疑いの目!
建物の中の入ったところはこれが玄関なのかと言うほど広い。壁に沿って設けられた下駄箱は学校のものかと思うほどの靴が並んでいる。それだけ、この建物の中に信者たちがいるのだろう。
建物の中も、今まで見た事のない広さだった。廊下の左右に並ぶ多くとの扉。一体いくつ部屋があるのか。そう思いながら、俺は二人の後をついて行く。
やがて、鍵山が一つのドアを開けて、中に入って行った。
長堀が俺の方に振り向き、中に入るわよと言う感じで、その部屋の中を指さした。
緊張するじゃねぇか。
俺は本心ではこの飯田や鍵山が嫌いである。何しろ、綾菜を殺した張本人じゃないか。優奈のお兄ちゃんの言葉を借りれば、それすらこの力の源がやらした事かも知れないが。全く、どうしてただの男子高校生の俺が、こんなスパイみたいな事をしなきゃいけないんだ。
俺が二人が入った部屋に足を踏み入れる。
そこは広い部屋だった。並んだ机に向かって、白装束の人たちがパソコンで何かをしている。そして、部屋の一角には立派な応接セットが置かれ、革張りのソファの先には大きな液晶テレビが置かれていた。その空間に宗教色はなく、どこかの企業の事務室と応接室が一体化した部屋のようだ。
鍵山はソファに向かっている。長堀は俺にそのソファを指さしながら、近くにおいてあった電話に手をかけた。俺は鍵山の後を追うように、ソファに向かった。
鍵山が疲れた表情で、ソファに腰掛けた。俺はテーブルをはさんだ向かいに腰掛けた。俺の耳に長堀の声が聞こえてきた。
「いいですか。
今回の発砲事件の現場から立ち去った二人の女性と男子高校生は、私たちの関係の者です。
この件に関し、関与したくはありませんので、警察が動くのを止めてください」
話から言って、相手は警察を制御できるほどの者らしい。国家の上層部か何かかも知れない。そんな相手だと言うに、長堀の口調はきつい。この教団と政府の力関係を示しているんだろう。
危なげな話に、長堀の近くの机に座っている教団の者達が顔色を変えて、長堀を見つめている。
「はい?
何を言ってるんですか。
そんな普通の犯罪者まで、私たちに何とかしろと言うつもりですか?
普通の犯罪者を取り締まって、治安を保つくらいの事はしてもらわないと困ります!」
少し怒り気味の口調になって、長堀が電話を切った瞬間、近くにいた信者たちが立ち上がり、長堀を取り囲んだ。
「何があったんですか?」
「あれはきっと、神龍興業の生き残りね。
その男に銃を向けられたのよ」
「銃ですか?」
部屋の中は騒然となった。その場では怯えていたはずの鍵山が、それがどうしたと言う雰囲気で、ソファにどかっと座ったまま腕組みをしている。
「お怪我も無かったんですか?」
「あの子が助けてくれたのよ」
長堀が俺に視線を向け、そう言った。部屋の中の人たちの視線が俺に突き刺さる。
「なので、連れてこられたんですね」
「そう。
理由は三つよ。
一つは礼もしないまま返す訳にはいかないでしょ。
二つ目は、さっきの電話と関係があるんだけど、あの子、私たちの素性に気付いていたのよね。それだけに、あの場に残しておくと、面倒だしね。
三つ目は、この子の勇気が気に入ったので、私の小間使いにしようかと思ってね」
「なるほど」
長堀を取り囲んだ人たちが頷いている。
そんな中、一人の男が俺に向かってやって来た。細い顔、眼鏡の奥に光るキツネ目。年は30代くらいだろうか。
「鍵山様。
今の話は間違いないですか?」
「そのとおりよ。豊島。
それが何か?」
男の名前は豊島と言うらしい。豊島は俺に猜疑心いっぱいの視線を向けてから、鍵山に視線を戻し話しはじめた。
「変だと思いませんか?
銃を持った男から、こんなただの男子高校生がお二人を守られた。
銃を見ただけで、逃げ出すのが普通でしょう」
「何が言いたいの?」
「そのやくざ者とこの子の猿芝居なんじゃないかと」
「つまり、ここに潜り込むために?」
鍵山の表情が変わった。俺に睨むような視線を向けてきた。




