって、優奈が好きだ。そう。こいつは中1の時にあの事件に巻き込まれるまではずっと賢かった。優奈のお兄ちゃんが賢いように、こいつも賢かったんだ。
「心臓を握りつぶせると言う事は、脳だって潰せるはずだ」
俺の頭の中に、優奈のお兄ちゃんが言った言葉がよみがえってきた。あの事件とこの力に関係がある?
そう思った時、優奈のお兄ちゃんの目的が俺の思考の底にぼんやりと浮かび上がってきた。それが正しいのかどうかなんて、分からない。だが、もし俺の推測どおりだったとしたら、俺は優奈のお兄ちゃんに全面的に協力しなければならない。
「どうしたの?」
俺は首を小さく何度か振って、思考を現実世界に呼び戻した。
「いや。何もない。
行こう」
俺は再び優奈の手を取って、駅を目指した。




