俺はこの力の源を許さない!
開け放したままの窓にかけられたカーテンが時折揺れ、外の生暖かい風が部屋の中に入って来る。俺は湿気が多く暑い夜の寝苦しさに、ベッドの上で寝返りを打った。体の上にかけていた薄いタオルケットが、俺の足元で丸まっている。
「何をしている」
俺の寝ぼけた頭の中に、怒鳴り声のようなものが響いた。
何があったんだ?
俺の意識が一気に覚醒に向かい、俺はベッドから飛び起きた。
聞いたことの無い声。家の中ではない。外?
全神経を耳に向けて、外の様子をうかがった。低い男のうめき声のようなものが聞こえてきた。
俺は慌てて窓に向かった。その時、何かが崩れ落ちるような音が耳に届いた。
俺はカーテンと窓を開け、身を乗り出して外をのぞいてみた。
俺の部屋の窓から見渡せる世界なんて、ほんの知れた狭い範囲でしかない。そこからは何も見えやしなかった。
何だったんだろう?
そう思いながら、おれがベッド戻ろうとした時だった。
「おい!
大丈夫か」
ドアが開くような音に続いて、聞き覚えのある声がした。優奈のお兄ちゃんの声だ。
何かあったに違いない。優奈の家はあの日以来、警察が見張っていた。その警官に何かが起きたのかも知れない。俺はパジャマ姿のまま、部屋を飛び出して、外を目指した。
「誰か、救急車を呼んでくれ」
優奈のお兄ちゃんの叫ぶような声が、家の中まで届いた。
俺は家を飛び出して、様子を見た。
月明かりと街灯が照らしだすほんのりとした空間で、優奈のお兄ちゃんが地面に倒れている制服姿の警官に、心臓マッサージをしている。
「救急車ですね」
俺はそう言って、家に戻ると救急車を呼んで、再び外に出た。
「何があったんですか?」
「俺が駆けつけた時には、かすかに意識があった。
この者が言うには、襲ってきたのはあの力を持つ者らしい」
俺の顔から血の気が引いた。
「この場所では使えないのではなかったんですか?」
「ああ。この前はな。
今は違う。その理由を確かめるため、色々な事が試されている。
いずれ、君にも協力してもらわなければならない」
「まじですか?」
まだまだ何かをやらされるのかよ。俺がげんなりしていると、救急車のサイレンが聞こえてきた。救急車から降りた救急隊員が、倒れている警官のところに駆け寄ってきた。優奈のお兄ちゃんが心臓マッサージを救急隊員に引き継いで、立ち上がった。
救急隊員たちが倒れている警官の脈拍、瞳孔、呼吸を確認している。
助かるのか?
俺がじっと見つめていると、パトカーのサイレンが近づいてきた。
「いいか。
飯田をこの場所から遠ざける作戦が始動している。
協力しろ」
優奈のお兄ちゃんが倒れている警官を見つめたまま、俺に顔を向けずに言った。
「俺はこの力の源を許さない」
はい?
意外なその言葉に、俺は優奈のお兄ちゃんの横顔を見つめた。
あの力を支配するのが、組織の目的なんじゃなかったのか?
俺はその事を聞こうかと思ったが、優奈のお兄ちゃんの鋭い目つきが、その隙を与えてくれなかった。
俺は赤色灯が周期的に赤く染める優奈のお兄ちゃんの横顔をただ見つめていた。




