心を読まれた?!
まずいじゃないか。
この男の言っている事には客観的に見ても、一理ある。俺の立場から見たら、図星な訳だし。
豊島は俺に視線を向けている鍵山に、話を続けた。
「ここに潜り込まそうとする内部の人間もいたりして」
豊島の視線が長堀に向かう。それにつられるかのように、鍵山の視線も長堀に向かった。
「いやぁ。何か誤解されてませんか?
俺、ここに来たいなんて、一言も言ってないし。
そもそもに来たい訳無いんだし」
豊島と鍵山はちらりと俺に視線を向けて、すぐに長堀に戻した。
「豊島。
それって、私を疑っているって事よね。
あなたにとってみれば、私は排除したいんだもんね」
ここの組織の内部事情は分からないが、どうやら長堀の方が豊島より上で、長堀を邪魔だと思っているらしい。
俺があたりに目をやってみると、他の者達は二人に視線を向けて、黙って見つめているだけである。 きっと、どちらにもつけず、成り行きを見守っている。そんな感じじゃないか。
この作戦は失敗なんじゃね?
としたら、俺はどうしたらいいんだ?
まさか、スパイとして殺されたりはしないんだろうな。
ちょっと心配じゃないか。
少しでも俺が生き残る可能性を高めるには、俺はここには興味なんかねぇとみんなに印象付けるのが一番なんじゃね?
「えーっと、何か誤解があるみたいだから、もう俺、帰ります。
さっきも言いましたけど、ここに来たいなんて言っていませんし、思っていませんので」
そう言って、俺はさっき来た道を戻り始めた。もうすぐで、この部屋のドア。そう思った時、ドアが開いた。
「麻代さんが帰って来たんだろ」
太い黒縁の眼鏡。センターで分けた前髪がその額を隠している。飯田だ!
俺は飯田に進路をふさがれた。相手はあの力で、人を殺せる奴だ。しかも、政府から殺人の許可をもらっているような奴だ。
俺は慌てて横にずれて、進路を開けた。
この教団の信者たちはみな白の装束に身を包んでいる。俺は高校の制服である。いかにも、よそ者。そんな俺に、飯田が目を向けた。
「おたくは誰?」
きょとんとした表情に、ちょっと抜けた感じの話し方。はっきり言って、畏怖を感じさせやしない。いや、そのくせ、あの力を持っているんだから、よけい不気味か。
「あ、いえ。偶然、関わりがあって、ここに来ただけで、今から帰るところです」
「ちょっと待ってくれない。高橋翔君」
背後から、長堀の声が聞こえた。俺の名前を飯田にアピールしないでくれよ。俺がそう思った時、飯田の表情に変化があった。
「君が高橋 翔君か」
俺はびびった。その言葉は俺の事を知っていると言うことなんじゃね?
優奈を憎む飯田の事だ。決していい意味で、俺の名が知られている訳ねぇじゃんか。俺はびくっとなって、背筋を伸ばして、顔をひきつらせながら飯田を見た。
飯田は目を閉じているじゃねぇか。何かの力を使っているのかもしれない。俺は一歩後ずさりした。状況を知りたくて、俺は長堀に視線を向けた。
部屋の中を緊張感が満たしている。長堀は俺ではなく、飯田をじっと見つめている。そんな中、近づく足音を背後に感じ、振り向くと鍵山が俺のすぐ背後まで来ていた。
「本当だ。
あの高橋君だ。
うれしいなぁ。僕のところに来てくれて」
そう言って、突然飯田は俺の手を握りしめた。
「は、はは」
俺は引き攣りながら、愛想笑いするのが精いっぱいだ。状況がまったくのみこめていない。綾菜を殺した殺人犯であり、とんでもない力を持つ不気味な男に手を握られていると言う事実以外、俺に分かるものなどなかった。
「何をしたの?
この子を知っているの?」
俺の前に鍵山が割り込んで、飯田に言った。鍵山の方が上。そんな物の言い方だ。飯田は鍵山に隷属している。優奈のお兄ちゃんの言った言葉が俺の頭の中に甦った。どうやら、本当らしい。
「この子の心の中から、記憶を読んだ。
大和塩見高校2年の高橋翔君」
俺は目が点になった。こいつが人の心を読めるなんて、聞いてねぇし。
もしも、もしもだ。これが元々知っていたんではなくて、本当に今心を読んだんだとすると、俺がここに潜り込もうとした事も読んだに違いない。計画は失敗どころか、命が危ないじゃねぇか。俺の背中を冷や汗が伝った。額にだって、汗が噴き出している。




