里彩と一緒の教室
天井から舞い降りる白く冷たい光よりも、窓近くの空間は窓ガラスを通して降り注ぐ黄色く温かい日差しで満たされている。かつ、かつと乾いた音が、先生のチョークの動きに合わせて、俺の耳に届いている。この空間に、今は優奈はいない。とは言っても、俺は優奈の事を片時も忘れた事はない。そりゃそうだ。引っ切り無しにメールを送って来るのだから。
今も、俺は視線を机の下に向けて、優奈のメールに返信している。
「俺だって、寂しいよ。いつ帰って来れそうなんだ?」
寂しいのは確かだが、優奈のメールの多さにはちょっと困っている。
俺が送って、すぐに着信があった。
「まだ、分かんないのよ」
そうだろうな。優奈が家に帰れない理由は身の安全を図るためだけではなく、あの力の謎を探るためでもある事を俺は知っている。そして、そのための最後の作戦がまだ終了していないことも。
俺が優奈へのメールを打つため、下を向いていた時、視界の片隅に何か動くものが映った。視線を向けると、消しゴムだ。
俺が横を向くと、若原さんがあっと言う表情をしていた。
スマホを机の中にしまい、俺の足元にまで転がって来ていた消しゴムを手で拾い上げ、若原さんの机の上に置いた。若原さんがにこりとした表情で、俺に言った。
「ありがとう。
何してるの?」
「ちょっと、メール」
「そう言えば、高橋君のスマホって、かっこいい!
ねぇ、ちょっと見せてくれない?」
俺はちょっと目が点になった。かっこいいか?ただのスマホなんだが。それに、何度か見てただろ?俺がそう思って戸惑っていると、両手を合わせて、顔のあたりで拝むような仕草をしながら、首を少しかしげて、俺を見つめている。
かわいすぎるじゃねぇか。
俺はついついスマホを持つ手を若原さんに差し出した。その俺の手を包み込むようにして、若原さんが俺のスマホを掴んだ。腕を組んだ事はあったが、初めて触れた若原さんの手。俺はちょっと頬が熱くなったのを感じた。それが照れくさくて、俺は正面に目を向けた。
黒板に何かを書き終えた先生が、教室を見渡している。俺は机の上に広げていた教科書に目を向け、とりあえず授業を受けている態度をとった。
教科書をぼんやりと見つめて、しばらくすると、俺は右腕をつんつんされた。振り向くと、若原さんがにこりとしながら、俺のスマホを手にしていた。
俺が受け取ると、にこりとした。
マジやばい。
離れている優奈から、近くの里彩に俺の本能が揺らぎそうじゃないか。俺はそんな想いを隠したくて、素っ気ない素振りで、スマホを受け取った。その時、俺は指先に違和感を感じ、スマホを裏返して、その裏側を見た。
そこにはハートと星のシールが貼られていた。かわいいじゃねぇか。もしかして、これを貼りたくて、あんなことを言ったのか?
俺は自分の顔がにへらとしている事に気づき、スマホを机の中にしまって、まじめな顔を作って、正面に目を向けた。




