飯田と二人っきりの部屋
俺はくらくらとめまいがした。飯田に恐怖したのか?俺が自分の情けなさに嫌になりかけた次の瞬間、視界が一気に明るくなった。
白い蛍光灯が照らし出す、白い壁に囲まれた空間。
俺はバランスを崩し、後ろに倒れそうになった。そんな俺の腕を掴み、支えようとする飯田。それでも、俺はしりもちをついてしまった。
「大丈夫?」
俺はしりもちをついた状態で、辺りをうかがった。ここはこの前来た、飯田の教団本部である。少し離れた場所で、長堀がちょっと驚いた顔つきで、俺たちを見ている。
「処分は無事終了されたのですか?」
長堀が俺たちの所に足を向かわせ始めながら言った。そんな長堀にちらりと視線を向け、軽く頷いただけで、飯田は俺の手を引っ張って、俺を立ち上がらせた。
飯田がそのまま俺の手を引っ張って、奥に歩き始めた。俺は手を引っ張られ、なすがままその後を追って行く。先日俺たちが腰を掛けたソファを通り過ぎたところにドアがあった。
飯田がそのドアを開けて、中に入って行く。飯田が照明をつけると、そこはとてつもなく広い和室だった。俺が今まで見たことのある和室は6畳が最大である。その部屋が何十部屋入るんじゃねぇかと思うほど広い。
その部屋の奥の壁の真ん中には広い床の間があって、「神」と達筆な筆で書かれた掛軸がかけられている。そんな掛軸を背後にして飯田が座り、あの力を見せつける姿を想像すると、こいつを神と信じそうになるじゃねぇか。
こいつは俺をそう思いこますために、ここに連れて来たんじゃねぇだろうな。俺はついついそんな思いに取りつかれながらも、飯田に引きずられるように、床の間近くまで進んで行った。
床の間近くにたどり着くと、飯田は掛軸を背後にして座り込むのかと思っていたが、横向きに座って、俺をその前に座らせた。向き合う二人。主人の場所は空席のままだ。
「僕の力知りたいんだったよね?
教えてあげるよ」
俺はぎこちなく、その言葉にうなずいた。マジなのか?それとも、本当はそのまま襲ってくる気なのか?襲ってこられれば、俺を待っいるのは死しかない。もうまな板の上の鯉である。
俺は飯田の真意が分からぬまま、身構えていると話してくれた。飯田が持つ力を。
俺はその力に愕然とした。
人の心臓を握りつぶしたり、首を切ったりする事は誰もが知っているし、この前、心や記憶を読まれたので、その力がある事も判明した。そして、今瞬間移動をやってのけた。それも、自分だけではなく、この俺を連れて。
ある一定の範囲にあるものの存在を探る事もできるらしいし、当然物を触らず移動させることや、発火させる事すらできるらしい。一番驚いたのは時間を遡れる事だった。
そこまであると、まるで神じゃないか。
ただ、話ではある日を境に、それ以上遡る事ができないらしい。その日は、あの綾菜たちを殺めた日のようだ。
俺はミッションを一つクリアした事になる。この事を記憶からこぼさず、優奈のお兄ちゃんに報告しなければならない。はっきり言って、こぼす事などあり得ないほどの衝撃的な事実である。
「いつから、こんな力を使えるようになったんですか?」
俺は何だか与えられたミッションを次々こなしていけそうな気分になってきた。飯田と言う男はそんな危ない性格でもなさそうな上に、理由は分からないが俺に好感を抱いていてくれそうな感じじゃないか。
俺の問いかけに、飯田が首をかしげて、渋い顔をしている。
「うーん。
それは僕にも分からないんだよね」
嘘?そんな可能性だってあるが、俺は嘘ではないと感じた。て言うか、話から言って、綾菜たちを殺した日に力を得たんじゃね?
「じゃあ、どうして綾菜たち。いえ、最初に高校生4人をあんな惨い殺し方で、殺したんですか?」
俺はそこに、この力の秘密につながるものがあるんじゃないかと思って、聞いてみることにした。
「あいつらは悪い奴なんだ。
女の子を騙して襲ったんだ。
そんな奴ら、殺して当然だろ?」
それはそうだ。そんな奴は殺して当然だよ。俺は思わず頷いたが、そもそもどうして、そんな事をこいつは知ってる訳?
「あのぅ。一つ教えてもらっていいですか?
どうして、そんな事知っているんですか?
それに綾菜って子いたと思うんですけど、どうして女の子が関係あるんですか?」
そう言った時、飯田の顔つきが変わった。
「だまして陥れ、乱暴されているところを、見下ろして笑ってた。
許せない。特にあいつは許せない。
あいつらは殺してやりたいくらい、憎い」
いや、もう殺してるし。そんな思いが一瞬よぎったが、そんな事を言っている場合じゃねぇ。飯田の表情は今までとは打って変わっている。
綾菜が誰を陥れたと言うんだ?
話しからして、騙されて乱暴されている女の子を綾菜は見下ろして笑っていた事になるが、その女の子とは誰なんだ?
どうして、そんな事をこいつは知っているんだ?
「そうだろ?
分かってくれるだろう?
高橋君」
思考が迷路をさまよっている俺に、飯田は身を乗り出して語りかけてきた。
目の前にいるのは謎の力を持つ男。
そんな男と二人きりの空間。
それも、相手の本拠地。
その男はほんの少し前、怒りと憎しみが入り混じった表情で、感情を抑えきれていない風だった。
こんな状況で、こいつの言う事を否定できる奴なんか、この世界にいる訳はない。俺なんて、もちろん否定する勇気なんて雲散霧消している。
「はい。
分かります」
思わず、元気よくそう言って、肯定してしまった。
とりあえずだ。かなりの収穫だ。そう思っていると、俺たち二人だけの空間を作り上げていたドアが開いた。そこに目を向けると、少し怒った顔つきで、鍵山がどたどたと足音を立てながら、部屋の中に入ってきた。




