かわいすぎる転校生
南側の一面の窓ガラスから近づく夏を予感させる日差しが差し込んでくる。俺は夏の高校野球地方予選に備えた部活の早朝練習で上昇した体温が未だ下がり切らず、下敷きで扇ぎまくっている。俺は自分のことで精いっぱいだが、俺の周りは俺の横に新しく置かれた空机の事で騒がしい。
「ここに転校生か何かが来るってこと?」
「普通なら夏休み明けなんじゃね?」
「て言うかさ、何でここに割って入る訳?
私の机、後ろにずらされてるんだけど」
「だいたい空いている机あるじゃねぇか。
このクラスには4つも」
4つだと?優奈の机も入れるんじゃねぇ!
そう言って騒いでいる奴らは俺の視界の中に入ってはいるが、暑くてたまらない俺はそんな事はどうでもいい事だ。まぁ、あえて言うなら、本当に転校生が来ると言うのなら、かわいい子がいいな。その程度だ。
どうせ、その答えはすぐに出る。
そう思っている内にチャイムが鳴った。とりあえず立ってぶつぶつ文句を言っていた奴らも、自分の席に戻って行った。
そして、みなが待っていた答えが明かされた。
ちょっと脂ぎった四角い顔。細いと思われる髪を七三にぴしっと分けたスーツ姿の担任が、教室のドアを開けた。皆の視線は担任なんかに向かわない。その後ろに視線が集中した。何もない空間。それから少し遅れて、女の子が現れた。
背は高い!担任と比べても、それほど変わらない。170cmはあるはずだ。クラスの中がざわめき始めた。それはその子が背が高いと言うだけではない。
髪の色は明るいブラウン。そして、鼻筋の通り方は純粋の日本人でない事を表している。大きな瞳はブルーっぽく、はっきり言って、美人とはこう言う子を言うんだろう。俺も食い入るように、その子が歩いて教室に入って来る姿を見ていた。
視線を上から下に。背中まで伸びたストレートのロングヘアー。胸のふくらみは顔を埋めたいくらいあるじゃねぇか。それでいて、腰のあたりのくびれは横から見ていても分かる。スカートからのぞく黒のハイソックスに包まれたふくらはぎもいいラインをしている。
この子が俺の横か!これはラッキーじゃねぇか。ちょうど、優奈もいないし。
「起立。礼」
「おはようございます」
「着席」
ざわついていた教室に静けさが訪れた。皆の視線は担任の横に立っている少女に集まっている。
「今日はみんなに転校生を紹介する」
その言葉に、視線は一旦担任に向かった。この子の事を知りたい。そんな思いで、担任が何を話すのか注目している。
「えー。今日からみんなと一緒に勉強することになった若原里彩さんだ」
そう言って、黒板に若原さんの名前を書いた。
「若原さんのご両親は仕事の関係で、急に日本に来ることになり、里彩さんも我が校に通う事になりました」
「おぉー」
男子たちの歓声があがった。日本人離れしている感じだったが、ハーフか何かなんだろう。もっとも、名前は完全に日本人だが。
「私は若原里彩です。
日本の生活の事は詳しくありません。色々お世話になるかも知れないけど、よろしくね」
そう言って、ウインクした。男子生徒たちの歓声は学校を揺るがすほどになっているじゃないか。
「えっと。
若原さんの席は、あそこだ」
担任が俺の横の机を指差した。やっぱり、ここだったんだ。ラッキーじゃねぇか。ゆっくりと髪をなびかせながら歩いてくる若原さんに男子生徒ばかりか女子生徒たちの視線もロックオンしている。若原さんは机の上に鞄を置くと、俺の方に向いて、にこりとしながら言った。
「よろしくね」
「お、おう」
とんでもない事に巻き込まれている俺だが、何だかかわいい女の子には縁があるじゃねぇか。そう思うと、ちょっとハッピーな気分になっちまう俺って、単純なおばか?
「若原さん。教科書が揃うまでは、横の者に見せてもらうように」
緊張の瞬間がやって来た。若原さんの向こうに座っているのも男子生徒 山下。これが女子生徒なら、若原さんは俺ではなく女子生徒を選ぶに違いない。しかし、男子生徒二人なら、若原さんが選ぶのはきっとより好みに近い男子生徒のはずだ。
それは俺なのか?
「はい。分かりました」
若原さんが言った。俺は机の下、膝の上で両手の拳を握りしめ、緊張に耐えながらも、自分が有利になるよう、若原さんににこりとしてみる。
若原さんがそんな俺に目を向けた。
「えっと」
「俺は高橋。高橋翔」
名前を聞きたいんだ。そう思った俺が自分の名前を名乗った。
「高橋君ね。
ねぇ、高橋君。教科書見せてもらってもいいかな?」
若原さんがそう言いながら首を少しかしげると、長い髪が少しなびいた。シャンプーか石鹸か分からないが、甘い香りがほんのりと俺の鼻をくすぐった。
昨日の大人の女性二人に比べ、高校生の俺には清楚な香りに感じられた。俺はこっちの方が好きだな。俺は気分が浮かれ気味になり、かっこつけて英語で答えてしまった。
「Sure」
本当に俺って、お調子者。
「ありがとう」
若原さんがにこりとしながら言った。
山下に勝ったぜ!
俺はそう思い、机の下でガッツポーズをしてしまった。
俺は授業中、幸せだった。こんなきれいな女の子と近づいた状態で、勉強できるんだから。いつもなら、勉強なんてする気にならないが、若原さんの隣と言う事だけで、勉強しているふりをする気にはなる。俺はまじめに勉強しているんだ。そうアピールした方がいいに決まってるじゃないか。
そんな俺の気分を打ち破る小さな振動音が机の中でした。
優奈?
そう思いながら、若原さんの視界から隠すようにスマホの画面を見た。
「何よこれ!」
メッセージはそれだけだったが、画像が添付されているじゃないか。
俺と若原さんを背後から撮った写真。しかも、俺の上半身が傾いて、若原さんに接近しようとしている瞬間。そこにハートマークを書いていやがるじゃねぇか。
俺が少し怒った顔で振り返ると、何人ものクラスメートたちがにやりとしやがった。俺は慌てて、優奈に返事を返した。
「たまたま横に座ることになった転校生に教科書をみせているだけじゃないか」
机の下で隠れるようにスマホを操作する俺に、若原さんが小声で話しかけてきた。
「どうしたの?」
「いや、はは。ちょっとね」
そう言って、にこりとする。そんな俺に若原さんもにこりとしてくれた。親密度が上がったんじゃね?
ちょっと、そんな気分の俺だった。




